第二百二回 Ba 沙我|ノーズマウンテン・ラジオ アリス九號.のターニングポイントについて (後編)
今回のノーズマウンテン・ラジオは沙我とリモートで繋いで収録。
前回、アリス九號.における自身のターニングポイントについて語ったトークの後編パートをお届け。
ーー「RAINBOWS」を制作した時のことをターニングポイントとして挙げていらっしゃいましたが、その後、「RAINBOWS」のような曲調の路線でバンドは進んでいくのかなと思いきや。
沙我:この後も、プロデューサーと一緒に「売れる曲を作ろう」という風になったり、紆余曲折がめちゃくちゃ続いていきましたね。
ーーそうやって曲の方向性が定まらないアリス九號.に対して、周りの人達から「君達は何がやりたいんだ」と何度も言われたそうですね。
沙我:そうっすね。でもこれを読んでる九組のみなさんは「それがアリス九號.だよね」と当然のごとく思ってくれてるんじゃないですかね。言い方を変えれば、「バラエティー豊かでいろんな曲調があって、いろんなカラーの曲が楽しめるバンド」ということになりますから。そういう風に九組のみなさんには見てもらえてると僕は思ってますけど。
ーーでは、「RAINBOWS」を作って以降のターニングポイントを伺えますか。
沙我:それ以降の2〜3年じゃないですかね。その頃は、音楽性とか特に無かったバンドが「自分達はこれです」という明確な軸を作ろうとしていた時期だと思います。それも結果的によかったのかどうかは分からないですけどね。それまで通り、特に決めずにバラバラにやり続けていた方がよかったのかどうかは分からないです。そもそもウチはバンド単位で「こういう音楽がやりたい」というのが無いバンドだと思うんですね。
ーー「こういう音楽をやろう」と言って集まったメンバーではないですもんね。
沙我:そうなんですよ。もちろん個々にはあると思うんですけど、バンド単位でアリス九號.として「こんな音楽をやりたい」というのは、多分みんな明確には無いんですよ。それは何故なら、この5人が集まったことがすべてだから。そういうバンドだから無いんです。なので、「どんな音楽をやりたいのか」って悩むこと自体ナンセンスなんです。「あなた達は何がしたいの?」って質問されること自体がナンセンスであることにもっと早く気づいて、そこを割り切ればよかったって今は思いますね。
ーー今なら「あなた達は音楽で何がしたいの?」という質問に対して。
沙我:割り切って「そんなの無いっすよ」ときっぱり言えますから。逆に、「音楽でやりたいことをバンド単位で明確なものを持っていないと、バンドやっちゃダメなんすか?」って切り返すとか、そうやって答えるのが正解だったんだなと思いますね。別に変に悩んだりしないで、そう言えばよかった。もっと正直になればよかったんですよ。
ーー「やりたい音楽?特に無いです」と。
沙我:素直にそう堂々と言えばよかった。KENさんにプロデュースしてもらって「F+IX=YOU」を作った時に、確信を突くようなアドバイスをしてもらってたんですよね。「君らはカチッとまとまらず、もっと5人でわちゃわちゃしなよ」って。
ーーそう言われたんですか?
沙我:すげぇ簡単に意訳するとですけどね(笑)。でも、ある意味確信を突いてたんです。別に音楽性云々じゃなく、「5人で集まってわちゃわちゃしてればいいんだよ」ってことですからね。そういうアドバイスのもとやってみた結果、今ではその真逆の「Funeral」とか作ってしまって(笑)。面白いですよね。
ーーええ。先の展開が読めなさ過ぎて面白いです。
沙我:だって僕、踊るのもまったくNGではなかったですからね。むしろ自分から言った気がします。「5人で歌ったんだから、流れ的にはもう踊るしかなくね?」って。「ヴィジュアル系の嵐でいいんじゃね?」って。面白いですよ、ウチらの歴史は。マジで音楽性とか関係無いですから。
ーー「踊ればいいんじゃない?」という提案に誰も反対することなく「そうか!」と思って乗っかる。それがこの5人の面白さであり、すごさでもあると思うんですが。
沙我:だから続いたんですよね、多分。そこで「いやいやいや、ロックバンドなんだから踊るなんて」って揉めてたら、こんな19年も続いてないんじゃないですかね。もっと早くに終わってたと思います。
ーーだけど、この5人はそこで揉めなかった。
沙我:そうね。だから、音楽性がバラバラなことがこのバンドにとってはよかったんだと思います。だからこそ19年続いたのかなって今思いました。特に軸を決めなかったからこそ、そこが揺れ揺れでゆるゆるだったからこそ(笑)、19年俺らはやってこられたんでしょうね。逆にそこをもっとガッチガチに決め込んでやってたとしたら、もっとね、濃厚な10年を過ごしてバンドは終わってたかもしれないし。それはそれで「俺にとっては最高の10年だったぜ」「俺の中であの10年は紛れもなく伝説の10年だ」ってなってたかもしれないし。自分にとってどっちがよかったのかは分かんない、そこは。でも九組のみんなはそりゃあ当然、バンドが長く続いた方がいいに決まってるだろうから、今の方がいいんでしょうけど。
ーーですね。では、KENさんが見抜いたように、アリス九號.は「この5人がいるだけで他のバンドには無いもの、自分達だけの魅力が出せる」ということに沙我さん自身が気づいたのはいつ頃だったんでしょうか。
沙我:一番最初にアー写を撮った時ですね。
ーーそんな昔ですか。
沙我:はい。なんて言えばいいんだろうなぁ。それぞれの個人アー写を合体させた時に「売れる」と思ったんですよね、自分でも。それがそもそもこのバンドの答えだったんですよね。曲を聴いて「売れる」と思ったんじゃないんですよ。個人アー写を5枚を並べた時に「これ売れるじゃん!」って思っちゃったんですよ。みんなで曲を作って「ヤバい、こんないい曲できた」「俺ら絶対売れるじゃん」というのが大体のパターンじゃないですか?
ーーええ、まずとびきりすごい音楽ができて、「これならいける」というのを確信しますよね。
沙我:ですよね。でも違うんですよ。俺らは曲をみんなで作る前に個人アー写ができちゃったんです。そのアー写を並べた時に「絶対売れるよこのバンド」って。そういう感じだったんですよ。
ーー沙我さんはその時「このバンドはいける」というのを確信した訳ですね。
沙我:そうです。他のメンバーも間違い無くそうなんじゃないですか?
ーーこれが、ギターがヒロトさんではなく、沙我さんが声をかけていたギタリストの方だったら。
沙我:一人メンバーが違うだけで全然バランスが違うんですよこのバンド。特に初期の頃なんてそうでした。その頃の俺らのアー写を切り取って、一人だけ他のバンドマンと入れ替えてみてください。「なんか違う」っていう違和感がすっごい分かりますから。
ーーなるほど。
沙我:前の事務所に入ったのも、当時の上の幹部の人がウチの曲を聴いて「入れよう」と思った訳じゃないと思うんです。ウチのアー写を見て「これは売れそうだ」と思ったから入れたんだと思うんです。
ーーそうなんですか。
沙我:いや、絶対そうでしょう、多分。なんか分かんないけど、他人が見てもめちゃくちゃ説得力があったんですよ、アー写を見た時に。そこがこのバンドのすべてなんです。
ーーでも、顔がいいメンバーを集めて結成したバンドではないんですよね?
沙我:いやね、そこは死ぬほど言われたんですよ。「顔で集めたんでしょ?」って。全然違うんですよね。前の事務所にも「顔がいいメンバーを集めて作ったんでしょ?」と言われたりもしましたけど、全然違ってたまたまなんですよ。
ーーたまたまでこのレベルが集まりますか?
沙我:顔がいいんじゃなく、「自分の魅せ方」が上手いメンバーが集まっただけなんです。それぞれみんな、自分に対してコンプレックスがあるんです。あるからこそ自分を研究して。そのコンプレックスをどう見せたら自分がカッコよく見えるか、その魅せ方をちゃんと研究して、分かってるメンバーが集まっただけなんですよ。しかもそれがたまたまメンバーが誰一人キャラが被っていなくて、バランスがよかった。だから圧倒的にアー写パワーが出てたんですよ。そのアー写パワーのせいなのか、「イケメンを集めたら売れるんだ」という風潮がヴィジュアル系シーンに芽生えて、バンドマンが整形に目覚めて無理矢理イケメンになるケースが増えたんだけど。結局、イケメンを集めただけだとダメなんですよ。
ーー何故ですか。
沙我:そこにバンギャは惹かれないからですよ。顔がいいメンバーを集めたからといって、そこに惹かれる訳ではないので。そこを多くの人が勘違いしてると思います。
ーーアリス九號.はコンプレックスがあるが故に。
沙我:各々自分の魅せ方をすっごい研究してますから。だけど、最初からイケメンの人を思い浮かべてみてください。そういう人って、メイクがヘタなんですよ。ヘタだし、衣装も適当で、「事務所からやらされてる感」が出てるんですよね。事務所がそこそこ見栄えよくしたとしても、意外と人気は出ない。それは本人達の魅せ方がヘタだからなんです。本人達はイケメンだから、魅せ方を研究するような苦労はしてないですからね。
ーー元々イケメンだから。
沙我:そう。めっちゃ自分の顔を鏡で見て散々悩んで、って、そういうのをウチのメンバーは各々がちゃんとこなしてきたメンバーなんです。まあ、Naoさんはどうか分からないけど(笑)。Naoさんはバンドの中で太陽のような存在ですから。これでNaoさんまでもが「超絶イケメン」みたいな存在だったら、多分バランスが悪かったかもしれないですよね。NaoさんがああいうNaoさんだからちゃんとバランスが取れてる。もちろんNaoさんにもコンプレックはあると思うんですよ。悩みとかもあったと思います。だけど太陽の存在でいてくれた。そのバランスだからよかったんですよ、アリス九號.は。
ここから先は
アリス九號.オフィシャルnote
限りなく2次元に近い2.5Dロックバンド、アリス九號.のオフィシャルnoteです。 毎週メンバーがリレー形式でオフィシャルnoteだけの…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?