第百七十三回 Vo 将|将さんの言葉紡ぎinterview「未来のために」
アリス九號.noteを読みに来てくれてありがとう。
将です。
大切なお知らせを経て、言葉にならない想いがたくさんあって。
それをしっかり形にして伝えていくために、信頼できる方にインタビューしていただくことにしました。
ライターの東條さんは、俺達が独立して最初に真剣に話を聞いてくださって。
疑心暗鬼になっていた自分達を救ってくれた恩人です。
だからこそ、難しいタイミングでみんなに想いを伝える手助けをお願いしました。
人もバンドも、生まれて、役割を変え続けながら終わっていくものだと思います。
でも、どんな時でも、関わっている時は笑っていたい。幸せにしたい。
この連載が九月三日までの日々の手助けになるよう、祈っています。
いつもありがとう。
ーー1月9日の発表を終えて、今はどんな心境ですか?
将:辛いですね。「居場所を守り続ける」とMCで言ってきた立場としては、その約束を果たせないことが辛いです。生きていく上で、コミュニティーがあることってすごく大事な世の中だと思うんです。人って、金とか地位とか名誉以上に、「コミュニティーがある」ってことがすごく大事な生き物で。原始時代からそこは変わっていないんですよ。一瞬でもアリス九號.を好きだった人達を含めたら、多分ものすごい数の人達のコミュニティーになるので。その人達を辛い気持ち、悲しい気持ちにさせてしまうことについて、今は申し訳ない気持ちでいっぱいです。
ーーやっと発表できた、という気持ちではないのですね。
将:ええ。メンバーに対しては、発表したことで肩の荷が下りる部分があると思うので少しはホッとしてはいますけど。ファンに対しては、今は悲しさしかないですね。辛さの方が強いです。
ーー過去にファンの立場でそういった想いを体感した経験はありますか?
将:LUNA SEAが終幕を発表した時は、家で体育座りして「LOVE SONG」を聴きながら号泣していました。
ーーそんな想いをファンの方々にさせてしまうのかな、と想像してしまっている状況ですか?
将:そうですね。
ーー1月9日当日は、オフィシャルHPを通して、9月3日をもってアリス九號.が無期限の「活動凍結」に入ること。加えて、LAST DANCE ACT.3「Graced The Beautiful Story」ep.2〝Farewell Flowers〟の開催を発表しました。その告知に使われた新しいアーティスト写真とツアービジュアルは、それぞれなぜこのようなアートワークになったのかを教えてください。
将:ツアービジュアルの背景は空のイメージです。ピンク色の花が散っていて。花は散るけど、散った下にあるピンクのモワモワは雲と煙をコラージュしたものなんですね。花が散って、散る花からは気体が溢れ出ていて、その気体が世界に広がっていくイメージでコラージュしたんです。花は散っても、そこにあった美しい記憶はその花から溢れ出る。ファンの方々が受け取ってくださった気や想いは薄れていってしまうかもしれないけど、確かに存在していて。それが漂って広がっていく様を、今回のツアーモチーフとして作りました。「みなさんの周りに広がって優しく漂っていて欲しいな」という想いです。アーティスト写真は、空や海が見える場所で撮影したいとオーダーしました。
ーー合成ではなく、実際にロケで撮影したものなのですか?
将:そうです。このタイミングで「僕達カッコいいでしょ?」という写真を撮っても何の意味もないと思ったので。「ここから先、広がっていく未来や世界があることを感じさせるような写真で活動凍結の発表をしたい」とメンバーに伝えたら賛同してくれたので、こういったメインビジュアルにしました。
ーーここで再び棺桶に戻り、凍結されるという選択肢もあったと思うのですが。
将:「解散」ならそれでもよかったかもしれないですけど。でも、未来のための「活動凍結」なので。メンバーそれぞれ考えがあるとは思うんですが、僕はそう捉えてほしいので、こういったアートワークにしました。
ーーそうだったんですね。
将:はい。メンバーもファンの方も、みんなこの後も人生は続いていく。その中で、自分達のかけがえのない時間でアリス九號.を応援することで、メンバーと一緒に駆け抜けたこと。それを未来にまで持っていって欲しい、というのが一番の強い想いなので、それが伝わったらいいなと思います。
ーー発表を1月9日に行った理由は何かあったのですか?
将:メンバーみんなで話して、2022年は「GRACE」というアルバムを作って、その活動をやりきることだけを掲げてバンド活動をしていこう、ということになっていたんですね。なので、「GRACE」を掲げたツアーファイナル(2022年12月24日 EX THEATER ROPPONGI公演)で発表するのはやめようと。クリスマスにライブに来ていただいて、悲しい気持ちにさせて冬の街に帰らせるのはあまりにも酷だよね、という話になって。「こういったことは生の声で伝えるのが筋」というのももちろん分かっているのですが、「何のために自分たちはライブをやっているのか」と問われたら、それはみなさんを楽しませるためなので。そちらを僕達は最優先して。2023年1月に告知しようというのは一年ぐらい前から決めて。1月9日という"ナインの日"に文章で告知しました。
ーー一年ぐらい前から決めていたということは、時系列的に振り返ると、2021年12月24日のEX THEATER ROPPONGI公演終演後、映像を通して発表した「ALICE NINE. LAST DANCE ACT.1 ”2022 SUMMER“」という告知から繋がっていたということですか?
将:はい。2021年秋ぐらいの段階で、メンバーの中から「辞めるか解散したい」という話がちらほら出てきていまして。結論はどうなるにしても、それを突然発表するのではなく、少しずつお伝えしていく。本当に今ライブに通ってくださっている人達には、じんわりと感じ取っていただくのも優しさなんじゃないかという考えの元、バンドが具体的にいつ止まるのかどうかも決まっていない段階から、「LAST DANCE」というサブテーマを発表したんです。
ーーこのサブテーマは将さんがつけられたのですか?
将:「LAST DANCE」は沙我くんが出してきたワードだったと思います。確か、BLANKEY JET CITYの解散ライブのタイトルが「LAST DANCE」だったと思うんですが。「LAST DANCE」は"死を覚悟した舞踏"という意味なので、それぐらいのテンション感で作品作りをしましょう、ということだと僕は解釈しました。なので、「GRACE」という作品は沙我くんを信じて手綱を委ねて。歌詞は何も指示はされてはいませんが、やりたいことをちゃんと汲み取って書いていって。結果、「GRACE」は今までの自分にはないようなものをきちんとクリエイティブできたので、すごくいい経験だったと思います。そうできたのは、「LAST DANCE」を掲げてアルバム制作に入ったからこそだと思います。
ーー以前やらせていただいたインタビューで、「LAST DANCE」というキーワードについて「これが最後になってもいいぐらいの想い、覚悟だ」と仰っていましたが。
将:はい。それぐらいの覚悟をもって悔いのないものを作ろうと、メンバーで腹を括って制作に入りました。歌詞は、ファンの方々よりも先に僕自身が「バンドが終わるかもしれない」というところに向き合って、悩んで、苦しんで書いていった感じです。「LAST DANCE」を掲げた時、メンバーも初めて、朧げに今終わるんじゃなくて、「余命宣告」。そういったものを受けたような感じだったんですよ。
ーーそこで終わりがくることを認識させられたといいますか。
将:ええ。ただ、「LAST DANCE」という言葉を掲げた時点では、「解散」や「活休」といった具体的なことは本当に何も決まっていなかったんですよ。朧げに、このアルバムを作って、ツアーをまわって、おしまいなのかな?ぐらいで。何も具体的ではなかった。だから感覚としては余命宣告を受けた感じだったんです。
ーーそういった中で「GRACE」全般の歌詞は書かれたのですか?
将:はい。アルバム「GRACE」全体を通して、自分と向き合ってすごく正直に書いています。沙我くんにも「ここまで書いちゃうんだ」と驚かれるぐらい、正直に書きました。メインコンポーザーの意図を汲み取った上で、自分のその時の精神状態がすごく反映されています。1曲目の「Living Dead」に"生を認識するために 死の輪郭をとらえる〜"というところから"俺は生きた証明をここに遺す"という語りのパートがあるんですけど。「LAST DANCE」を掲げ、死を認識しているからこそ、自分が生きてきた証明を今ここに書き記すために、死を、終わりを強く意識する、とここでは言っていて。アルバムの歌詞は終始そこを意識したものになっていますね。「Moondance」は曲調がちょっとニュー・ウェイブっぽかったので毛色が違いますけど、それ以外は死を意識したメメント・モリ精神で書いていきました。
ーー今作からまず最初に発表したのが「Funeral」でした。「Funeral」公開までの一連の流れを振り返ってみると、2022年1月、90年代ヴィジュアル系を彷彿とさせる退廃的かつ攻撃的なアーティスト写真を公開しました。そこで“刃を研ぎ澄まし 張り詰めた音色のために 命を燃やした舞踏を”というキャッチコピーとともに“ALICENINE. Funeral 2022.5.19” という予告で「Funeral」の存在を明かし。ONEMAN TOUR「Brutal Revelation」の開催後となる5月19日。新曲「Funeral」のMusic Videoとともに、メンバー5人が棺桶の中に入ったアーティスト写真を公開しました。このメンバーが死んでいるアーティスト写真も、死を意識したものだったんですね。
将:そうです。「Funeral」そのものが"葬式"という意味ですからね。でも、よく見てもらうと僕だけ目を開けているんです。あれは、全員目を閉じていたら終わりだけど、「余命宣告されても死に抗う」というメッセージで目を開けていたんです。
ーーそんな意味があったんですね。
将:だから、ボーカリストとしての精神状態を振り返ってみると、自分はこの時点で"「Funeral」ラストシングル、終わり"みたいなテンション感でした。ファンの方は、現実として発表があったことで、今が一番辛い思いをしていると思うんですけど。僕が一番辛かったのは、この「Funeral」を作っている時でした。そこに時差があるのが良いことなのか悪いことなのかは分からないですけど。
ーー余命宣告を受けて、あのアーティスト写真のように、気持ちも棺桶に沈んでいた状態だったのですね。
将:マインド的にはそうですね。
ーーけれども、アルバムの後半に収録された曲の歌詞は死を意識したものだけではなく、「Roar」「Farewell Flowers」「Grace」は、死という終わりを意識したからこそ、これまで応援してきてくれたファンを愛おしむものになっていました。
将:「Roar」からはファンに対してもメッセージ性が強くなっていますね。そもそもバンドが19年続いていること自体、奇跡に近いことだし。自分達の場合は本当に俺達がすごいから続いたとかではなくて、続けさせてくれたファンがいたからここまでやってこられたんですよ。だって、独立している訳ですからね。
ーー所属していた事務所から。
将:ええ。そうしてバンド名まで変わっているんですよ。音楽性も色々やりすぎて、あって無いようなものだし。それでも応援してくれた方々のパワー、そんな彼女達、彼らがこの先50歳、60歳、70歳になった時。「応援してきてよかった」と思ってもらいたいですし、それは素晴らしいことだったんだ、というのをどうしても伝えたかったんですね。それが「Roar」「Farewell Flowers」の歌詞です。想いって、うるさいぐらい何度も言わないと伝わらないと思うんです。「それ、何度も言ってきたじゃん」「そうだっけ?」っていうこと、日常生活の中にありませんか?
ーーありますね。
将:他人には意外と伝わっていないものなんです。だから、「Roar」は応援してくださった人達の想いがいかに素晴らしいか、というのをひたすらメッセージにしています。"愛はひび割れ 居場所を守った"と言っているように、僕達の居場所を守ってくださったのはみなさんですから。
ーー将さんは綺麗事ではなく、以前から本当にお客さんありきでアリス九號.のこと、活動を考えていらっしゃいます。将さんが、「自分達がすごいのではなく、続けられるように居場所を守ってくれたお客さんがすごいんだ」と考えるようになったきっかけは?
将:沙我くんと僕はある意味、仕事の仕方は似てるんですよ。仮説がまずあって、そこに向けて段取りを整えてやっていく、というところは似てるんです。でも、考え方の軸は真逆で。僕は友達が欲しいんです。沙我くんはきっと要らないんだろうなと思いますが(笑)。僕は仲間や友達が欲しくてバンドをやっているから、僕達の芸術に対してお金をいただいてはいますけれども、評価してくれるお客さんも仲間だと思っているんです。みんなも各々の人生で働いて対価を得て、人間としての営みがあって。その中の娯楽として俺達をチョイスしていただいている。娯楽って、要はなんでもいい訳ですよ。だけど、何を選ぶかによってその人の人生観、センスがめちゃくちゃ出るところで。その中で、俺達が「これがいい」と考えてやったものに対して共感、共鳴してくださって。作品をわざわざ手に取って買ってくださったり、交通費や宿泊費、発券手数料のオプションを払ってでもライブに来てくださって。YouTubeを再生するのだって本当は面倒な行為かもしれないけど、それを検索して見てくださる。そんなことをしてくださってるみんなは、本当に仲間だと思うんですよ。仲間、友達。そんな感じなんです、僕は。公平じゃなくなってしまうから、一人一人のところに会いに行って遊んだり、一緒に飲んだりはしないけど(笑)。でも心情的にはそういったことをやっている仲間と変わらない。
ーー以前からそういった考えなのですか?
将:そうですね。バンドを始めた頃からそういった考えです。
ーーアリス九號.でもそこはまったく変わらず。
将:ええ。
ーーでは、そんな仲間である彼女達、彼らにとって、アリス九號.というバンドはどんなところが魅力的に映ったのだと将さんは考えますか?
将:この5人が集まると、なんだか分からないグルーブ感みたいなものがあって。時期によって波の大きさは違ってても「なんだか分からないんだけどなんかすげーよな」というところは、どんな人にも認めていただけるところだったので、そこだと思います。その貴重さについては、あのような発表をした今でも噛み締めています。
ーーアリス九號.というバンドの求心力の正体は、5人が集まった時に生まれる、なんだか分からないグルーブ感である、と。
将:そうですね。だから、「この5人で何ができるか」というところでやってきましたから。
ーー自分中心ではなくて。
将:自己中なところもありましたけどね。僕は陸上部だったんですが、マラソン大会とかで、一人でさっさと行けば最初は速いかもしれないけど、結局最後まで走り切るのは仲間と一緒に走ってるヤツだったりするんです。だから、脇腹が痛いヤツがいたら自分がペースを落としてでも一緒に走ろうとか、僕はそういう方が好きかもしれないですね。一人でがむしゃらに走るよりも、仲間と走った方が絶対に遠くまで走れる。こういった発表をした今も、まだそう思っています。
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アリス九號.オフィシャルnote
限りなく2次元に近い2.5Dロックバンド、アリス九號.のオフィシャルnoteです。 毎週メンバーがリレー形式でオフィシャルnoteだけの…
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