消えた数字
あらすじ
主人公・菜月(なつき)は、地方銀行で働く平凡な事務員。ある日、帳簿を整理していると、数年前の取引記録に「ありえない数字」を見つける。それは巨額の不正送金を示唆するデータだった。調査を進めるうちに、同僚が謎の失踪を遂げ、銀行全体に張り巡らされた闇が浮かび上がる。菜月は命をかけて真相を追うが、背後には大きな陰謀が……。
冒頭
銀行のオフィスに広がるのは、規則正しいキーボードの音と、時折聞こえる電話のベル音だけだった。菜月はデスクの上に積まれた書類を前に、ため息をつく。
「これ、全部今日中に終わらせないといけないのよね……」
地方銀行で働く彼女の業務は単調だった。毎日決まった時間に出社し、膨大なデータを入力し、上司のチェックを受けて帰る。その繰り返し。誰が見ても平凡な生活だが、菜月にとっては「安定」そのものだった。
しかし、その平凡さが崩れるのは突然だった。
謎の記録
菜月が問題の帳簿を見つけたのは、定時間際だった。
「この記録、なんかおかしい……?」
それは5年前の大口取引に関するデータだった。通常、口座間の送金は正確な金額と日付が記録される。しかし、その記録には明らかに異常があった。取引額が「1円」単位で細分化されており、合計すると莫大な金額になっていた。
「これ、どういう意味……?」
菜月は不安を覚えた。誰かのミスにしては規則性がありすぎる。偶然ではない。
翌日、彼女は上司にその記録を報告した。だが、上司の反応は冷たかった。
「その記録は問題ない。気にしないでいい。」
それだけを言い残し、上司は立ち去った。菜月の中で、不信感が膨らんでいく。
失踪した同僚
数日後、菜月は調査を続けるために過去の帳簿をさらに詳しく見直していた。しかし、奇妙なことに気づいた。先日一緒に業務をしていた同僚・吉川が突然姿を消したのだ。
「吉川さん、最近見ないけどどうしたんですか?」
何気なく別の同僚に尋ねると、相手は少し戸惑った様子で答えた。
「聞いてないの? 急に退職するって言ってたけど……」
退職? それも、こんな急に? 菜月の胸に不安が募った。調査を進めていた時、彼女のデスクに一通の封筒が置かれていた。差出人不明の封筒には、こう書かれていた。
「これ以上首を突っ込むな。命の保証はない。」
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