コロナウィルスが引っ張り出した少し甘く後ろめたい記憶。
コロナウィルスが世界中にもたらしているのは恐怖と家にいる時間。学校に職場に行けず友達にも会えず。そして皆が時間を持て余すと…今、あの人はどうしてるかなぁと連絡をするのでは?そして、現在の知人一通り全てに連絡してしまうと…そう言えばあの人は今どうしているかなぁと過去の知人に思いが馳せるのでは?
つい先日、24年前に働いていた会社の上司から約20年ぶりだろうか、メッセージと写真が送られてきた。ある男性とのショット。上司は「いやぁ、暇で机整理していたらこんな懐かしい写真が出て来たから送ります。元気ですか?」と。
出版社と北欧の語学教室と留学相談を営むその会社で語学教室と留学相談を担当していた私。その写真の男性はデンマークの新聞記者。なぜ彼が日本に取材に来たかはすっかり忘れているけど妻子持ちだった事などは覚えている私。東京で北欧語の教室があることに興味を持って寄った際に私が事務所に居た。当時今の旦那と婚約したばかり。婚約者は船乗りで数ヶ月帰ってこないという状況。質問に答えたり雑談していて記者さんが私を気に入った様子は自分でも分かっていた。私も素敵な人だなぁと婚約中なくせに思ってしまった。で、躊躇なく記者からの町案内兼お食事を承諾。なんて軽い女子。
デンマーク語が話せる機会は少なく久しぶりにゆっくりとデンマーク人と会話できることかが嬉しかった私。日本に来て英語でなくマイナー言語の母国語を日本人の女子と話せる事が嬉しかった記者。食事もお酒も美味しく楽しく…そろそろ婚約者がいる事話さないと雰囲気が…と流れに身を任そうと思わず婚約者に忠実な私。2年のデンマーク滞在で散々デンマーク人の不貞さ加減を見てきていたから記者がどう出るかは想像は難しくなかった。
2軒目で私の婚約者の話をたっぷり聞いてもらい、時間も遅いからもうそろそろ帰りますね。と日比谷公園の前で言った所…
私の背中に手を当て優しく囁きだす記者。君に会えて本当に良かった…もっと話したいしもっと君の事を知りたい。まだ帰らないで欲しい…僕はそこに泊まっているんだ、(と指をさしたのは帝国ホテル)
会った時からちょっと素敵、と思い数時間の間に色々と話をしていてもっと惹かれたのが事実。濃いブルーの瞳で顔を覗かれ手の温もりを感じて…
私は…
あのぉ、さっきからお話してる様に私には待っている婚約者がいますし、あなたには奥様と息子さんがいますし、お言葉はとても嬉しいです。楽しかったです。御馳走さまでした。
記者は、粘った。君が婚約者に会う前に出会えていたら…などと歯が浮いてしまう様な言葉が続いた。私は嘘が苦手。バレるバレないの問題でなく嘘をつく事が苦しくて。記者は嘘が平気な人。奥様と息子さんが気の毒に感じた。きっと色々な所で同じ事をしているんだろうな。
さすがに大人の記者は最後はキレイに見送ってくれた。が、滞在日程とビジネスカードをしっかりとくれた。
旦那にない物をたくさん持っていて魅力的な人。
生きる術しか持っていず不器用で助けてあげたい人。
今もキツキツな生活をしているけど楽しい。腹立つ事が多いけど許せる。誘惑に負け嘘をついていたら今の私の様に素直な気持ちをぶつける事も出来ずいつも心のどこかに後ろめたさを感じている事は明白。
元上司が会社で社長の撮った記者との写真をチラッと横見した旦那は、その男は誰⁈って20年以上前の写真に気を揉むくらい。私一筋を思い続けてくれる旦那には「会社でインタビューした記者。」としか言わなかった。
だからここに書いたのだと思う。この少し甘い記憶を楽しむ自分に後ろめたさを感じているから旦那にではなく他の誰かに聞いてもらおうと。