「天幕のジャードゥーガル」にはまる
歴史もののフィクションは、結末は最初からわかっているところが多い一方、記録されている史実の空白に何を埋めているのかが面白さの醍醐味だと思います。はい。「天幕のジャードゥーガル」のお話です。
私自身、ファーティマはじめ、ドレゲネ、ソルコクタニ、ついでにチンカイさんがその後どうなるかはだいたいおさえてしまっている(そもそも、「ドレゲネ」でぐぐったらトマトスープ先生の絵(みんな年齢不詳キャラ)がボコボコ出現し、そこから興味が出て読んでみた)のですが、それでいても読んで面白いのであります。
この物語、実は「奪う」ということの罪深さ、それでも奪い続けなければ生きていけないという人間社会の悲しい性もテーマのひとつなんじゃないかと思っています。
ダイル・ウスン*1がドレゲネに、メルキトとモンゴルの因縁を「奴らには散々家財や家族を奪われたし、俺たちも同じくらい奪ってきた」と振り返るところ。
物語序盤で悪鬼のように描かれていたトルイ*2が、自身を「多くの敵を殺し、多くのものを奪ってきた罪深い魂」と高らかに宣言するところ。
滅ぼす側も、滅ぼされる側も、ともに己の深い罪を理解しながら、それでも奪うこと、それに抗うことの手を休めることのできない世界が繰り広げられます。
そして、「モンゴルにすべて奪われた」側としてともに帝国への復讐を誓ったファーティマ(シタラ)とドレゲネもまた、帝国内のパワーバランスを崩すために金国侵攻におけるトルイによる軍事作戦の成功を願うことが、すなわち金国で暮らす人々からすべてを奪いつくすということに気づいてしまっているわけです。
さて物語は、ファーティマとの出会いをきっかけに化学を駆使した陰謀を進めはじめた大カトゥン・ボラクチンの暗躍、そして直近の第23幕で、ファーティマの復讐心の火をつけたくらいのほほんとしたお后様として描かれてきたソルコクタニ・ベキついに覚醒か!?というところまできました。
これからも、帝国の宮廷内外で罪深き奪い奪われの物語が繰り返されていくはずですが、それを読みながら人間の悲しい性とともに、この世に真の和解が導けるのかどうか考え続けることにします。後に回収される伏線を探しながら笑*3
*1 ウアス・メルキト族長のダイル様、物語ではドレゲネの回想にしか出てきませんが、名言メーカーです。モンゴルすら見下す作中最後のセリフは、穏やかというかむしろくたびれてしまったように見えるおっさんとはとても思えない気高いもので、現段階でもっとも好きなセリフかもしれません。
*2 物語には、序盤に出てくる町に破壊と殺戮をもたらし抑留される女たちに見せつけるかのように捕虜を処刑する悪鬼トルイと、帝国内で最強ながらそれに驕ることなく父の遺訓と兄弟の結束を第一に己の身を棄てることすら厭わない軍神トルイがいます。どちらも愛妻家です。
*3 ちびっこカトゥン・キルギスタニが息子の褒賞に色をつけてもらうよう断事官に圧力をかけていたことが大カトゥン・ボラクチンにバレていたというショートコントが実は…
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