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【イベントレポート】当たって砕けろ!体当たり読書会体験記

誰もが知っているようで知らない読書会のこと

ALL REVIEWS友の会、小島ともみです。
このたび、わたくし、読書会に初参加してきました!
ずっと憧れていたんです。でも、なんだか怖くて、どうしても一歩が踏み出せないまま、早幾年。会におわす方々は、きっと読書のエキスパート、数々の<読書会~バトル・フィールド・オブ・リーディング~>をくぐり抜けてきた歴戦の猛者たちに違いない。そんな場にペーペーの初心者がのこのこと顔を出すのは、ビーサンで富士登山に挑むがごとき無知無謀、たちどころに蜂の巣にされるのがオチ!そんな勝手な思い込みで戦々恐々する日々とは、もうサヨナラするんだ!というあなたを応援したい初体験記です。

第3回神保町ホームズ読書会
日時:4月13日(土)14:30〜16:30
場所:神保町近辺の会議室
課題図書:アンソニー・ホロヴィッツ『モリアーティ』駒月雅子訳
参加費:一般 500円、学生 無料

えいっ!と参加に踏み切れたのは、主宰が「神保町ホームズ読書会」さんという、わたしが加入している「日本シャーロック・ホームズ・クラブ(以下、JSHC)」の有志の皆さんが立ち上げた会だったから。面識のある方々も参加されるようだし、うん、それなら心細くはないはず。

ひとくちに読書会といっても、形式はさまざま。互いにお勧め本を紹介し合う「ビブリオバトル形式」や、その派生型の「持ち寄り本交換形式」、「集まって読み即語り合う形式」などがありますが、神保町ホームズ読書会さんは、課題本が決まっているタイプ。各人が指定の本をしっかり読み込んでおき、当日はその内容について深く深く、どこまでも深く掘り下げて語り合うという趣旨の会です。

今回取り上げられたのは、『カササギ殺人事件』が好評のアンソニー・ホロヴィッツ作『モリアーティ』でした。名探偵シャーロック・ホームズの宿敵、モリアーティ教授の名がついた本作は、ドイル作ホームズ物語の、いわゆるパスティーシュ、スピンオフとして位置づけられる作品です。ホームズとその物語を知る人はより楽しく、そうでない人でも、仕掛けや構成自体が面白いため、スイスイと読めてしまうこと請け合いのミステリ。

その名のごとく、神保町近辺のレンタル会議室などで開催されているホームズ読書会さん。この日、会場となったとあるビルの入り口には、手書きの案内板が掲げられ、なごやかなムードが漂っています。入り口で手渡される飲み物とお茶菓子の優しい心遣い……一転、方向音痴も手伝って時間ぎりぎりに到着したわたしに、ウェルカムがわりの衝撃波が襲いかかりました。ロの字に並べられた長テーブルに座して待つ参加者の、「装備」がすごすぎる!

付箋というお手軽にして最強のワザ

当日の約束事に「文庫版か単行本版の『モリアーティ』を持参すること」とありましたが、目の前に居並ぶのは、読む者の血と涙と汗と魂を吸い込んでほんのり膨らんだ(私感)ボディに、無数の付箋が差し挟まれた文庫もしくは単行本あるいは両方、ダーン!筆記用具一式、ダーン!の両脇を固める、関連書籍らしき本、ダーン!それにひきかえ、わたしの手には、いかにも「読み終わったばかりです」状態のヨレひとつない文庫版だけ。これではまるで、「おなべのふた」で「はぐれメタルのけん」に立ち向かうようなものではないですか。あるいは……

<参加者・A
『5頁目16行目で犯人の目星がついた』を攻撃表示でお手並み拝見!
<参加者・B
猪口才な!『作者まえがきの“におわせ”で感知』を攻撃表示でカウンター!
<参加者・C 
ぐわっはっはっは!語るに落ちたな!『原題のダブルミーニング知ってるか』を特殊召喚、ダイレクトアタックで場内一掃!
<参加者・わたし
一言もしゃべれないまま500000のダメージ、撃沈!
最初にして最後の読書会、ジ・エンド……。

などという妄想の浮かぶ額に吹き出る汗をふく間に、読書会、スタート!まずは自己紹介から。作品自体も人気とあって、定員の20名が早い段階で満席となった本会の参加者は、「実はホームズよりもルパンが好き!」という方もいる意外。作家さんあり、出版社にお勤めの方ありの一方で、学生さんに、わたしのようなただのミステリ好きと幅広い層、年齢もまちまちです。読書会自体初参加という方もちらほらといてホッとします。ほかにどんな募集をかけたら、これほどに多種多様な人たちが集まるだろうか……日常ではまず行き交わないような人たちと一冊の本を通じて出会える奇遇も、読書会の醍醐味ですね。読み手の顔が見える感慨なかば、照れくささなかばでまごつく場は、司会を務めてくださったJSHC会員・鷲平ケイさんの当意即妙な潤滑油の投入であっさり氷解。誰かの発した遠慮がちの一言がまた呼び水となり、続く、続くよ、Can't stop talking!! わたしにもあるある、聞いてみたいこと!……あれ、どこだったっけ!? そうか、こういうときに付箋が役に立つのですね。色分けもしておくと便利そう。

「感じる」を「口にする」ことで深まる世界がある

さて、この『モリアーティ』という小説は本当に厄介なしろもので、形容する言葉に困る大技ミステリ(というだけで、勘のよい方なら察してしまうほど)。うかつに触れようものなら、その一言がネタばらし!となりかねない作品です。だからこそ、何の気兼ねもなく、微に入り細に入りああでもないこうでもないと語り尽くせる機会を、きっと皆さん待っていたに違いありません。初対面同士のぎこちなさが消えたあとは、誰かが口を開くたび、「そこ、気になってた!」という共感や、「そんなところに引っかかりポイントが!」という気づきが四方八方からふりそそぎ、再読欲がムクムクと沸き起こります。「私の前頭葉、いまものすごく“発火”しているのでは!!」と興奮をおぼえるポジティブな議論の場の、なんと心地よいこと。読書は孤独な活動ですが、人と意見を交わし、感想を分かち合うことで、読み方も楽しみ方もぐんと広がりますね。

付けるべきか付けざるべきか―翻訳家は苦悩する

この日は、ゲストとして、『モリアーティ』を翻訳された駒月雅子さん、シャーロキアン翻訳家の日暮雅通さんと、ホームズ研究家で作家・翻訳家の北原尚彦さんがご同席。会の締めくくりに、駒月さんからは、翻訳で苦労された点についてのお話がありました。ホロヴィッツの前作で同じくホームズものの『絹の家』を翻訳されたときに、ドイルのホームズ物語に親しんでいない人にも面白く読んでもらいたいと、訳注をたくさんつけたそうです。ところが、一部の読者から「ちょっとうるさい」という意見が寄せられたため、文庫本になる際に半分以上カットしたのだとか。

その教訓を生かし、『モリアーティ』翻訳にあたっては、「絶対にわかっていないといけない部分」のみ厳選して訳注をつけ、原書にある「何かをほのめかす傍点」はそのままに、気になる人は調べてね、というスタイルにしたとのことでした。読者が興味をそそられながらも、快適に読み進められるにはどうすればいいかを常に頭に置いて取り組まれているというお話に、翻訳者の細やかなお仕事ぶりの一端をのぞかせていただいた思いがしました。
日暮さんからは、ホロヴィッツへのインタビュー取材の一部ご披露がありました。ごくごくさわりの部分にもかかわらず、参加者からはどよめきが!気になるインタビューの全文は、6月に発売の季刊誌『kotoba(コトバ)夏号』(集英社)に掲載される予定です。同号では「コナン・ドイルとホームズ」の特集が組まれるということで、駒月さんと北原さんも文章を寄せられているそうです。ホームズ好きは要チェックですね!

おわりに

いかがでしたでしょうか。読書会、参加してみたくなりましたか? TwitterやFacebookなどのSNSでの告知、またインターネットで「読書会」と検索すると、こんなにもあるのねえ、と驚くほどにヒットします。なにげない一冊も、他者と体験を共有することで、特別な書物になるかもしれません。
さあ、書を携えて、街に出てみよう!

ALL REVIEWS書評家のおひとり、杉江松恋さんが管理人を務めるサイト、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」でも全国各地の読書会情報が掲載されています。

ALL REVIEWS杉江松恋さんのページはこちら。

杉江松恋さんによるホロヴィッツ『カササギ殺人事件』書評。


この記事を書いたひと:小島ともみ
映画とミステリと猫とビールが大好き。初恋の人は「ホームズ」の自称シャーロキアン。ほか好きな作家は国内【泡坂妻夫】【綾辻行人】【倉知淳】【島田荘司】【貫井徳郎】【東野圭吾】【森博嗣】、海外【キング】【シーラッハ】【ラヴゼイ】【レンデル】【ルヘイン】(敬称略)。
原産地北海道、雪は無条件ではしゃぎます。
Instagram:@dera_cine17

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