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いよいよ本格的な治療にはいります。

2月に入り、病院での診察の合間を縫って、精力的にあちこち出かけたり、入院に必要な物品を買ったり、食べ慣れた味を再確認したりと忙しく過ごしてきたが、いよいよそれもこれまで。今日から入院して、明日からの放射線治療と抗がん剤の併用治療にはいる。

備忘録的に入院前にこんな事をしたというのを記しておくとこんな感じ。

  • 長男連れて箱根にツーリング・温泉

  • 嫁の誕生日に家族で食事

  • Windows Surface 購入 (今使ってるPC)

  • 大学時代の仲間と新年会

  • 家族+犬でレンタカーを借りて雪遊びに行く

  • いつものメンバーで週末ツーリングx2

  • 実家に顔出して、両親の顔を見る

  • スクーターを買い替える

  • 長期Sick Leave前の最終出社

1月15日の小細胞がん疑い、手術中止から1か月。まあ1か月にしてはなかなかの活動ぶりだといえるだろう。やっていることはいつもと大して変わらないが、それぞれの遊びに際しての散財の仕方や、思い切りの良さは病気ならでは。ついでにいうと3月の豪華客船クルーズ2泊3日というのも計画して申し込みまでしていたが、放射線治療のスケジュールをみると、どうしてもはまらず、泣く泣くキャンセルと相成った。結果、このクルーズ費用は形を変えて、新型スクーターによる都会の快適クルーズになる予定である。

きっと経験者の皆さまからすると、何を治療前に暢気な事を、とお𠮟りをうけるのであろうが、一応、私としてもこれから始まる厳しい戦いについては理解をしているつもりである。否、きっと想像以上に辛かったり、笑えない状況になることもあるのだろう。そしてその辛い治療の先に、明るい未来が待っている、などと楽観的な言えない事も承知している。が、故に、自分がこれまでの自分でいられる最後の1か月を気持ちのままに過ごしてみたかったのである。

今朝、家を出る前に、子供たちを座らせてこれから行う治療について話をした。治療を受けてがんの進行を出来る限り遅らせる、放射線によってがん細胞を破壊する、もしかしたらかなり良くなるかもしれない、とまでは説明した。同時に病名は小細胞がんの限局という話もした。
ここまでいえば、今の中高生は3分もあれば、必要な情報を携帯からあっというまに入手してしまうだろう。そしてその中には得体のしれない民間療法や、不安をあおって何かの行動を起こさせる事を目的とした情報も含まれる。一応、仕事がらネット広告に関する仕組み、テクノロジーに触れる機会も多少はあったので、ネット検索して出てくる情報の殆どが必ずしも適切な情報では無い、という事は理解している。ただ子供達に余計な不安を与えたり、誤った判断をされるよりは、自分の口から出来るだけ正しい情報を伝えたいと思ったのだ。ただ、まだ「パパは長くは生きられそうも無い」という事を自分の口から言う事は出来なかった。出来ることをやって、それでもだんだんと弱ってくるのであれば、彼らも自然とそれを理解するだろうし、そうなった時には自然に任せて、出来るだけ残された時間を大事に使いたいというのが今の気持ちである。
大丈夫、男の子は男親を乗り越えて強くなるものだ。

そんな事を考えながら、センチメンタルな入院初夜を迎えていたのだが、突然看護師さんから、これからは「尿瓶」で用を足し、ナースコールで尿瓶を渡すように、という、人生で初めての高めのハードルを設定された。
入院は前回の検査入院が人生初で、尿瓶というものを手にしたのも人生51年で初めての事である。
暫し逡巡したのちに意を決してトイレにいき、小用を足す。うん、初めてにしては上出来と自分を褒めつつも、この尿瓶は誰かと共用しているのか、という点にややもやもやしたものを感じる。
そして、無事に終わった時に事件は起きた。

尿瓶バージンの俺は尿瓶に蓋をして、トイレの上に仮置きをしたつもりだったのだが、あろうことか尿瓶を縦に置いてしまった。そう、尿瓶は縦ではなく、横にしておくべきなのである。でもなんか尿瓶の口の角度がいまいち頼りなく、ここはきっと冷蔵庫の麦茶のごとく縦だろうとの俺も読みは甘かった。一瞬、直立して静止したと思われたプラスチック製の容器は、そのまま無常にも便器へと吸い込まれていった。

かくして、人生初めてのナースコールは、いい歳したおっさんがヤクルトくらいしか入っていない尿瓶を手に赤面しながら言い訳をする、という始末であった。いかにも前途多難。
明日こそは堂々と男らしくナースコールを押したいものである。

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