カンマの位置まで拘る文章の精密さは翻訳しきれない~武藤剛史 ×鹿島茂、武藤剛史 『サン=テグジュペリの世界〈永遠の子ども〉の生涯と思想』(講談社)を読む
フランス語は正統
お二人が教鞭をとった共立女子大では、サン=テグジュペリを卒論に取り上げる学生も多かったそう。
それでもお二人はサン=テグジュペリの凄さをなかなか理解させることが難しかったそうです。
サン=テグジュペリはエリート校であるグラン・ゼコールの準備級(通称:カーニュ)まで行ったのですが、グラン・ゼコールへの進学はかなわず、海軍兵学校も落ち、兵役で入った軍隊で航空隊に入るという、エリートではない人生のスタート。
しかし、そのフランス語は劇作家ラシーヌのような正統派。鹿島さんは、サン=テグジュペリの文章はカンマ(virgule)の位置まで拘っており、動詞の使い方もきちんと使い分けている、日本語の翻訳で、細かい拘りまで訳しきれているものはなかなかないといいます。
フランス文学を最終的に決定づけるのは文章力であり、サン=テグジュペリは文章力が秀でている、これが彼のフランスにおける「作家力」であるとのこと。
『星の王子さま』のイラストに惹かれる日本人にはなかなかわからない点です。
私生活はわがままだが…
非常に正統派のフランス語で文章を書くきちんとした作家だったサン=テグジュペリは、女性関係や、職業生活などをみると私生活ではわがままなで勝手放題の人でした。
飛行士としての腕前も、「うまいときもあったんですが…。燃料確認せずに飛ぶことも」と武藤さん。
武藤さんは『人間の土地』でサン=テグジュペリが、幼年時代のこと、飛行機に乗ること、作家となるということを結び付けたと考えます。キーワードはetendu(広がり)。
鹿島さんは、この伝記をサン=テグジュペリの作品をよく読みこんだ上での伝記と評価します。作品の読み込みがないと、サン=テグジュペリはやりたい放題のただのわがまま男になってしまう。
また、サン=テグジュペリの戦争に対しての考え方やペタン政権との関係などについても語られていきます。
特に共立女子大の卒業生の方、アーカイブ視聴もできるので、ぜひお聴きください。
【記事を書いた人:くるくる】