「窮鼠はチーズの夢を見る」を観た感想。
これは所謂"同性愛"のお話と簡単に言っていいのか、私には分からなかった。いや、確かに主人公も相手役も男性なので、きっとそうなんだろうけど、なんだろう…普通にとてもリアルな恋愛映画だったなあ。
自分の形が保てなくなるくらいに人を好きになってしまうと、幸せなのに苦しくて辛くて切なくて、いっそ断ち切ってしまう方がよっぽど楽で、でも好きだから側にいたい。
その気持ちはいつだって綺麗な形とは限らなくて、時に醜くてドロドロしていたりする。
漫画が原作って、個人的にあんまりいいイメージがなかったんだけど、観賞後に「そういやこれ原作漫画だったっけか…」ってなったくらい、とても映画的なつくりだった気がします。(詳しくはないけどそう感じた)
最初から最後まで、大倉忠義演じる大伴の良さが正直わからなかったんだけど笑 ※顔は最高、あと尻
成田凌演じる今ヶ瀬に感情移入してしまったなあ。とにかくめちゃくちゃ演技が上手くてすごく魅力的だった。応援上映があったらデカい声で「今ヶ瀬幸せになってー!!!!」って叫びたかった。
大伴が元カノのさとうほなみ演じる夏生と今ヶ瀬のどっちをお持ち帰りするのか選ばされるシーンで、「お前を選ぶわけにはいかないよ、わかるよな?」と言われて、「…はい」って答えるシーンの、微笑みながらも深く傷ついた表情。
誕生日に生まれ年のワインを貰って、大事そうに抱えながら「なくなっちゃうから飲まない」と言うと、「じゃあまた来年あげるから」って返された時の、幸せな気持ちと同時に苦しくて辛い気持ちを孕んだ表情。
いやあ、上手だった…いい俳優さんだねえ。
女性と比較されるとあっさり切り捨てられてしまうような、いつなくなるとも知れない関係に、割り切っていながらほんの少し希望や自惚れを抱いてしまう感じとか、寂しさと諦めを常に纏った感じとか、複雑な心情が見事に表現されていてすごく良かった。台詞すごい少ないのにね。
ゲイだとかゲイじゃないとか、男だとか女だとかそんなんじゃなくて「その人」を好きになるってこういうことなんだろうなあと思った。「その人だけが例外になるってこと」。
あとさとうほなみ演じる夏生が気持ちの良い性格してて個人的にはすごい良かった。夏生はきっと普段から周りに男らしいとかサバサバ系とかって言われるんだろうな〜!と思うけど、めちゃくちゃオンナ!THE 女!
大伴の相手として何人か女出てくるけど、戦う相手が今ヶ瀬だと知ってるのって夏生だけなんだよね。恋敵の相手が女性ではなく男性と知った上で全力で殴りに行く感じ、好きだったなー笑 まあ元々後輩ってこともあるんだろうけど。
結局夏生自身というよりは、今ヶ瀬と張り合える強みは性差だけだったしね。それはそれで切ない。
なんか…男とか女とか、何なんだろうなあと思った。人間としての魅力の前では、そんなもの何の分類にもならないなあと思った。
単純に同性同士だと結婚はできないし、子孫は残せないし、それが"世間一般的に認められない"ってことなんだろうけど…なんかそんないろいろを置いといて、素直に羨ましい、と思ったな。あんなふうに人を想えるって。
帰宅して原作の漫画も読んだけど、台詞を極限まで削って、表情とか空気感とかで観客に行間を読ませる映画とは打って変わって、台詞がめちゃくちゃ詰め込まれてて文字数が多く、登場人物の心情とか心の動きとかが全部よく伝わってきて全くの別物でウケました笑
表現方法の違いなんだろうなあ、私は(別物として)どちらも良いと思ったけど、原作のファンは映画をどう思ったんだろう?もうなんか作品の雰囲気からして全然違うもんな笑 ダメな人はダメなのかもなあ。
私はどっちも良さがあって素敵だと思いました!好きなのは、映画の方かな。
最後のシーン。人の好意に流され続けて、常に表情がフラットで何考えてるかわかんない大伴が、初めて自分の意思で今ヶ瀬を待つって決めた時の、憑き物が落ちたみたいにスッキリと晴れやかな表情になっていたの良かったな。
私は今ヶ瀬帰ってくると思ったけど…ハッピーエンドになるかどうかなんてわかんないよね、恋愛てそういうもんだ。