《ショートショート》愛しの彼女よ振り向いて
静けさが痛いくらいにこだましていた。
淡い照明の光に照らされた彼女は、朧げながらも鈍く光り、薄暗い部屋の中で確かな存在を主張していた。
どこか高級感すら漂う黒い衣を纏ったその褐色の肌はたちまち私を魅了し、背徳の炎に薪をくべるのだ。触れた指先がしっとりと張り付いた。湿りを帯びた玉の肌に思わず頬を寄せてしまう。
少しだけ……少しだけ……
ふっと、我に返った。
ダメだ。これは許されざる行いだ。まるで私を責めるように寝返りを打つ彼女に、心の臓がきゅっと引き締まる。
しかし、これではあんまりじゃないか。すぐそこに、身じろぎすれば届いてしまうほど近くに、彼女の裸体があるというのに。
誰かが耳元で囁いている。
その声はますます大きくなり、私という脆弱な個を呑み込んでしまうのだろう。
理性の抵抗など時間稼ぎにもならないと、他ならぬ私自身が知っている。
次の瞬間、私は狂ったように彼女を貪り喰らい、蹂躙し、口内で弄んだ。
甘美な悦びが脳髄を走り、思わず恍惚の息を漏らしてしまう。
視界が黒く点滅した。彼女の姿が網膜に焼きついたのだ。
いつまでそうしていたのだろう。
見覚えのある黒い衣は純白の下着と共に散乱し、ただ静かに私を苛んでいた。
やってしまった。
誰ともなしに呟いた私の言葉は、有馬街道線を走る暴走族の喧騒に消えていった。
佐藤大根 著 「黒飴おいしいよ黒飴」より抜粋