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熟語本位英和中辞典を覗く7
アメリカのいいなり
be tied to one’s wife’s/mother's apron-strings
パリのおにぎり、パリやロンドンまでの航空運賃、ウェブサイトの日本語表記に、随分と寄り道をしてしまった。秀三郎の辞書に戻ろう。
エプロンの紐に繋がれているのは、夫ばかりではない。乳幼児に加えて、いい齢をした息子や娘が、母親のいいなりになっている時にも、この表現は使える。
時間を7世紀ほど遡って、中世の子育てについての記事から少し引用しよう。
「母親のエプロンの紐に繋がれている」という古い慣用句は、この時代の慣習から来ている。つまり、乳幼児は何をしでかすか分からないので、いっときも目が離せない。だから、怪我をしたり死んだりしないように、中世の母親はエプロンの紐に、わが子を繋いでいたのである。
同じ記事によると、中世の乳児の、生まれてから1年以内の死亡率は、4人に1人と見られている。現在の米国では、年間2万3000人、1000人におよそ6人、世界で180番目、トップはフィンランドと日本。2024年の夏現在。
上の数字から、毎年アメリカで、生まれる赤子の数が計算できる。やってみよう。23000÷6×1000=383万。千の位で四捨五入。上の記事は、確か2017年の秋に書かれたもの。この文章を書き始めたころである。
コパイロットに尋ねてみると、アメリカで生まれた赤ん坊は、2016年は366万人、2017年386万人。米国疾病予防管理センターによると、2021年は366万人。いずれも、千の位で四捨五入。
Data for United States in 2021
Number of births: 3,664,292
NVSS - Birth Data (cdc.gov)
研究社から1964年に、英語イディオム辞典が出ている。これは、熟語や慣用句を、英米の作家がどんなふうに使っているかを調べたものである。ちょっと、覗いてみよう。
APRON-STRINGS
tied to one's mother's [wife's] apron-strings : dominated by one's mother [wife]. 母や妻のいいなりになる。
She was a good woman and he had a real affection for her, but she couldn't expect him to be tied to her apron-strings.
-W. S. Maugham, Then and Now, ⅹⅹi.
あれは善良な女であり、おれもちゃんと愛しているが、だからといって、おれの首根っこをエプロンの紐で縛りつけておくわけにはいかんのだ。
サマセット・モーム「昔も今も」 ちくま文庫、天野隆司訳
この慣用句は、家庭だけでなく、比喩として政治にも使えるのであろう、オックスフォード学習者用英英辞典に、次の例文が見える。
(tied to) somebody’s apron strings
(too much under) the influence and control of somebody
だれかにひどく影響され、また支配されている。
The British prime minister is too apt to cling to Washington's apron strings.
英国の首相は、ワシントンのエプロンの紐に必死にとりすがって放そうとしない。
極西の国は、米国のいいなりになっていると言いたいのは分かるが、この例文には、もっとふさわしい国が、太平洋のこちら側にあると、だれもが感じるのではあるまいか。
熟語本位英和中辞典を覗く8|alicemayism (note.com)