「好きを追いかけて」ースペインのサッカー留学で見つめ直した、自分の好きなことで生きていくこと|ALiveRallyインタビュー#13
「好きを必死で追いかけて」ー僕のサッカー人生
ーーひかるさんは、スペインでサッカービジネスの勉強をされていたとのことですが、サッカーに興味を持ち始めたのはいつ頃だったんですか?
A. 親曰く、3、4歳の頃からすでにボールで遊んでいたみたいです(笑)。
ーーそんな小さな頃から!?
A. そうらしいです(笑)。小学校1年生の時に、親に地元のサッカースクールに連れて行ってもらったのがきっかけで、サッカーとの縁はそこからです。サッカーを通して友達ができていくのが楽しくて、どんどんサッカーにハマっていきました。そこから今まで、部活やインターンなどを通して、ずっとサッカーに関わってきました。
ーー本当に小さい頃からサッカー一筋の人生なんですね!やっぱり小さい頃からサッカー選手になるのが夢だったんですか?
A. 最初はプロのサッカー選手になりたかったんです。でも中学生の頃、親に「さすがにプロの選手は無理だから、やるなら違う形で関わりなさい。」って言われました。
当時、自分は英語が好きだったので、それからはサッカーチームで通訳者として働きたいと思うようになりました。明確にどう関わりたいかを決めたのは、その時だったと思います。
ーーなるほど。自分の得意なことを活かしてサッカーに関わるということですね。
A. はい。なので自分がAIUを選んだ理由も通訳者になりたいという思いが大きかったからでした。だけど実際にAIUに入ってみると、周りは英語ができる人ばかりで...自分の英語力に対して、劣等感を抱き始めてしまってしまったんですよ。僕自身、周りと比べてしまうことが多くて...。
ーーそれ、すごく分かります。私もよく比較して、落ち込んでました。思い描いていた未来像が崩れかけてしまったんですよね。ひかるさんはその試練をどうやって乗り越えたんですか?
A. 英語に対して劣等感を抱き始めたときに、ちょうどスペイン語の授業を取っていたんです。その時にスペイン語は日本人でも発音が比較的易しくて、言語習得に対する壁もあまりないことに気付きました。それがきっかけでスペイン語に興味を持つようになりました。他にも、スペイン語はサッカー大国の南米やスペインで多く使われているので、もし話せるようになったらスペイン語は自分の強みになるのではないかとも思うようになりました。その時から、英語ではなくスペイン語の通訳者になることを意識し始めました。
ーーそうだったんですね。ひかるさんが参加された留学プログラムでは、スペイン語も学べるということでしたが、そのプログラムを知ったきっかけはいつでしたか?
A. スペインに行く前にも一度休学をしていたんですけど、その時は大阪のサッカーチームでインターンをしていて、そのインターン中に、バルセロナの留学プログラムの話を聞いて興味を持ちました。
ーー大阪のサッカーチームでのインターンがきっかけだったんですね。そこからどういう経緯で今回の留学プログラムの参加を決意したんですか?
A. インターン中に、どうしたら本格的にサッカーに関わる仕事ができるかを考えさせられて、もっとサッカービジネスに強くなりたいと感じたんです。加えて、スペイン語も学びたかったので、サッカービジネスもスペイン語も学べる留学プログラムを探していました。このプログラムでは、現地の語学学校とサッカーチームで本場のスペイン語を学べるし、サッカービジネスにも関われる。スペイン語とサッカーで働くことに興味を持っていた自分にとって、ぴったりだなと思い、参加を決意しました。
ーー自身が学びたいことと留学のプログラムの内容がぴったり一致したんですね。1年間休学してスペインへ渡るのはかなり大きな決断だと思うのですが、渡航を躊躇することはなかったですか?
A. 躊躇は全くなかったですね。ひたすら行きたいと思う気持ちが強かったので。
「自分から動いていれば...」ー留学を通して経験した後悔と学び
ーーここからは留学プログラムについてのお話を聞いていきます。始めに留学プログラムの内容について、詳しく教えて頂けますか?
A. プログラム内容は主に3つあって、①語学学校でスペイン語を学ぶこと、②サッカービジネスを学ぶこと、それから③チームに所属して、サッカーをプレーをすることも含まれていました。
ーー②のサッカービジネスを学ぶっていうのあまり想像できないんですが、具体的にどんな事を学んでいたんですか?
A. 実際にスペインのサッカー業界で働かれている方と毎週セッションをして、サッカークラブの構造やお金の流れ、スペインと日本のサッカー教育の違いなどを学んでいました。
ーーなるほど。では、留学期間中サッカービジネスに関わっていく中で、ゴールにしていたことはありましたか?
A. 自分の将来のためにも、サッカーに関わっている人と人脈を作ることを目標にしていました。だから現地で活躍されている方や日本人も含めて、色々な人のお話をとにかく聞こうという気持ちでいました。
ーー実際、留学中にサッカーに関わる方々と繋がることはできましたか?
A. そうですね。サッカーに関わる人にたくさん出会って、刺激をもらうことができました。語学学校で一緒に学んでいる人やサッカーチームでプレーしている人の中には、サッカー関連の人脈を持っている人が多かったので、そうした人たちを通して、「自分は将来こんなことができるようになりたいんです」と思いを語り続けて、少しずつ人脈を広げていきました。
ーー具体的に、どんな方と交流されていたんですか?
A. 例えば、ベルギーでサッカークラブを経営されている方や、サッカークラブで通訳として働かれていた方にも出会うことができました。出会った方々はサッカーに対する熱量がすごく高くて、そういう方々との交流は自身のモチベーションにも繋がりました。
ーー留学中に築いた人脈が、自身のエネルギー源になっていたんですね。留学中に自分の夢に一歩近づいたなと感じる出来事はありましたか?
A. ありました!それこそ、留学中に出会った方からサッカーに関わるお仕事を頂くようになりました。例えば、バルセロナで偶然出会ったサッカー業界の方に、インターンのポストを作って頂き、働かせて頂いたことがありました。その方は日本からバルセロナに出張で来ていたサッカー関連のコンサルティング企業の方だったんですが、その方と一緒にサッカーの大会に参加する機会がありました。その大会会場に向かう車で自己紹介をする中で、自分のバルセロナ留学の動機をお話ししました。そうしたらその数日後に連絡が来て、カフェでお話しようと誘ってくださって。
ーーええ!すごい気になる展開!(笑) 一体何が...?
A. 実はその方が働くコンサルタント企業は日本やスペインのサッカークラブと仕事をしていたんです。その方は僕とお話をする中で、僕のサッカーに対する熱意を知ってくださって、自分のために急いでインターンシップ制度も作ってくださったんです。現在はその会社のインターン生としてスペインのプロサッカークラブの日本展開(サッカースクール事業など)や、最近発展している女子サッカーの概要についての調査を任せてもらっています。
ーーすごいです!とても貴重な経験ですね!夢を声に出して語ると近づくって、本当なんですね。ところで、ひかるさんは通訳を目指しているということでしたが、インターン中にスペイン語を使ったお仕事もありましたか?
A. はい。そのインターンはスペイン語や英語でのソースを主に活用するので、通訳というよりは翻訳に近いですが、スペイン語を常に使っていましたね。このインターン業務を任された時は、自分の言語力を認めてもらえたんじゃないかなと思えて、すごく嬉しかったです。
ーー作り上げてきた人脈やご縁を通して、お仕事を頂いたり、スペイン語を使う環境に身を置いたり...ここまでお話を聞いていて、ひかるさんは自分から積極的に動き続けていた印象なのですが、そこは意識して行動されていたんでしょうか。
A. はい、自分から動くことは意識していましたね。ただ、その重要性を再確認したのは、留学開始から半年くらい経ってからだったかなと思います。留学前は、その環境に飛び込んでみたら、向こうから何か与えてくれるんじゃないかって考えていました。例えば、初めて休学して、(日本の)サッカークラブでインターンしていたときも、自分は言われたことをただやっていただけで、受動的だったなと思います。留学が始まってからも、どちらかというと環境に身を任せていたというか。サッカーに関わる環境に身を置けばチャンスが自然と舞い込んで来るだろうって思っていたんです。でも現実ではそうなることは少なくて。
ーーそうですよね。確かに留学に行くだけで、充実した生活が送れると思ってしまいがちですよね。私にも思い当たる節が...(笑)
A. ですよね(笑)。例えば、自分が通訳になりたいんですって言ったら、声がかかるのかもと期待していました。でも、自分が満足できるほど、「向こうから」声をかけていただくことは少なくて。休学していた頃も、自分でキャリアを切り開きたいと思いつつ、自分から動けていなかったから、学びが薄かったんじゃないかなって思ったんです。
だから、「もっと自分を売り込んでいかないと」「もっと自分の足を動かして、もっと色々な人と関わらなけばいけないな」って気付いたんです。それからは、もちろんサッカーに関われる環境に身を置くこともそうだし、自分から声をかけて繋がっていくことも更に頑張りました。
ーーすごい!実際に自分から動いてみて、チャンスを掴むことはできましたか?
A. はい。それこそ、先程お話したバルセロナで出会った方とのインターンですね。今でもそのインターンは続けていて、サッカービジネス事情もスペイン語も日々勉強できて、とても幸せです。
「やればいいじゃん、生きていけるし」ー揺らぎの中で見つけた人生の指針
ーー留学中、ひかるさんは数多くのサッカーに関わる人と出会うことができたと思うのですが、その出会いや関わりを通して、ご自身のキャリアプランに何か変化はありましたか?
A. それが、実はこの留学で、自分のやりたいことに携わっている人が身近にいるようになって、自分の夢が少し揺らいだ瞬間がありました。
ーーえ、そうなんですか?サッカーに関わる人と交流されて、夢がどんどん固まっていったと思っていたんですが...
A. 留学して、サッカービジネスに関わる人たちと交流する中で、現実を見たというか。給料面とか、労働環境の面でもあまりいい話は聞かなくて。例えば、好きなことをしていて、生活面が苦しくなった。でも好きなことをしているからそれで満足なのか、という問いにぶつかりました。それから、好きなことをし続けることと、生活面のバランスをとるのは難しいなと、キャリアについて悩むようになりました。将来自分はどうなりたいのか、自分なりの理想像が具体的に描けていないことに気付いたんです。
ーー留学で、現実を突きつけられて、今まで詰め切れていなかった部分が見えてきたんですね。
A. そうですね。それに同級生なんかは、自分が留学中にどんどん就活を進めて将来のキャリアについて考えていました。周りには安定した一般企業を志望する人も多く、自分のように好きなことを仕事にしようとしている人はあまりいなかったんです。生活面の安定をとるか、好きなことをとるかで悩んでいた自分にとっては、結構しんどい時期でしたね。もちろん好きなことよりも安定した収入を優先することが悪いことではないし、1つの考え方ではあるけれど、「それならなんでスペインに来たんだろう?」とか、「自分が今までやってきたことって無駄だったのかな」とか、色々と考えるようになっていきました。
ーースペインに来て自分で動いたからこそ気付けたことなんでしょうか。今まで追い続けていた夢を一度立ち止まって考える必要があったんですね。ひかるさんはその葛藤をどうやって乗り越えたんですか?
A. 今も完璧に乗り越えれられた訳ではないけど、留学中に出会ったサッカーに関わる人たちと交流して視野が広がったのは大きかったですね。スペインで出会ったサッカーに関わる人たちは本当に多種多様な方法でサッカーと関わっていました。スペインの日本食レストランで生計を立てながらサッカーのコーチをやっている人や、サッカーの試合を毎週末追っかけしながらライターをしている人がいて、自分が見ていた世界って狭かったんだということに気付きました。今まで1つの道しか考えてこなかったけど、サッカーに携わる方法ってたくさんあるなって気付いて、固定観念が壊された感じがしました。
ーーサッカーに関わる人たちとの出会いで視野が格段に広がったんですね。
A. それに出会った人に自分のキャリアに関する悩みを言うと、皆「やればいいじゃん、生きていけるし」って言うんです(笑)。
ーーかっこいいですね。
A. 好きならやればいいじゃん、迷うことないよって。
それで、自分の中でもう一回シミュレーションしてみたんです。『好きなことだけをやっている自分』と『ゆとりはあるけど、好きなことをやれていない自分』を想像して。その時に、やっぱり好きなことをしている自分の方が好きだなって気付いたんです。
ーー非常に素敵な考え方ですね!もしサッカーに関わる人たちと出会っていなかったら、そこには気付けかったかもしれないですよね。
A. そうですね。彼らに出会っていなかったら、金銭面・生活面などの現実的な部分も見れなかったと思いますし、それに加えて、そういった交流の中で、自分が将来どうなりたいのか、指針をもらえたような気がしたので、留学したことは間違っていなかったと思います。
ーー交流の中で、将来への指針を得ることができたんですね。
A. 留学中はかなり忙しくて、パンクしそうになる時もありました。でもそのときに、寝る間も惜しんで好きなことをしている自分が好きだなって気付けたんです。だから、忙しくてもストレスに感じることはあまりなく、楽しいという気持ちの方が大きかったですね。
ーー留学を経て、自身の好きなことを仕事にしたいという思いは変わらず、むしろ強くなったんですね!
「まだまだ足りない」ーサッカーを知らない人をサッカーの世界に連れていくために
ーー留学を通して、ひかるさんは自分の夢に着実に近づいていっているなという印象を受けたのですが、今のところの満足度はどれくらいですか?
A. うーん、低いですね。30、40%くらいかな。
ーーえ、意外です!留学を通して、将来が明確になったのではないかと思ったのですが…
A. もちろん留学中にやれることはやり切ったと感じるのですが、将来の夢にどれくらい近づいたかに関しては、まだまだ足りないなって思いますね。
ーーひかるさんはかなり忙しい日々を送られていたと個人的には思うのですが、それでも足りないと?
A. せっかくスペインに来ているんだから、日本人だけではなく、もっと現地のサッカー関係者の人と関わればよかったんじゃないか、とか、実践を通して学べばよかったな、とか。もっと自分から動けていたらという後悔や反省点はたくさんありますね。ないものねだりかもしれませんが...
ーーひかるさん、逆にどこまで行ったら満足できるんですか?(笑)
A. 好きを仕事にして、食べていけるようになるまでは納得はいかないんじゃないかなって思います。この壁を超えられたら、達成感があるとは思うのですが、今の段階ではまだそこまで到達していないです。好きなことだから、まだまだ成長し続けたいと思うし、形になるまでは満足できないなって思っています。
ーー道が見えてきて、かつ前に進んでいる実感があっても、現状に満足せず、まだまだ夢に向かって成長し続けている姿、尊敬です...!将来サッカーに関わる仕事をする中で、実現していきたい目標などはもうすでに浮かんでいたりしますか?
A. 日本で、サッカーを知らない人をサッカーの世界に連れていきたいなって考えています。そのためにもサッカーを知らない人たちのサッカーに対するアプローチを増やしていきたいです。スポーツには、見ている人に非日常の空間、さらには感動を与える力があると思っています。サッカーを見る人やプレーする人が増えて、少しでもその魅力が伝わればいいなと思っています。
でも、いきなりサッカーを見ろって言われても興味がない人からしたら、ワールドカップとかオリンピックみたいな大きい大会じゃない限り見ようとは思わないかなと感じるんです。ましてや、海外サッカーなんて日本だと時差で深夜放送になりますし...。
様々なアプローチを通じて、自身の能力を最大限に生かし、サッカー界に貢献していきたいです。サッカーに関わる多様な関係者との協力を通じて、サッカー関係人口を増やして、サッカーを通して社会を豊かにできたらいいなと思います。
ーー夢がどんどん膨らみますね!聞いているだけでひかるさんの未来にワクワクしてきました!
A. はい、まだまだ頑張ります!!
文責
Interviewer: Suzu Oshima/ Misaki Abe
Writer: Misaki Abe
Thumbnailing: Uruha Kaji