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体育祭当日

*「来月は」の続きです。まだ読んでない方は、そちらからどうぞ!

いよいよ体育祭当日がやって来てしまった。

借り物競争の選手になったときからずっと嫌な予感がしている。もし本当に『好きな人』とか『彼氏』とか(男子同士だとあからさまにネタとして扱われやすいので、こういうテーマは男子のレースの時に多い)を引いてしまったらどうしよう。

体育祭が近づくにつれて元気が無くなっていく僕を心配してくれたおるばくんが、それはそれは大きいお弁当箱を持ってきてくれた。お母さんと一緒に早起きして作ってくれたんだって。

申し訳なくて仮病で休む訳にもいかないよ…。

何にせよ、まずはおるばくんの応援だ。クラスの運動部であろうでかい子たちに呼ばれ、最前線で応援する。

位置について、用意…

ピストルの音と同時に走り出す。おるばくんは…陸上部でも無いのにまさかのアンカー?!

あっという間に2人目、3人目ときて、どのクラスもほぼ互角のスピードで競い合っている。

おるばくんがバトンを受け取る。上手い!1位との差が徐々に縮まる。がんばれ。がんばれ!

結果は惜しくも2位だったが、靴1足分くらいの差しか無かったように思えた。


戻ってきたおるばくんは、

「惜しかった!かっこいい所見せたかったんだけどな〜」と笑う。

クラスのみんな口々にかっこよかったよ!すごい早かったね!とヒーロー達を褒め称える。

次は障害物競走で、その次が借り物競争だ。
障害物競走をしている間に待機場所へ向かう。

待機場所には、他クラスの数少ない知り合いがいた。

「タケちゃん」

「おー!ましゅも借り物競争か!何番?」

「3番目だよ」

「じゃあ一緒か!負けないぞ〜」

僕の憂鬱な気分とは対照的に明るく笑いかけてくれる。ごめんタケちゃん僕そんな気分になれない。

そんな僕の態度を見て何か気になったのか

「なんかあった?」

と聞いてくれたけど、僕がただ心配で気分が落ちてるだけなので

「変なテーマだったら嫌だなって思っただけだよ」
と返すと、それな〜と共感してくれた。

「プログラムNo.6『借り物競争』」

選手の入場だ。変なテーマは前に走る2レースの人たちが全部引いてくれますように。3レース目の時は変なテーマが入ってませんように。『靴』とか『眼鏡』とか、無難なテーマでありますように。

そう願って前の人たちのレースを見ていたが、遠くて具体的なテーマまで確認できなかったが、見た感じイロモノ系のテーマが全然入ってなかったようだ。終わったか…?次は僕たちの番だ。


「位置について、よーい」

ピストルの音が鳴り響く。タケちゃん足速い!

最後に封筒を開いた僕は目を疑った。

『好きな人』

と書かれている。よりによってこれか…。

他の選手たちは借り物を探しウロウロしたり、辺りを見回してゼッケンを奪ったりしている。

「ましゅがんばれー!」

おるばくんの声が聞こえる。どうしよう。
1秒も経ってないはずなのに、時間が永遠のように感じる。気持ち悪い汗が流れる。どうしよう。

「ましゅどうした?」

タケちゃんに声をかけられる。手には友達から借りたであろう眼鏡が握られていた。

「いや、えーっと、」

タケちゃんは僕が持っていた紙を覗くと、斜め上をわざとらしく眺め、タケちゃんが持っていたものを僕に押し付け、僕の紙を奪った。

そして、タケちゃんは自分で自分を抱きしめた。セルフハグをしたままゴールまで一直線に走っていった。

「え?え??」

何が起こったのか理解ができず、とにかくタケちゃんの後を追いかける。タケちゃんは3位、僕は4位だった。

マイクを持った司会者がタケちゃんにテーマの確認をすると、「俺は俺が好きなので!」とタケちゃんが言い、どっと笑いが起きた。

借り物競争なのに誰にも何も借りてないので失格になるかと思われたが、1位でもないし面白いのでギリギリOKということになった。(借り物で自分を持ってきた、というのは無しという新ルールが追加された)

タケちゃんありがとう。今度何かおごるね…

無事体育祭を終えたけど、みんなに僕の好きな人を公開するのは、まだ覚悟が足りないなと改めて感じた。好きなのに言えないなんて、とも思うけど、普通の男女カップルだって、別に必要以上に公言しないわけだし。

でもやっぱり、おるばくんのことが好きだと言えないみたいで、後ろめたさもある。このことについては、もう少し時間をかけて考えようと思った。卒業してからの身の振り方を今のうちに考えておかなくちゃね。

今日は気疲れもあって、体育祭の打ち上げも行かず、真っ直ぐ帰ってきたのに疲れすぎて玄関で寝た。起きたら翌日の昼だった。あれしか走ってないのに筋肉痛になった。もしかして僕、弱すぎ?

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