彼の匂い
四月は穏やかな日和だったのに、五月の大型連休が明けた途端に日差しが強くなった。おかげでまだ二限目なのに、準備体操と軽いジョギングをしただけでじんわり汗ばむ羽目になった。パス練習が終わったころには、汗が滴るやつも若干名いた。
「ましゅ!」
おるばくんが水道から戻ってきた。ジャージの首元を引っ張って顔の汗を拭う。
「チーム分け見た?俺Aチーム」
「Cだったよ」
「お、後半か。勝てば決勝で戦えるな」
「別に戦わなくてもいいよ」
そもそもサッカー好きじゃないし。僕は参加せず、おるばくんのプレイを見てるだけでいいんだけどな。
「まぁ今日は練習試合だし、お互い楽しもうな」
「相手チームにサッカー部のやついるから、下手すると一回もボールに触れず終わりそうだけどね」
「Bにもいたな。あいつら上手すぎだよな」
ホイッスルが響いた。前半組の試合を始めるため、邪魔にならないようコートから日陰に移る。AB両チームがぞろぞろ集まってきたところで、おるばくんが何か気づいたように急いでこちらに向かってくる。おもむろにジャージを脱ぎ、僕に投げてきた。
「預かっといて!汗かいてるから臭かったらごめんな!」
と言い、颯爽とコートの中心へ。僕はキャッチしたジャージを雑に畳み、お腹に抱えて体育座りをする。
「嫌な臭いがするわけなんてないのに」