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ワッフルと新木場


人生が変わった日がある。

忘れもしない2019年8月14日。その日まで、なんの変哲もない夏休みを過ごすのだと思っていた。
2018年末からあるバンドのことを知り、見識を深めている最中のこと。近場でライブをするというので、あまり深く考えず行くことにした。
そのときに食べた物たちの話をしよう。

それはバンドが複数出るイベントのようなもので、チームごとにいろんな食べ物を提案し販売していた。かき氷、ジェラートなど夏らしいデザートに始まり、カレー、ハンバーグのようなメイン系、さらにはタコライスやルンピアなんて変化球も。彼らのことを深く知っていれば頷けたセレクトだったのだが、その当時は全く訳が分からなかった。なんだライブ前にタコライスって。そもそもルンピアって初めて聞いた。
(その後気になって調べたところ、ルンピアはフィリピン式の春巻きみたいなものらしい。メンバーの出身にちなんだものだそう)

その中で目当てのバンドが監修したのは、ハムとチーズと目玉焼きを乗せたおかずワッフル。多少素朴なつくりだったが、応援の気持ち7割とそれしか食べられそうにない偏食の事実3割をもとにそれを昼食にした。
厚手のワッフル生地にスライスチーズとハムの塩味と絶妙な火加減で半熟を維持していた目玉焼きは思っていたよりおいしくて、ちゃんとお腹が膨れた。
直前の局所的な降雨で蒸し暑い中、テントの下に並べられた机で食べた。やや心許ない紙皿と、その上に広がったパセリ。どう見ても手で食べるしかない形状なのに、なぜか付いてきた割り箸。空の色や張り付くような気温さえ、昨日のことのように思い出せる。

しかしライブ本編のことは全く思い出せない。
それまでの価値観がひっくり返るようなことが起きた。その渦中にいた。それしか覚えていない。3日経っても音は頭に響いたままだった。
寝ても覚めても忘れられないものをそう呼ぶのなら、それは恋に違いなかった。

そんな思い出のライブハウスはついこの間閉館してしまった。
もう一度あの場所であの人たちに、とずっと思っていたのに、その願いは二度と叶わない。
それでもこの記憶はわたしの始まりに残り続けて、いつまでも輝く。

今もときどきあのワッフルが食べたくなる。

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