声劇台本 「初愛 〜 First love 〜」
初愛 〜 First love 〜
男「そんなところで何してるの?」
女「……別に」
男「もうちょっとしたら暗くなるし帰りな、お母さんが心配するよ」
女「しないよ、あの人は絶対」
男「そうなんだ」
女「……うん」
男「じゃあねー、早くうちに帰るんだよ」
◯数時間後
男「やっぱりまだ居た」
女「いちゃダメなの?」
男「あぶないからね」
女「じゃあ、どっか連れてってよ」
男「連れていったら、オレ捕まるから」
女「じゃあ、ほっといて」
男「はいはい。あっ、これ買ってきたから食べな」
女「いらない」
男「そんなこと言わないで。置いておくからね」
女「なに横座ってんの?」
男「ちょっと休憩してるだけだけど」
女「ふーん」
◯無言が続く。雨が降ってくる
男「雨降ってきたね、傘持ってる?」
女「持ってない」
男「ダメだね。ちゃんと予報見とかないと」
男「オレ傘持ってるから使いな」
女「おじさんが濡れちゃうじゃん」
男「大丈夫。それとおじさんじゃなくお兄さんだからね!」
女「ぷっ(思わず笑う)」
男「今、笑ったでしょ。笑ってるほうがいいよ。そんな不貞腐れてるより。じゃあ、オレ帰るね。帰るよね、ちゃんと家に」
女「……ちょっと待って。おじさん、近所?」
男「またおじさんって言ったな!(笑う)まあ近所だけど」
女「(不安そうに)着いていっていいかな?」
男「ダメだよ、来ちゃ」
女「なんで?」
男「なんでって言われても。自分ちに帰りな」
女「……帰れないよ、あんなとこ」
男「わかったから、泣くなよ。あーもう。行くぞ!」
女「ちょっと待って。傘ん中入れば、濡れるよ」
男「オレはいいから着いて来い」
女「そんな早足で行かないでよ、ちょっと」
◯家
男「ここオレんち」
女「ここにひとりで住んでるの?」
男「ああ、無駄に広いだろ」
女「そうだね」
男「どこでも空いてるとこ使って」
女「なんでこんな広いとこにひとりなの?」
男「おじいちゃんが遺してくれたんだけど、誰も使ってないから、好きに使ってる」
女「そうなんだね」
男「じゃあオレ、シャワー浴びてくるから。覗くなよ!」
女「覗かないよ、おじさんの裸なんて」
男「またおじさんって言う。冷蔵庫に飲み物とかあるから好きに取っていいよ。わかってると思うけどビールは飲むなよ」
女「はいはい」
男「ふーっ、スッキリした。あっ寝てる。疲れてんだな。」
男「どうしたもんかな。オレ傍から見たら犯罪者だな」
女「おじさん、どうしたの」
男「寝てたんじゃないのか、お前。お前っていうのはダメだな。名前聞いてなかったな。名前は?」
女「ゆきなだよ、ゆきな」
男「オレはこうすけ」
男「ちょっと答えづらいこと聞くけど、ゆきなは家に居場所ないのか?」
女「……うん」
男「そうか。詳しくは聞かないから安心して。でもここにはずっとは居れないし、いつかは覚悟決めなきゃね」
女「……うん」
男「オレはそんな大した奴じゃないから、当たり前のことしか言えない、帰りなって。残酷だけど」
女「そんなもんだよ、誰だって」
男「ごめんな」
女「なんで謝るの?」
男「なんでかな……」
女「ゆきなが悪いの、全部」
男「そんなことないさ。環境が良くないだけさ。家に居場所がないってことは、それだけで異常と言ってもいい」
女「異常?」
男「キツイ言い方をするとね。全部子供にしわ寄せがくる。ゆきなみたいにね。君のせいじゃない。それだけは知っておいて」
女「うん、ありがとう」
男「まあ、今後のことは焦らず考えよう」
女「こうすけ、あっ、こうすけさんは」
男「いいよ、こうすけで」
女「こうすけって彼女いるの?」
男「いないよ、こんな変わり者だし」
女「へーそうなんだ」
男「モテないよ、全然」
女「じゃあ、大丈夫だね」
男「大丈夫って何だよ」
女「(嬉しそうに)別に」
男「オレのことより自分のこと考えなさい」
女「はーい」
男「オレはもう寝るぞ。ゆきなもシャワー浴びて早く寝ろ」
女「はーい」
男ナレーション
「目覚めると彼女はいなかった。ちゃんと家に帰ったのだろうか」
◯数分後
女「朝メシ買ってきたよー」
男「お前、帰ったんじゃなかったのか。……(ため息)まあいいけど。ゆきなお前、開けっぱなしで出掛けたろ」
女「いいじゃん、別に」
男「オレの財布持っていってるし」
女「もちろんじゃん」
男モノローグ
「こんな生活が続いてくれたら内心嬉しいが、現実はそうはいかない、続くはずない。けれど、ゆきなが心配だ」
女「どうかした?」
男「いや別に。いいから早く食べよ」
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