PGTⅩ. モザイク胚の移植優先順位をどう決めるのか(その1)
正倍数性胚が獲得できていれば、正倍数性胚の移植が第一選択です。なかなか正倍数性胚が得られない、あるいは正倍数性胚を移植したがうまく育たなかったという場合に、モザイク胚の移植を考えます。複数の移植可能胚があるならば、どれを移植するのか、移植の優先順位をどのように決めればよいのでしょう。
移植優先順位を決める重要なポイントは、妊娠、出産できる可能性が高い。生まれる赤ちゃんの健康リスクが少ないこの2つです。
① 妊娠、出産に至る可能性が高い胚
PGTは体外受精の補助的な検査ですから、妊娠、出産が一番の目的です。
着床やすい育ちやすい胚とは、染色体が正倍数性であること、グレードが良いことが条件となりますが、正倍数性胚であれば、グレードがかなり低くても十分出産できる可能性はあります。
モザイク胚の場合は、どのようなモザイクなのかという事が影響します。
この影響を調べようと1000個のモザイク胚を移植してその後の経過を分析した研究があります。
Using outcome data from one thousand mosaic embryo transfers to formulate an embryo ranking system for clinical use. Viotti et al. Fertility and Sterility Volume 115, Issue 5, May 2021, Pages 1212-1224
モザイク胚を移植すると、正倍数性胚に比較して着床率、妊娠継続率は有意に低く、流産率は有意に高いという事がわかります。
モザイク胚(全体)とは異数性モザイク胚と部分的異数性モザイク胚を合わせたものですが、異数性モザイク胚単独の方が着床率、妊娠継続率は低く、流産率は高くなっています。つまり、部分的異数性モザイク胚の方が、異数性モザイク胚に比べると妊娠継続率は高く、流産率は低いという事になります。
異数性モザイク胚と部分的異数性モザイク胚については、「PGTⅨ. モザイクの結果は胎児の情報と一致しているのか?」で説明をしています。
モザイク率の違いにより結果は変わるのでしょうか。
異数性モザイクの場合はモザイク率が上がるにつれて着床率、妊娠継続率は有意に下がります。部分的異数性モザイクではモザイク率の違いの影響はありません。
次に、モザイクの種類ごとに妊娠継続率の比較をしています。
モノソミーモザイク(染色体の量が不足している)場合とトリソミーモザイク(染色体の量が多い)場合で妊娠継続率に有意差は検出されませんでした。
どのモザイクも正倍数性胚に比べると妊娠継続率は有意に低いです。関わる染色体の数が増えるにつれ妊娠継続率は下がっていきます。多染色体とは3か所以上の染色体にモザイクが検出された場合を示しています。
部分的異数性胚の場合は異数性を示す染色体の数が変わっても妊娠継続率に影響がないことが示されました。
異数性を示す染色体の数に加えモザイク率の影響も加味した結果です。
モザイクの中では部分的異数性モザイクの妊娠継続率は高く、異数性モザイクでは異数性を示す染色体の数が増えるにつれ妊娠継続率は下がり、低頻度モザイクの妊娠継続率に比べ高頻度モザイクの妊娠継続率は有意に低いことが示されました。
ただし、高頻度多染色体モザイクであっても、13.2%は妊娠継続できていることに注意を払う必要はあります。
以上の結果を総合して提唱されたのが以下の移植優先順位となります。
低頻度モザイクはモザイク率50%未満、高頻度モザイクはモザイク率50%以上です。
生まれる赤ちゃんの健康リスクが少ない胚の選択については、次項
「 PGTⅪ.胚の移植優先順位をどう決めるのか(その2)」で述べます。