提灯記事はいたるところに


これは、2012年に書いた記事である。

馬鹿でないかぎり、誰でもお金を目当てにものを書くと、ジョンソン博士は言っているが、これは何も、報酬を支払ってくれる企業に都合のいい提灯記事を書くことを指しているわけではない。

見識のある読者なら、これは提灯記事にちがいないと思えば、もう2度と、記事の掲載されたメディアに近づくことはあるまい。

署名のある記事なら、著者は軽蔑をもって迎えられることだろう。しかし、最近はステルス・マーケティングが発達しているので、著者が企業から報酬をもらって記事を書いているのかどうかは、判断がむつかしい。

知的著作権をめぐり、数百億円の賠償を求めて、グーグルを訴えているオラクルは、自称「特許アナリスト」にお金を払って、提灯記事を書かせたと記事は伝えている。

Strike 3: Judge rules against Oracle in copyright part of “World Series” trial against Google – Old GigaOm

裁判を担当している判事は、オラクルだけでなくグーグルも同様の行為をしたと見ているらしく、双方に報酬を支払った記者の名前を明らかにするように命令を出した。

先の「特許アナリスト」は、マイクロソフトからも、お金を受け取ったと記されている。名前の出た3社は、いずれも大企業である。これほどの大手であっても、消費者の信頼を著しく損なうことをするのかと、改めて驚いた。

創立90年の記念として、小学館は全社員に、楽天の売り出した電子書籍を読む専用端末を配ったという記事を読んだ。

これも、予約だけは順調で、その後売れ行がさっぱり、と囁かれている機器の宣伝のために、楽天が小学館に寄贈したのではないか。

消費者の機器に与えた低評価を含めて、すべての評価を削除して、楽天の信用は地に堕ちた。筆者がこのように邪推しても仕方あるまい。

レストランが評価を高めるために、お金を払って提灯記事を書かせたり、サクラを雇って長い行列をつくらせたりするのは、もう日常茶飯になっているようだ。

先日、ラジオを聞いていたら、2人の女性がクッキーを売っている店を訪れて、店主に話を聞くと、オリンピックにちなんだものを期間限定で売り出しているという。

これなんかも、店が放送局に金を払っているのではないかと筆者は感じた。なんとなく聞いているだけでは、全然、コマーシャルになっていないところが、ミソである。

先日、「世界ふれあい街歩き」というNHKのテレビ番組を見た。カメラがパリの学生街、カルチェラタンをめぐって、時々、地元の人とおしゃべりを楽しむ。

図書館の開くのを待つ学生3人組からは、恋人を求めるために、耳栓の色を使い分けることを学び、紅い洒落た帽子をかぶっている老婆は、実は学生だと知らされるなど、筆者にとって、新しい発見ばかりであった。

ここには、ステルス・マーケティングの入る余地が微塵もない。それだけで、ほっとする。それに、醜い看板が街にほとんど見当たらないことも驚きである。美しい街づくりに心を配っていることの証左であろう。

シャンパンの色を実験している店では、「ウマミ」という言葉がフランス語になっていることを知り、また、「恋というものは、小鳥が木の枝に止まるように自然なものだ」という真実を教えられた。

カルチェラタンに住む人々が、毎日の生活を十二分に楽しんでいることが、画面から滲み出てきて、筆者まで楽しい気分になったほどである。 

まさか、この番組を作るために、パリ観光局とエール・フランスや日本航空から、お金をもらっているということは、あるまい。

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