第三十四回 Gt ヒロト | ヒロトの秘密基地「僕の中の秘密基地(後編)」
第二十七回 Gt ヒロト | ヒロトの秘密基地「僕の中の秘密基地(前編)」
前回はティーンエイジャーの頃のエピソードを中心に当時のヒロトがどのように生きづらさを感じていたのかをお話ししてきました。
今回は、僕自身がそこからどうやって人とコミュニケーションを取り、社会となじんでいったのかをお話ししたいと思います。
ーーヒロトさんの強いこだわりというのは、メンバーも分かってるんですか?
そうですね。
だからこそ、よくバンド内でも“ヒロトタイム”といわれる時間があって。
自分はそれが解消されるまでやらないと、無理なんですよ。
だけど、僕の場合ラッキーだったのは、そこまで自分のこだわりは理解はできないけれども「ヒロトはそういうもんだ」という風に思ってメンバーだったり周囲の人が、’それ’が解消するまで放っておいてくれた。
そこが大きいですね。
ーーそこは、ヒロトさんのご両親と同じ接し方だったんですね。
そう。
ーーけれども、ご両親とは違って、待ってる間というのは「なんでそこまでやるんだ」「もういいじゃないか」という風に自分らの感覚との違いにイライラするときも多々あったと思うんです。
だけれども、そこを受け入れて待ってくれるメンバーやスタッフに巡り会えたのは本当によかったですよね。
そうですね。
ーーそれも、音楽があったからこそで。
音楽だけですからね。続けられたのは。
何をやっても、自分はある程度その到達地点まですぐに行ってしまうんですよ。
ーーああ。ヒロトさんのなかの物事を追求する強度なこだわりが“長所”として活かされて、ですよね?
ええ。だから、人より先にそこにすぐ到達しちゃって。
到達するとスッキリしちゃって自分は一気に(その物事に対して)興味がなくなって、パッとそれを手放すんです。
ーーとたんにこだわりもなくなるということですか?
はい。そういうことをずっと繰り返して生きてきたんです。
おもちゃでも、何にしても、みんなが到達までに1年ぐらいかかるところを自分は集中して1、2ヵ月ぐらいで見つけてパッと手放すということを繰り返してきたんです。
けど、音楽は目に見えないじゃないですか?それが良かったんだと思うんですね。
目に見えないから終わりの形が形として存在しない。
だから終わらなかったんですよ。
それで、ずっと追求することになったんだと思うんです。
何でもですけど、追求している間は、自分は(周りとの)“共通言語”を得ていたんです。
例えば、ポケモンを始めたとする。
それをやってる間は、ポケモンを共通言語として周りとコミュニケーションが取れるんです。
ーー周りの人とのズレを感じていてコミュニケーションが苦手だったヒロトさんも、その共通言語を介せば人と話ができたと。
はい。
だけど、ポケモンだったら、まずその入り口が気になって。
入ったら、裏側や出口が気になって。
出口までいけちゃうと「なるほどね。こうなってたんだ」で満足しちゃって、ポケモンへの興味もそこで終わるんです。
そこからは続かなくて、何の興味も無くなってしまうからそれは手放すことになるんですね。
そうすると、それを通じてできたコミュニティーも一気に無くなってしまうというのを繰り返してたんです。
ただ、音楽に関しては、視覚で認識できるものじゃなかったことによって、終わりが無かったんです。
だから、ずっと探求することになったんですよね。
ーーなるほど。
あ!今思い出したんですけど。
自分は小さい頃から耳で聴くものにすごく興味を示してたみたいで。
ラジオとかもすっごく聴いてて。テレビよりもラジオ派で。
ビデオテープ見るよりカセットテープに入った物語の朗読を聴くのが好きで。
それこそ、「しまじろう」のテープは、テープが擦り切れるところまで繰り返し聴いて。
来る日も来る日も親父のカセットデッキの前に座って、同じのばっか聴いてたんですよ。
それで全部自分で暗記して言えるところまでたどり着いて(笑)。
目に見えないからこそ、耳で聴く物語を頭の中で想像するのが楽しかったんですね。
想像することは大好きで、例えば道路を歩いててもこっちの道に行ったら死ぬかもしれないとか、あっちの道に行ったら誰かに会うかもしれないとか。
子供の頃から、そういう想像ばっかしてた気がします。
ーー目に見えないものを“立体”として想像するのが得意だったんじゃないでしょうかね。
目に見えないものを頭の中で具現化するのは楽しかったんですよ。
ーーその特性が音楽と繋がってくれたことで、ヒロトさんのなかには非常にいいマッチング効果が生まれたのでは?
曲作りとかは、まさにそうですね。
多分、自分が体験したことを頭のなかで再構築して、それを音に変換して曲の世界観に落とし込んでるんですよね。いつも。
ーーでは、話を戻して。
音楽というエンドレスに続くものを手に入れたあと、音楽という共通言語でつながっていったコミュニティーはどうなっていったんですか?
今までだと3〜4ヵ月ぐらいで終わってたものが1年ぐらい続いていくと、それを通して出会う人数がだんだんと増えてきて。
そこでできた人間関係も“持続”していくものに変わっていったんです。
ーー興味が続くのと並行して、コミュニティーも続いていく。
今まではすぐに切れてたものが、自分が音楽と繋がっている限りは続いていく。
これは初めての感覚でした。
今までは続いても3〜4ヵ月だから、相手と深い話をする前に終わってたんですね。
それが、持続することで関係も深く、長くなっていって。
それと同時に、どんどん外にも広がっていくんですよ。
中学1年でギター弾いてるヤツなんて2〜3人しかいなかったんで「ギター弾けるの?」って周りのほうから寄ってきて。
あとは、単純に自分の中に“夢”として明確なものが見えてましたね。
LUNA SEA先輩のライブを観て、自分はあっち側に行きたいと決めてたんで。それに向かって必要なピースを探す気持ちになったとき、「しまじろう」の世界から外に出ていったんだと思います。
ーーなるほど。そこからはポケモンと同じで、その夢を叶えるためにはどうしたらいいかというところで、またヒロトさんの強いこだわりが長所として発揮されて、行動を引き起こしていく訳ですよね。
そうですね。
ドラクエ的にいうと、自分が音楽に出会うまでの人生はオープニングのドラクエのロゴが出て、テーマが流れる前の段階で。
このタイミングでやっと街から出た感じです。
そうしたら、自然と
「あれ? 自分コミュニケーションとってるじゃん!」って、なってました。
自分が定めた夢に向かうにはどうしたらいいだろうって。
そこに集中して、躍起になってたら、そのファクターの中に“コミュニケーション”も含まれていたという感じですかね。
感覚としては。
ーーそこでは、音楽というものが共通言語となって。
音楽、ギターというものを通して外の人とコンタクトがとれるようになったんです。
それが10代の半ばぐらいですかね。
ーーそれで、夢に向かってさらにスピードをあげるために、高校2年で学校を中退する。
高校では数学や化学が面白くなってきてたんですけど、夢を追い求めるためにトータルで考えたら、ここにいることは得策ではないと判断して。
学校は2年の6月いっぱいですっぱり辞めました。
そこからはバンドと、お金を稼ぐためだけに集中するんです。
お金を稼ぐためにバイトをかけもちして。
その頃は本当に寝てなかったですね。
ーー目標設定が定まると、そのゴールに向かってノンストップで行けるところもヒロトさんの特性ですよね。
自分はナビにゴール地点を入れたら、そこに向かって行くだけなんですよ。
そのためだったら、その過程は何も苦じゃないんですよね。
寝れなかろうが疲れていようが、恋愛する時間がなかろうが、何も苦じゃないんです。
例えば、バイト先で人間関係のくだらないことを言ってくるムカつく先輩がいたんですけど。
こっちは明確な目的があるから、そんなことはどうでもいいんです。
どうでもいいし、そこで張り合う時間ももったいないんで、向こうに合わせることができた。
バイト先で、そういうスキルは身につけた気がしますね。
ーー俺は早くゴールに到達したいだけ、そのために早くここをすり抜けるためにも付き合っておくか。みたいな感じで。
性格悪そうに聞こえますけど、本当それでした(笑)。
ーーバイトというものを通して、自分もどんどん変わっていきましたか?
はい。
そこで、みんながよく言う
「ヒロトは社交的だね」「誰とでも仲良くなるね」「人のことを悪くいわないよね」というのができあがっていったんだと思います。
ぶっちゃけ、心では思うこともあるんですよ?
「アイツ、超ヤダな」とか(笑)。
でも、それをわざわざ外に出す必要はなくて。
ーーそこで相手と揉める時間がもったいない、という考えですよね?
そう。
日々こういう受け答えをすると面倒なことになるんだな、とかをどんどん学んでいって。
それを、ノートに書いてました(笑)。
いい方法論、対処法を思いついても、自分はすぐ忘れちゃうから。
自分でその日やらなきゃいけないタスクとかも、ノートにまとめて書いてましたね。
ーーすごいですね。
自分で“取説”を作るんですよ。
例えばLAWSON業務で必要なこと。。
掃除、フェイスアップ、からあげクンを作って、荷物が来たらほどいて品出しして、とか。
次の日の天気を調べて、在庫と照らし合わせて明日納品のものを発注かけたり。
コンビニって食品だけじゃなくて本、衣類とか、生活に関わるもの全てを扱ってるじゃないですか?
メモしておかないと忘れちゃうんで、1つ1つメモってました。
ーー事細かに、ですか?
はい。
メモするとどうなるかというと、まずその情報を“視覚”に置き換えることができるんです。
あと、手で書いてるからフィジカル、体を使った動きとしてそれを記憶することもできる。
そういうことをやってても、コンビニってすぐに新しいサービスやキャンペーンが始まるから、日々アップデートが続くんですよ。
自分はそうじゃなくてもすぐ物事を忘れちゃうんで、それをやらないと生きていけなかったですね。
ーー早くゴールにたどり着きたいと思って社会に出てみたら、その通過地点でクリアしなければいけないことがたくさん押し寄せてきた感じですね。
そうですね。
それ以外にも、コンビニはものすごい数の対人関係があるじゃないですか? LAWSONでバイトしたことで、自分の対人スキルがめちゃくちゃ上がったんですよ。
ーーおぉー。そうだったんですか。
バイトに来る人も朝、昼、夜、深夜に入る人はほとんど違う人で。
そのなかには大学生もいればおばさん、おじさんもいて、オーナーもいる。
お客さんもだいたい来る人は決まってるんですが、それ以外は時間帯によってランダムでいろんな人がやってきて。
話しかけられたり、絡まれたりもする。
思っていた以上に、いろいろ学べましたね。
仕事、人間関係、社会のシステム、その全てをちょっとずつ色々体験するにはもってこいの場所だった気がします。
だからLAWSONはバイトのなかでも一番長くやったんですよ。
ーーゴールにたどりつくためにクリアしなきゃいけないミッションみたいな感じで。
はい。
ワウペダルの回で「FANTASY」に触れたとき、友達が死んじゃった話をしましたよね?
そう思えたのも彼の死があったからなんですよ。
そこで考え方がガラッと変わったんです。
それまではどうせ自分は人とズレてるんだしって、悲観的な考え方しかできなかったんですけど。
死という究極の悲しみを味わったことによって
「アイツは死にたくて死んだ訳じゃない、生きたくても生きられなかったんだ」「だったらいま自分は生きてるんだから、常にその反対側にいよう」
と思うようになって。
それで、めちゃくちゃポジティブに物事を考えるようになったんです。
ーーそこから、ある意味外に向かうための自己トレーニングが始まった。
はい。
そうでもしないと自分が壊れそうだったんですよ。
自分は心も繊細で、体も強い方ではなかったから、無理だったんです。
アイツの死で生死について考える機会を持って、アイツの死は無駄じゃなかったんだって思わないことには自分がやってられなかったんです。
本当に自分のよき理解者で、友達で、夢を一緒に語りあってた仲間が突然そうなってしまったので、自分は耐えられなくて。
そう変換せざるをえなかったんですよね。
ーー返還しなければ、闇のどん底に墜ちてしまいそうだった訳ですね。
ええ。
実際、あまりにもショックすぎて、変換できるようになるまでには半年以上かかりました。
それで、前回話したように、アメリカに留学してた先輩が戻ってきて
「やっぱりオマエとやりたいんだ」
と言ってくれた言葉に僕は本当に救われて。
そこからポジティブな考え方に変わることができたんです。
そうして夢に向かうために高校を辞めて。
学校にとられる時間はそれで無くなったんだけど、バイトしないと機材も買えないし、スタジオにも入れないから、バイトはやらざるを得ない訳ですよね。
やらざるを得ないけど、どうせやるんだったら“楽しもう”という考え方をするようになるんです。
ーーポジティブな考え方に変わったあとだから。
ええ。
だから、通過点にあるLAWSONのバイトも、これをどうゲームのように攻略して楽しめるかという発想だったんですよ。
自分の考え方としては。
ーー高校を中退してLAWSONでバイトを始めて。ヒロトさんはどういう風にLAWSONのバイトをゲーム感覚で楽しんでいたんですか?
例えばその日の「山崎パン」が入荷したら、そこから自分のなかではタイムアタックがスタートするんです。
ーーどういうことですか?
チンタラやってたら1時間かかるけど、昨日はすげー効率よくやったら40分に短縮できたから、今日は30分台でクリアしようとか。
それを2人でやるよりも、自分1人でこれを担当して、もう1人のバイトには他のことをやってもらったほうが効率がいいとか。
もしくは、これを2人同時にやって他のことをやったほうが時間短縮になるのかなとかを、日々ゲームにしてやってたんです。
ーーなるほど。それで日々こっちのほうがショートカットになるという攻略法をノートにメモしていく訳ですね。
ええ。
お客さんも、例えば毎朝来るガテン系の人がいつも絶対にBLTサンドとウーロン茶とホープ2箱を買うなと思ったら、それを憶えるんです。
毎日来る人のことは、その人の特徴と分かったら名前、買うものを全部ノートにメモして。
それで「来るな」と思ったら、それを先回りして用意しておくんですよ。
で、その人がレジに来たところで「これでいいすか?」といって差し出す。
そうすることで、お客さんにしてみれば「自分のことを憶えてくれている」と、今でいう“承認欲求”が満たされる訳ですよね。
で、そこからどんどん“会話”も生まれたりする訳ですよ。
そこで、この人はこういうことをすると嬉しいんだとか。
そういうことを学んでいったんです。
ーー人の気持ちがあまり分からなかったヒロトさんが、人の気持ちをそこでは考えるようになっていった訳ですね。
ええ。
当時ヤンキーにからまれたと思ったら、実は告白されたということもあったんですね。
自分に好意を抱いてくれるのは嬉しい、でもお付き合いするという選択肢はない、なぜなら自分はバンドがやりたいから。
けれども、その子の後ろには怖そうなチーマーみたいなバックがたくさんいる。
その子を傷つけたらあの怖そうな人たちを敵に回すことになるかもしれない。
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アリス九號.オフィシャルnote
限りなく2次元に近い2.5Dロックバンド、アリス九號.のオフィシャルnoteです。 毎週メンバーがリレー形式でオフィシャルnoteだけの…
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