キャリアの計画を立てろと言われても特に希望ないんです。(キャリアのなやみ#3)
私は国家資格キャリアコンサルタントです。キャリアの悩みに答えていきます。相談者をTさんとします。
上司からキャリアプランを考えなさいと言われたんですが、今のままでいいんですけど・・・
今のままが続けば良い。
年始に「逃げるは恥だが役に立つ」が再放送されていましたが、みくりさんと平匡さんが「丁度いい恋人関係を続けたい」という文脈で同じようなことを言っていました。
ジーンとくる言葉ですね(?)
ガッキーと星野源は永遠に友達以上恋人未満のままでいられるか
2人はドラマでもリアルでも結婚しちゃいましたね。おめでとうございました。
ドラマでは「このまま(恋人未満の関係)でいい」と2人とも思っていたタイミングがありましたが、温泉回あたりでその均衡状態は破られてしまいました。一方は「恋人未満がいい」と思い、もう一方は「恋人未満ではよくない」と思ったことによるものです。難しいですね。
「最適な状態」を保つとはどういうことなのでしょう。
最適な状態は、相手と自分のバランスを保つこと
相談者のTさんは、「上司がキャリアプランを考えなさいと言っているが、自分は今のキャリアのままでいい」と思っています。
ここでの登場人物は2人しかいません。あえて関係性を定義するなら、
①Tさんにとって・・・自分(Tさん)、相手(上司)
②上司にとって・・・自分(上司)、相手(Tさん)
という2パターンだけです。
自分と相手の思いにズレが生じている状況ですね。
どちらの視点でも見ていきましょうか。
①Tさんから見た景色
Tさんに尋ねてみましょう。
私:「なぜ、今のままで良いと思うのですか?」
Tさん:「特に不満がないんですよね。仕事は慣れているし、業務内容も難しすぎるわけじゃない。職場の人間関係も悪くないし、今のまま続けられればそれで十分かなって思っています。」
私:「不満がなく、慣れている仕事で安定していると感じていらっしゃるんですね。それはとても素晴らしいことです。充実した職場環境を築いているのは、Tさんのこれまでの努力の成果でもあると思います。
ただ、上司がキャリア計画を立てるよう言った背景には、Tさんがさらに成長したり、新たな役割を担う可能性を期待している面があるかもしれませんね。その点について、どのように感じますか?」
ここからの回答は、Tさんがどんな状況か、どんな考え方かによって様々分かれそうです。割と多いのは以下の場合です。
Tさん:「成長や新しい役割ですか……正直、あまりピンときません。今の仕事で十分やれていると思うので、これ以上求められるのはちょっと負担かも。」
自分でも現状に満足しているし、相手(上司)も満足しているだろう、ということですね。ここが一番の分かれ目です。
では相手はどう思っているのでしょうか。聞いてみましょう。
※通常のキャリアコンサルタントであれば、相談者以外の人に直接尋ねるケースは稀かもしれませんが、組織内で社員のキャリアを考え支援する立場であれば一般的な行為です。
②上司から見た景色
私:「先日、Tさんとお話をする中で、キャリアプランを立てる必要性について少し戸惑っているようでした。上司の意向をもう少し詳しく伺えれば、Tさんへのサポートに活かせると思います。会社の指示として定期的にキャリアプランを作成する必要があるのはもちろんTさんも理解しています。その上で、Tさんにキャリアプランをどのように考えてほしいか、背景や理由について教えていただけますか?」
上司:「正直なところ、Tさんにはいくつか改善が必要な点があります。特に、仕事の質が安定していないことや、期限を守る意識が不足しているところが気になります。これが原因でチーム全体のスケジュールにも影響が出てしまうことがあるんです。」
おや、Tさんは現状に満足していますが、上司はそうではないようです。もう少し聞いてみましょう。
私:「なるほど。それがチーム全体に影響を及ぼしているという点は、Tさん自身も少しずつ気づけると良いですね。他に懸念されている部分はありますか?」
上司:「はい。また、Tさんは指示を待つ傾向が強く、主体性に欠けている印象もあります。このままだと、組織の変化や新しい課題に対応するのが難しくなるのではないかと心配しています。」
私:「主体性の部分ですね。それが今後のキャリアプランにも大きく影響しそうですね。Tさんの具体的な行動について、どのような改善が必要だとお考えですか?」
上司:「現状では、Tさんはルーチン業務に集中しすぎていて、改善提案や新しい取り組みに消極的です。組織としては、変化を恐れず挑戦してほしいと思っているのですが……。」
私:「新しい取り組みや提案に対する積極性が必要ということですね。それをTさんがキャリアプランを通じて意識を変えられるようにする、というアプローチが考えられますね。」
上司:「そうですね。加えて、Tさんのコミュニケーション能力にも課題を感じています。チーム内での連携がうまくいかないことがあり、結果として仕事が滞ることもあるんです。この点も含めて、キャリア計画を立てながら自己改善に取り組んでほしいです。」
Tさんへの質問の深堀りをしても、この内容が聞けたかはわかりません。Tさんにヒアリングした印象では「自分もまわりも問題ないと思っている」でしたからね。
私:「コミュニケーション能力や連携の部分も重要ですね。これまでの話を伺うと、Tさんがスキルアップや行動を変えることで、チーム全体にも良い影響が及びそうです。私からTさんには、これらのポイントを丁寧に伝えつつ、キャリアプランを前向きに捉えられるようサポートしていきます。」
上司:「ぜひお願いします。Tさんがやる気を持って改善に取り組んでくれることを期待しています。」
この世の問題のほとんどは自分と相手の思いのミスマッチ
自分自身、書いていて心が痛む文です。今回のケースは極端なように見えますが、自分としては何度も見てきた景色です。
上司のコメントを聞いた後、Tさんと更に深い会話が必要になります。Tさんが上司のコメントをどのように受け止めるのかによって、Tさん自身のキャリアに大きな分岐点が発生します。
例えば、以下のように受け取れる方であれば、何らか前向きな一歩を踏み出せるでしょう。
・新しい視点や気付きを得た
・自分にも不足している視点があった
・上司(組織)との新しい関係性の再構築が必要なので直接会話したい
逆に、以下のように受け取るようでしたら、本人としても組織としても次の一歩を踏み出すのが難しくなります。
・上司の言うことは納得できない
・今のままのやり方で問題が発生していないのだから、変える方がおかしい
どちらか一方が正しいということはもちろん無いです。
Tさんが知らない状況を上司が把握している、とも見えてしまいますが、この場合、Tさんのやり方を貫くことが客観的に見て素晴らしい成果を生むことだってあるわけです。
唯一言えることは、当事者であるTさんと上司の思いはミスマッチを起こしている、ということです。
組織の問題は、常に思いのずれから発生します。
組織の管理者であれば、優先度高く取り組むべきはミスマッチの解消になりますし、キャリアコンサルタントとしても、Tさんのキャリアを考える上で、一番近い上司との思いのずれを本人にも認識してもらい、次の一歩を考えてもらう必要性が生じます。
次のステップは?
1.上司の懸念事項をもとに、Tさんの課題を明確化し、具体的かつ優先順位で整理する
上司の懸念事項(例: 仕事の質、期限意識、主体性、コミュニケーション力)を具体的に分解し、Tさんがすぐに取り組める内容から始められるよう優先順位を付ける。
2.上司の期待や懸念を、Tさんがポジティブに受け取れる形にするため、キャリアコンサルタントがサポートする姿勢を示す。
懸念事項を「期待」として伝える
上司の懸念事項を否定的な形で伝えるのではなく、期待や信頼の表れとしてポジティブに伝える(例: 「上司はTさんの安定感を評価しつつ、もっと積極的な提案ができるはずだと期待しています。」)。
具体例を挙げる
Tさんがこれまでに上司に良い影響を与えた具体的なエピソードを交え、「過去の成功体験を活かして今後もさらに期待されている」と伝える。
フィードバックのセッションを実施
上司の期待を共有しつつ、Tさんが「期待されている」と前向きに感じられる場を設ける。
3.Tさんの反応のパターンに応じて、Tさんの思いと組織の思いをすり合わせる
前向きな反応の場合
「どう取り組むか」を一緒に考える具体的なアクションプラン作成
慎重な反応の場合
「なぜそれが必要なのか」を丁寧に説明し、組織全体の文脈を共有
小さな成功体験を積むようなアプローチ
フォローアップの場を定期的に設け、進捗を確認しつつ安心感を与える。
ミスマッチのパターンが逆の場合
今回は上司評価が低いケースでしたが、上司評価が高いケースもあります。本人は今のままで良いと思っているが、上司としてはキャリアアップ(昇進昇格など)してほしいパターンですね。
いずれこのケースも取り上げます。