機械に頼らない降下計画
精密な降下計画を立てるときはFMSやGPSを使うが、機械が吐き出した数字をクロスチェックするためにも暗算で大まかな地点を計算できるようにしておきたい。ただ問題なのが、計算方法がたくさんあってどれを使えばいいか分からない人が結構いるということ。参考にしようと先輩方に聞いてみるが皆それぞれ求め方が違っていて、どれが自分に最適なのか全く分からない。計算のもとがパス角だったり姿勢変化を活用したりと、とにかく色々あるのだ。
そこでいろいろな計算方法を試したのだが、結果分かったことは「計算方法なんてどれでもいい」ということだけだった。だいたい合っていればOK。重要なのは正確さよりも計算のしやすさやシンプルさである。ただ乗務機種によって使うべき計算方法が変わるので使い分けをする必要がある点だけには注意しよう。
これから降下開始地点(Top of Descent、ToPD)を暗算で割りだす、僕なりの求め方を二つ紹介する。暗算方法が定着していない迷子の方は自分に合うかどうかを見極め、参考・活用していってほしいと思う。
まず一つ目は「3-to-1 ルール」を用いた計算方法。そして次に「一定降下率」を基準に求める方法。順番に書いていく。
3-to-1 ルール
機種:ターボジェット(ターボファン)機など
制約:降下時の速度は一定のものとする。(例:一定のマッハ数、またはIAS)
求め方:
1.降下高度を調べる
2.降下開始地点 = ((降下高度/1000) × 3 )NM
3NM進むたびに1000ft下降する降下計算をもとにしているのでこう呼ばれている計算式。ftを千単位で区切るので3 to 1という。
例題: FL230から、15DMEへ到達する前に11,000ftまで落としたい場合のToPDはVORから何マイルか
計算式:
降下高度はFL230 - 11,000ft = 12,000ft (千単位にすると12)
12 x 3 = 36NM
X = 15DME + 36 = 51NM
もし降下途中に減速する場合には「減速毎10ktsにつき1NM」を計算に加えよう。例えば巡航速度が300ktsで降下完了時までに250ktsへと減速するとして、50ktsの減速なのでToPDを5NM伸ばす。上の例題でいうと56DMEがToPDになるわけだ。
3-to-1ルールは1000ft/3NMを基準にしているが、パス角3°で降りたい場合には計算式を:降下高度(百単位) ÷ 3 に変えれば対応可能である。
例題を使うと:120(12,000ft) ÷ 3 = 40NMでX=55NMとなる。1000NM/3NMで割り出した答え(51NM)と異なるがこの誤差を重要視しない理由は、机上の算数と自然界の変化をごっちゃにしても何も生み出さないから。この暗算で大事なのは常に「飛行機より前で飛んでいる」状態を構築することだ。正確な数字は機械に任せ、大まかな目安を頭の中で把握しておく。そうしておくと何かが起きても早めに異常察知しやすい。もしフライト中に関数電卓をひっぱりだしてくるやつがいたらそいつはパイロットではなくエンジニアである可能性が高い。
さて、計算式を使う前に仕組みを知る必要があるのでもう少しくわしく説明する。
最初の1000ft/3NMは、1マイルにつき333ft降下(333ft/NM)する計算で、これはジェット機が出力アイドルでの降下時に必要な距離を目安として割り切ったもの。また、その次のパス角3°は1マイルにつき約300ft降下(300ft/NM)する3°パスを描いている状態のこと。この約300ftはtangent関数を使って以下のように算出できる。1NMは6076ftとする。
これによると1NM(6076ft)進むたびに318.43ft降下すれば3°パスを維持できることになる。このうちの18.43ftは微々たるものなので省略し、覚えやすい300ftを使う、というわけ。
さらに、これを見て分かるのは、実際のパス3°角(318.43ft/NM)は「333ft/NM」と「300ft/NM」のほぼ中間に位置するということ。どっちを計算に取り入れても対して変わらない理由はここにある。なので3 to 1 ルールで飛ぶと高めになり、300ft/NMを使うと低めになりがち。と言っても誤差は最大18ftでオンパス同然なのだ。
ちなみにパス角3.2°なら毎NMにつき339.7ft降りる計算だが目安として僕は320ftで覚えている。3°なら300ft、3.2°なら320ft、3.4°なら340ft。こっちのほうが覚えやすい。
余談だがこの前日本で話題になった羽田の新計器進入ルート(東京都心上空を低空で飛ぶのがあーだこーだというアレ。これについて詳細を知らないので何も語ることができないのは正直に言ってくやしい)における降下パス角は3.45°だそうで、この場合は366.3ftだ。だからなに?いや分からない、ただ言いたかっただけだ。
話が逸れた。
次に一定降下率で降りる際のToPD地点割り出しについて紹介する。
一定降下率
機種: ターボプロップ、ピストンなどの中低速機。VFR時、など
制約: 降下中は一定の降下率および速度を維持すること
降下高度と降下率、それから対地速度が必要だ。
求め方:
降下時間 = 降下高度 ÷ 降下率
必要距離 = 降下時間 × 対地速度
例題: FL230から15DMEに到達するまでに2000ft/minの降下率と対地速度240ktsで11,000ftまで降ろしたい場合のToPDはVORから何マイルか
降下時間 = 12,000ft ÷ 2000ft/min = 6分
必要距離 = 6分 × 240kts = 24NM
24NM + 15DME = 39NM
この計算方法は降下率を一定に保つことで降下にかかる時間を割り出し、対地速度と合わせて距離を求める方式で、特にVFR飛行時に使いやすい。ただ降下中は速度と降下率を一定に保つ必要があるので注意しよう。もし減速するのであれば3-to-1ルールと同じように追加1NM/減速10ktsをすればいいが、このクラスの飛行機だと大した速度調整はしないのでシンプルに省略することをおすすめする。
まとめ
どちらの方式を使うか、それとも使わないか、それはパイロット一人一人が決めることだ。紹介した方法にアレンジを加えてもいいし、そのまま使ってもらっても大丈夫。ただこの「目安」を使うのなら、フライト前に計算式の仕組みを理解することと、使うときは常にフライトパスをモニターするようお願いしたい。降下計画をFMSに丸投げするだけではなくいつでも簡単におおよその距離を割り出せると、もし何かが起きたときでも瞬時に異常を察知できるようになると思う。アタマが常に飛行機の先で飛んでいられるように、できる準備は先にしておきたいものだ。