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怒っている人は困っている人

休み明けの朝一に取った電話は、子だくさんママの山本さんからだった。なぜだか既に怒っていて、ヒステリックな感じ。
この前窓口に来たときは、気持ちよく手続を終わらせて帰っていったのに、なぜ。
怒られながらも話を聞くと、精神障害者保健福祉手帳と特別児童扶養手当の手続を1つの診断書で出来ると思い込んでいたらしく、手帳が届かないことにご立腹だ。そりゃあ、手続きしていないのだから、手帳はいくら待っても届かない。その代わり、特別児童扶養手当は今月から受給しているはず。
手当の手続はちゃんと済んでいるのに、仕事の仕方がなっていないとなじられる。病み上がりでなければ、言い返したいところだが、今日は喉が痛いお陰で、落ち着いたトーンでしか返せない。
何を説明しても、情報は頭に入らない様子。色々と確認してから、こちらからお電話する約束で一旦終了。

子どもが9人もいる山本さんは、私と同い年で、一番上の子は22歳、一番下の子は1歳。 毎日、育児で忙しいに違いない。そこまで子だくさんではなくても、障害児を育てるママは、専業主婦かパートタイム勤務が多い。

晴海が年中の秋、順番待ちしていた公営の療育に通えるようになって、はじめて、専業主婦のママ達がコミュニティーを形成し、活発に活動していることを知った。
会費を払ってコミュニティーの一員になることは出来ても、活動に参加するための時間を捻出することは出来なかった。
彼女たちが持っている情報を私も得られれば、晴海が受けられる福祉や家庭で行える療育の質が向上するはず。何とかして、彼女たちのように情報を得て、晴海の発達に生かせないだろうか。
住民課に異動して約半年、仕事にもなれて、月に3回くらいなら休んで療育に行くくらいの余裕はできた。でも、それ以上の活動は難しかった。
療育の助沢先生に悩みを伝えると、優先してペアレントトレーニングに参加させてくれたり、有益な情報を教えてくれたり、コミュニティーに参加できなくても置いていかれないように助けてくれた。支援者の方々は、同じように働く立場だから、働くママの私に親身になってくれたのかもしれない。

「怒っている人は困っている人という言葉が、福祉にはあってね。怒っている人ほど、困っていて助けが必要なんですよ。」という助沢先生の言葉が思い出された。

折り返しの電話を忘れていたわけではない。次から次へと舞い込む相談や事務処理に対応していたら、山本さんから電話がかかってきてしまった。電話に出たベテラン職員が諭しても、全く通じない。
確認が遅くなっていること、折り返しの電話が出来なかったことを謝るも、それだけでは、怒りはおさまらない。確認にもう少し時間がかかることを伝えて、今日中に折り返しの電話をすると約束。

教育委員会の先生に確認をとり、山本さんの希望を叶えるために、障害者手帳を持っている必要はないことが分かる。その事を丁寧に説明すると、怒りがおさまったのか、スッと情報が頭に入るようになった様子。
山本さんとしても、息子のために、よりよい教育を与えたくて、色々な手続に奔走していることを教えてくれる。単にクレーマーと片付けてはいけなかった。
病み上がりでなければ言い返していただなんて思っているようじゃ、まだまだ助沢先生の足元にも及ばないなと反省。還暦を過ぎた先生は今も現役で、現場で活躍しているらしい。

怒っている人が来たときそこ、力の見せ所だと思えるように、助沢先生の言葉を復唱する。

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