787開発のためにボーイング社に。あれから14年。
ANAが世界に先駆けて導入したボーイング787型機(以降、787)は、開発段階からANAが携わっていました。現在も、787の機長を務める塚本 真巳(つかもと まさみ)キャプテンは、2007年当時ボーイング747-400型機の機長の資格を保有しながら運航本部 運航訓練室に所属。その時、塚本キャプテンに「開発担当者としての派遣」の打診が来ました。それは、787開発のためにボーイング社への出向が決まった瞬間でした。
「ボーイングの社員だからね、ちゃんと入社式もしたよ」
塚本キャプテンは溢れんばかりの笑顔で当時を振り返りました。
米国シアトルのホーイング社に出向した塚本キャプテンは、ボーイングの社員として開発の会議に参加。開発過程から積極的にかかわり、自由に意見出来たそうです。
もともと英語が好きでグローバルな世界に飛び込みたかったため、英語のマニュアルには慣れていたし、ボーイングのテストパイロットやエンジニアとのやり取りも苦労しなかったそう。
当時は、フライトシミュレーターでの実操縦をしながらの議論が連日続いたそうで、実際の商業運航を経験するエアラインパイロットとして、実運航操作やフライトデータに関する技術的な部分はもちろん、コックピットの座席を移動させるスイッチの位置や急減圧の際に使用する酸素マスクの形状に関する点など、自身の経験からたくさん意見やアイディアを出すこともできた、と振り返りました。
しかし、787の完成までは時間を要しました。新技術を詰め込んだこの世界初の旅客機は何度も検証を重ねる必要があり、開発スケジュールは大幅に遅れました。
機体完成の目処が立たないと、その後の訓練も開始することが出来ません。一日も早くこの最新鋭の機体が世界中を飛び回る日が来るという期待が膨らむ一方で、787のパイロットとして操縦出来る日は本当にくるのだろうかという不安、そして世界中の航空会社やパイロットが待ち続けている787を絶対にローンチさせるという開発担当者の一員としての重責が入り混じった日々だったそうです。
「ボーイングは、やっぱりすごい。」
完成した時の感想を塚本キャプテンはこう話します。
新しい技術を入れすぎているこの飛行機は本当にできるのか?と思っていたのですが、苦労しても完成させたボーイングはすごかった。「感心しました。開発過程から自分がかかわっていたため、大変愛着があります。」
メーカーであるボーイングと、実際操縦するパイロットでは着眼点も違う中、多くの議論を経て完成した787を見て、大きな達成感を感じたそうです。
開発から携わり、2011年の世界初導入から10年間、787のキャプテンとして操縦し、2021年10月31日の10周年記念フライトの機長を務めた塚本キャプテンは、最後に一言こう語りました。
「就航から10年間、お客様にご迷惑もおかけしてしまうようなこともありました。開発担当だけでなく、就航後も787と一緒に育ってきた感じがします。ただ、こうして10年たった今、世界中を飛び回っている787を見ると、「決して期待を裏切らないすばらしい飛行機」だと思います。」
プロフィール
塚本 真巳
全日本空輸株式会社787機長
1986年全日本空輸(株)入社。主にボーイング727、767、747-400、777に乗務し、教官としてパイロットの養成に関わる。2007年、アメリカ ボーイング社に派遣され、ボーイングの社員としてボーイング787の開発およびパイロット訓練開発に深く関わる。787を世界で最初に飛ばしたエアラインパイロットであり、航空局787限定変更認定第一号パイロットでもある。
2018年3月からANAグループのエアージャパンへ出向し787の導入を実施。
現職は、ANA安全推進センター副センター長。
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