2019年現在までの韓国ヒップホップおすすめ20曲
選定期間:2018.12.01~2019.03.31
Q. なぜわざわざ今なの?
A. もうすぐ母国の軍に入隊するんで…
Q. お前、今年出たやつそんなに聴いてないだろ。
A. すみません…
Q. あとお前、序文書くのめんどいんでしょ?
A. Exactly.
では、さっそく。
20.
Young B 「Buisness Class (feat. JUSTHIS)」
Prod. Blish
99年生の若いラッパーYoung Bのファーストアルバム『Stranger』は多くのヒップホップファンに高評価されています。(僕は個人的にそこまで好きではないですが。)Emo-Rapが主のアルバムのため、ラップスキル展示が特徴であるこのトラックはアルバム全体の色に合わないかもしれませんが、ビートもダンサーブルで、Young BとJUSTHISのラップを楽しむには一番のトラックであると考えます。
日本語も上手い
俺の言語の才能は
この世のものじゃない
だから俺がお前のお父さん
- JUSTHIS
19.
Hi-Lite Records 「Air」
Prod. Yosi
新年を記念するHi-Lite Recordsの団体曲です。ヒップホップ特有の団体曲文化がどんどん消えていく中、少なくとも韓国のラップシーンで今現在それを一番いいもので出す団体があるとしたら、やはりHi-Liteという気がします。『高校ラッパー』番組出身のジョ・ウォンウのHi-Lite契約以降初の参加でもあります。
名盤を出しても論争になって
放送に出て曲をチャートにあげても
Hi-Liteがどうだ、ヒップホップがこうだ
すぐ文句言うざま、no love
- Paloalto
18.
JuniorChef 「Pop Star (feat. J $tash)」
Prod. JuniorChef
Keith Apeの「It G Ma」で世界的に注目されるプロデューサーに成長し、以降Jay Park、KOHH、Marshmelloなどと作業をしながら国内外で認知度を上げていくJuniorChefが、今度はJay ParkのレーベルAOMGと手を組んでシングルを出したと聞きました。機械的でカルト的な特有の中毒性のあるメインメロディの上で、J $tashが愉快に「Pop Star~」とフックを掛ける姿が印象的です。たぶん一番アメリカの感性に近いものかなと考えます。歌詞は…えーと…諦めましょう…。
Feel like a pop star
I fuck your bitch like a rock star
- J $tash
17.
MUNCHEESE 「Lac Lac」
Prod. O'NUT
ラッパーHwajiとWutanのコラボプロジェクトMUNCHEESEのEP『You had to be there』は、旅行のチルな雰囲気でいっぱいです。特にこの曲は、ファンクをメインとし、無限でありつつも情熱的な米西部の夏気分をプレゼントします。(妙に具体的な感想ですが全く行ったことないです。)何よりもHwajiのキャッチ―なサビと旅に出たくなる歌詞が素晴らしいです。
気持ちいい夜、君と俺の Cadillac
俺の lac lac ネオンの間にペダルを下げて
あ、何でこんなに短いんだ、この Saturday
ちょい道開けて走らせてくれるかい?
- Hwaji
16.
CHOILB 「新入生歓迎会!」
Prod. dnss
CHOILBのファーストアルバム『オリエンテーション』の門を開く最初のトラック「新入生歓迎会!」は、本当に新歓の飲み会の様子をダムダウン(Dumb-Down)した歌詞を通して丸ごと見せます。それが全く深いと感じられない理由は、ヴァースで少しずつソースを軽く積み上げ、サビでシンスとコーラスが気持ちよく爆発するサウンドの影響ではないでしょうか?ヴァース1では新入生の観点から、ヴァース2は先輩の観点から書かれたこのトラックは、アルバム全体のストーリーの装置としても、トラックそのものとしても魅力的です。
二十歳まで酒・たばこなど口にもあててない
CHOILBはいま大学に入って
すべてが珍しくて面白そうだったのさ
- CHOILB
15.
WOOGIE 「Welcome To Seoul (feat. Ugly Duck, pH-1, Jay Park)」
Prod. WOOGIE
プロデューサーWOOGIEのソロアルバムプロジェクトはバンドサウンドが主になっていて、すごくお気に入りです。この曲ではブルージーな感じのベースとドラムでラップしやすいループを作り、時々入ってくるギターが雰囲気を喚起し、サビではそのギターがソロに出ると思ったら、いいところで止めて次のラッパーにバトンタッチする構成が素晴らしく感じられます。Jay Parkの下で出てくる曲では一番韓国的なノスタルジーサウンドを駆使する曲だと思います。Ugly Duckが最初のバッターとしてラップしだす瞬間、ラップソングとしての快感は保証されます。
この特別市(ソウル)では目開けていても鼻をとられるとさ
幸い俺は笑顔が得意でそれが武器
- Ugly Duck
14.
punchnello 「Absinthe」
Prod. 0channel, 2xxx!
パンチネロの初ソロEP『ordinary.』はさっぱりしたプロダクションの間に潜んでいるユニークさが印象的でした。「Blue Hawaii」のような曲はもっとさっぱりで、チルで、キャッチ―だし聴きやすいですが、「Absinthe」の過度なディストーションと共に怒りを表すトラックは彼からあまり見れなかったトラックであり、聴くのに不便でも異質的であるためぜひ言及したいと思いました。
理解できない?それはお前の問題
全部殺しちゃうのが楽な時代だ
- punchnello
13.
Shirosky 「Girls On Film」
Prod. Shirosky
ジャズヒップホッププロデューサーShiroskyのアルバム『The Seed』に収録されています。ボーカルもいない2分足らずのトラックですが、自分的にアルバムで一番好きなトラックです。割と電子音の比率が高いサウンドが好みでもあるし、ブリッジで厚いベースを通じてリアルバンドサウンドに自然に転換する支点がすごいと思いますし。このアルバムも上半期注目のアルバムなんで、軽くリラックスなヒップホップサウンドを求める方はぜひどうぞ。
12.
Hwaji 「Getaway」
Prod. eggu
こんな厚く打撃感の強い808ベースが、こんなにジャジーだったとは。グルーブ職人のHwajiがこういうビートを生かすにはまた選手ではないですか。前作を通じて「21世紀ヒッピー」というイメージを表した彼は、今年出たアルバムでは実質的な逃避行に移ります。その逃避の嚆矢的なトラックですが、それに関するでかい意味付与をせず、まるで当たり前なステップであるように自然に旅を進める態度が印象的です。全英語歌詞のトラックなので、言語的な障壁もないです。あ、自分が英語下手だった…。
Metal fragments in the air,
let's get the fuck up outta Seoul
- Hwaji
11.
Uneducated Kid 「Now (feat. Okasian)」
Prod. Heat On Da Beat
ギミック一つでヒップホップシーンを揺らしているUneducated Kidと、シーンのトレンドを昔からセットしてきたレジェンドOkasianが出会い、成したシナジーは想像以上でした。「すぐ、すぐ、全部持って来い、すぐ」と、今現在の物質に対する欲望を宣言するイントロを過ぎ、Okasianの声が出る瞬間は快感すら感じられます。パフォーマンスの面でOkasianのアウラはすごいですが、Uneducated Kidも「I don't need no fame, I just want some cash / 俺は今すぐじゃないと音楽なんてやらないさ」「GUCCI CHANEL MONCLER 全部バッグに入れる / おばさんたちは俺を見て気絶寸前さ」などのキーリングラインで追いつきます。とにかくすごく中毒的で印象深い曲なのは間違いありません。
俺はリッチもしくはリッチまたリッチ
金で苦しんだのだから笑おうぜ
隠れよう、俺がリッチになる日に
一緒にカギ閉めて隠れよう
- Uneducated Kid
10.
cjb95 「SLIP SLIDE FALL (feat. Kim Ximya)」
Prod. cjb95
アヴァンギャルドなヒップホップユニット「XXX」のラッパーKim Ximyaのとがった歌詞を支えるには、ビートも鋭くないといけないのでしょうか。この曲で初めて知ったプロデューサーであるcjb95もここで(リタラリーな意味で)オルタナなビートを作り出します。サンプルが金属製な音がするため一次に攻撃的に聞こえますが、聴いて見るとジャズのソースを加工していて、意外とグルービーなことがわかります。緊迫感とグルーブを同時に掴むプロダクションと、メインストリームに対する攻撃性を隠さないKim Ximyaのラップが素晴らしく調和します。
楽に稼ごうぜ
儲けるのがいいんだよ
曲作りなんて無意味
俺らはただ歌うせがれ
- Kim Ximya
9.
zamiang 「沈香舞 (feat. スリュ)」
原曲:Hwang Byung-Ki 「沈香舞 2,3章」
zamiangのミックステープ『chosvn』は、伽倻琴(カヤグム、もしくは「新羅琴」)匠人のファン・ビョンギ先生の創作伝統音楽の原曲をそのまま用いてラップをするという型破りの実験作です。それによる反応も両極端に分かれたのですが、それでも「試しそのものが新鮮」という言葉で十分に価値を定められるほど、過度なディクションなどの批判を超えて、韓国ヒップホップでの伝統音楽ソースの新たな用い方を提示した意義があると考えられます。
やからの画幅が
四君子だと、狂ってるぞ
稚拙な春画にも至らず
見せられるものに傑作はどこだ
全部野蛮な真似事だらけ
- zamiang
08.
Balming Tiger 「Armadillo (feat. Omega Sapien, Byung Un)」
Prod. Unsinkable, No Identity
Byung Un(現在は「ジャン・ソクフン」という本名で活動を開始した)のBalming Tigerクルーでの最後の曲なのがただただ切ないです。どこかオルタナチックな曲もそうですが、日本で撮られたMVでのBalming Tiger特有のカルト性はもっと濃くなっていたため、これからパフォーマーとしての彼の不在は惜しいと思います。しかし、クルーのもう一人のパフォーマーOmega Sapienが「Rich & Clear」で見せたポテンシャルを実らせ、看板パフォーマーの座のバトンタッチを完璧にやり遂げます。曲の話をすると、メインコードもなく、メロディを排除しながらもセンス良く変奏していき、二人のパフォーマーがヴァースをやり取りしていく構成に緊張感を与えるのが素晴らしいと思います。おい、88rising…、ただ見てないで、行動に移せよ!
Spicy bibim boppity boo, while you were setting up your bluetooth
We make visit to google and youtube like
- Byung Un (Jang Suk-Hun)
07.
FRNK 「Manshin」
Prod. FRNK
XXXのプロデューサーFRNKを含めて、8人のプロデューサーが参加したコンピレーション『Red Bull Music Seoul Sori』は、現代大衆音楽の作法と韓国伝統音楽の音の調和を図るプロジェクトでした。FRNKはここで、ただその音を用いてどういたずらするか考えているように聞こえます。絶対伝統音楽のBPMでもないし、かといってラップにふさわしいBPMでもない!有名な巫女先生のインタビューをサンプリングし、それすらもスピードとピッチをいじってまるで厄払いをしているみたいに感じさせる部分においては、もうただただ感嘆を吐くだけです。またしてもFRNKの興味深い実験作でした。
06.
Futuristic Swaver 「Runnin' Up A Check」
Prod. Laptopboyboy (Futuristic Swaver)
内心もっと高い順位にあげたいくらい、すごく好きな曲です。割と抒情的なトラップビートに、それとは対照的な強めの歌詞が予想外によく調和します。これが収録された『BFOTY』アルバムは、トラップアルバムでありつつ別れの話をトラップの文法に合わせて表した秀作です。この曲はそのアルバムの最後の傍点を打つ曲で、成功談と別れ話を統合しただけでなく、これを通じてキャリアを通して積み上げたナードの成長話にも大きな分岐点及び宣言になる曲になるでしょう。また、その成功談が典型的な「ラップスター」のイメージではなく、アンダーグラウンドのプロデューサーとしての些細なライフスタイルを照らすというところで重要な曲だと考えます。
わけわからない俺の現実
くだばろうかと考えてたやつが
今は稼いでるよインターネットで
いつかお前のすべてを奪うぜ
- Futuristic Swaver
05.
Swervy 「Red Lite」
Prod. SUI, Young Wii
(映像の貼り付けが封じられている動画ですが、ぜひご視聴お願いします(涙)。)
女性ラッパーSwervyのHi-Lite Records入団記念曲は、このアーティストとレーベルに対するファンたちの期待を一気に上げたと思われます。SUIのホラーコスミック(?)なビートとMVが印象的です。Bレートノワール映画のイメージを展示する歌詞は男性中心的なジャンルのセオリーを自然と捻ったのですが、これをジェンダー論的観点で見れるのか、それが韓国ヒップホップシーンでどう作用するのか、そのほかにもラップスタールーキーの誕生過程に関する談論などなど…。短くて強烈なこの曲のように、彼女のシーン登場が投げかける問いもやはり重さを感じられます。とにかく、今年一の強烈な登場なのは間違いありません。
偏った世を傾ける災難
僕は先に見て秘密に包む
- Swervy
04.
Coa white 「susiinmykuchi」
Prod. Coa white
日本のサブカルに対する愛情丸出しのプロデューサーCoa whiteのミックステープ『techmusume』は1月1日にサウンドクラウドに公開され、3月15日には新曲まで含めて公式ストリーミングにも上がりました。テープのタイトルのように(多分…)テクノを中心とした電子音楽をメインとする曲が収録されています。特に14分間中毒的なメドレーが続くこのトラック「susiinmykuchi」は注目すべき必要があります。ヒップホップジャンルを基盤に活動するプロデューサーであるにも関わらず、このトラックではヒップホップの色彩はなかなか見れません。14分24秒のラーニングタイムのうち、最後の30秒を残して出てくるボーカロイドkosameの機械的なボーカルが登場し、反復するサビとトラップ特有のアドリブをカルト的に再現するときにこそ、ヒップホップとの連結を確認できるという、韓国ヒップホッププロデューサーの日本サブカルを利用した高度のいたずらとして読み取れるのでは…?って、誇大解釈してみます(笑)。
03.
BewhY 「Challan」
Prod. Truthislonely (BewhY)
「この世にないラップと音楽を作った」と書かれているアルバム紹介文が意外と説得力あります。「Challan」はラップスキルの展示というすごく明確な意図だけを持っています。それを展示するトラックはヒップホップですごく多く、もう今じゃ減っている傾向にあります。そんな中、彼はプロダクションまでスキル展示の場に持ち込んで、差別化を図ります。(普段のラップスキル展示は簡単なビートの上で自由にラップをさせるものが多いと考えますので。)曲は、乾燥で疾走感のあるダンサーブルなビートと、弦楽器をくわえたハードコアトラップの、大きく二つのパートで分かれますが(アウトロのオートチューンパートまで入れると3パート)、これは主に彼がアルバム以降のシングルで見せた二つのスタイルを統合したと考えられます。去年の放送などで時々見せたBewhYのトラックは、「壮大さ」を導こうとしていたのですが、この曲の場合はもうその雰囲気すらも一つのジャグリングできる技と化したような感じで、その雄大さの上に君臨しているような効果を見せる…というのもやはり誇大解釈でしょうか?まあ、どうこう言っても、一番重要なのは、今年リリーズされた曲の中で最高のラップスキルを展示するということです。
さあさあ今はBewhY Come back season
空白期間を一気にジャンプする俺の音楽
- BewhY
02.
XXX 「Bougie」
Prod. FRNK
プロデューサーFRNKとラッパーKim Ximyaでできているアヴァンギャルドヒップホップデュオ、XXXの去年の傑作『LANGUAGE』でのインダストリアルな機械音の饗宴を知っている人なら、今年の傑作『SECOND LANGUAGE』の代表曲であるこの「Bougie」のピアノで始まるイントロを聴く瞬間、当惑すると思います。前作の代表曲「Ganju Gok」でもオーケストラのリアルセッションから入りましたが、それは後で凄惨にぶち壊すための華麗さであったとするならば、この曲の導入部の和音は―いくら強いヒットやドロップが配置されていくとは言え―テーマを作るための触発材であると同時に、ブリッジに再登場して調和することで、『SECOND LANGUAGE』でのスタンスの差を直感できると思います。ラップも前作で限りなく怒っていたスタンスから変化します。「Mama I'm so bougie / 専門職なんかつかずに / 守ったぜ俺の品位を」「I'm bougie / それ以上のものをとって / 実際に味わうと苦いね / でも俺は高くよりは遠く」などの歌詞は数値・序列化される資本のシステムと関係なく自分の基準をもって、そこで自身が優位に立っていることを宣言し、何らかの新たなアーティストの基準を提示するようです。世はこのスタンスをバカにするかもしれませんが、Kim Ximyaはそれを認めつつも、その信念を捨てないという両価的な感情を同時に持っていきます。
階級社会に汚されて
有名な奴の秘書役取りゲーム
俺の上には誰もいないが
いったいどいつの機嫌を取ればいいんだよ?
- Kim Ximya
01.
JUSTHIS 「Gone」
Prod. JUSTHIS
わざとごつくダンピングして響かせるドラムを除いたほかのプロダクションは若干の抒情的なタッチ効果だけを残して退き、ただラップだけにスポットライトを当てます。2016年の名盤『2 MANY HOMES 4 1 KID』を出して、その後もシステムに対する幻滅をずっと表してきたJUSTHISは、この曲で引退を示すという、キャリアを掛けたベッティングをする理由は何でしょうか。
「誰も知らないよ今俺の真価を / 水を金で買う時代を知るはずもなかったように」というラインが、彼が消えようとする核心だと感じられます。「いる時もてなすべきだったと後悔してほしい / (...) / 慣れると当たり前だと思い込むみんな」というように、彼の不在を通じて自身の価値を再証明しようとするラインは印象深いです。いや、再証明というよりも、リスナーたちにその価値を深く受肉化させたい欲望までも見えます。ヒップホップ文化の要素である"represent"が、こんなにも逆説的に作用できるのか不思議です。
彼が去ろうとする理由である「価値の証明」と「システムへの幻滅」を荒く結んでみますと、彼の「価値」そのものが「システム」を批判するアンダードッグなスタンスから生まれたものであって、だからこそ彼が絶対に変わらないシステムのメインストリームに吸収されたとき、自分の価値まで薄まっていくことを指摘したのではと考えます。そのためか、彼が「自殺率が高いというのは / 死ぬことが自殺しかないってもんだ / だから平和なことだ」と、システムの不変性を言及しつつ「自殺」という言葉を使うとき、「グランジ―ロックスピリット」と「ロックスター」の矛盾で悩んだカート・コバーンのイメージが見えるのは、僕だけでしょうか。
I wanna be, I wanna be gone right now
俺は消えたいよ今すぐ
今じゃないとまた帰ってきそうなのさ
so, I wanna be, I wanna be gone right now
- JUSTHIS