【特別対談】古屋美登里 × 豊崎由美 小尾芙佐訳 『高慢と偏見』を語る
毎月1回、書評家の豊崎由美さんが、ゲストの方と語りつくす「月刊ALL REVIEWS フィクションの回」。2019年10月は、翻訳者で書評家としても知られる古屋美登里さんをゲストとしてお迎えし、ジェーン・オースティン作、小尾芙佐訳 『高慢と偏見』(光文社古典新訳文庫)について語ります。
奇しくも、ALL REVIEWSでは、2019年1月に行われた翻訳家の鴻巣友季子さんと鹿島茂さんの『高慢と偏見』の対談を記事にしています。今年は『高慢と偏見』の当たり年なのでしょうか。
小尾芙佐リスペクトから始まった対談
対談はまず、古屋さんの小尾芙佐リスペクトから始まりました。小尾芙佐の訳は彼女が70代の時のものですが、とても瑞々く、かつ、省略のない翻訳。巷に出回っている『高慢と偏見』にも、実は重要な部分を省略している版があるそうですが、そのような省略版とは一線を画す、端正な翻訳。小尾芙佐はアイザック・アシモフなどSFの翻訳でも知られていますが、近年は光文社古典新訳文庫でブロンテ『ジェーン・エア』、エリオット『サイラス・マーナー』などを発表されています。古屋さんの敬愛する故倉橋由美子より小尾芙佐は年上。小尾芙佐さんのご活躍は頼もしい限りです。
豊崎さんは作品は好きだけど、ヒロインは嫌い
豊崎さんは『高慢と偏見』は好きだけど、ヒロインのエリザベスは嫌いなタイプ。自意識が高すぎること、そして、俗物であること。
例えばエリザベスがダーシーに好意を抱くようになった理由。財産だろうと豊崎さんはいいます。それを示すのがこちら。姉のジェインにいつからダーシーを愛するようになったのかを聞かれて答える場面。
「いつとはなしに愛情が湧いてきたの、いつからと言われてもよくわからない。でもたぶん、ペンバリーの美しい庭園をはじめて見たときからかな」
「ペンバリー」というのはダーシーの屋敷のこと。豪華な屋敷に心を奪われるエリザベスはやはり俗物かも。
ハッピーエンドではない
『高慢と偏見』は一般的に主人公の結婚で終わるハッピーエンドと思われがちですが、古屋さんも豊崎さんもハッピーエンドとは必ずしもいえないという見解で一致。
不幸の理由の一つは末娘リディアの存在。駆け落ち婚したリディアは、終盤、玉の輿に乗った姉に早速お金をねだります。
自意識の強いエリザベスがダーシーにどこまで我慢するかも問題。エリザベスの父親は、エリザベスが結婚するときに彼女の性格を見抜いていいるようです。
「…きみの性格はよくわかっている、リジ―。きみは心の底から夫を尊敬できなければ、幸せにはなれない、立派な妻にもなれない。自分よりすぐれた人間として夫を尊敬できなければね。きみより劣る男が相手では、きみのその煥発な才気が結婚生活にはなはだしい危機を招くだろう…。」
閉じているようで開いている物語。古屋さんは、倉橋由美子に『続・高慢と偏見』を書いてほしかったといいます。
ALL REVIEWS友の会では、毎月、鹿島茂さん、豊崎由美さんをホストに、ゲストと本にまつわる対談を行っています。
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【この記事を書いた人】 くるくる
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