静寂に熟れる果実

冷たい月 月明かりに揺れるカーテン
心の中で燃える小さな炎を隠して
触れたら壊れそうな静寂にそっと息を止めた

「今夜の星は遠すぎる」なんて
何気なく言った言葉の裏に
伝えきれない震える声が
ひそやかに埋もれていた

甘い果実が熟れてゆくみたいに
その瞬間を待ちきれないけれど
まだ触れないで、この花びらに
風がそっと触れるようにしてほしい

閉じた瞳に映る深い森
足元には絡まる蔦のような不安
自分でもほどけないまま
心は迷子になっている

「少し寒いね」と微笑んだ背中
その声がそっと降り積もる雪のように
胸の奥に触れるたび
痛いほど溶けていった

夜風が窓を叩くたびに
言葉は空へ舞い上がっていく
でも手のひらに残るぬくもりは
今すぐ伝えたい想いをせき止める

どうか気づいて、この静寂の中
言葉にならない声の色を
そっと耳を傾けて
見つけてほしいから

月が満ちる夜に咲く花のように
秘めた想いは隠せないけれど
まだ言えないの、この鼓動さえ
あなたに壊されるのが怖くて

甘い果実が熟れてゆくみたいに
その瞬間を待ちきれないけれど
まだ触れないで、この花びらに
風がそっと触れるようにしてほしい


            CO₂production 小野寺千尋

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