パリで子供たちと楽しむ芝居

2005年4月、ロンドンのウォータールー駅から、ユーロスターに乗って、パリを訪れた時に買ったのは、「インタナショナル・ヘラルド・トリビューン」という英字新聞と週刊情報誌「パリスコープ」。

後者は、紙面がフランス語であるが、なんといっても、値段が0.4ユーロと安く、この街の魅力を引き出すための必需品である。

スマートフォンとアプリの発達した現在では、パリスコープの紙面にかざすと、画面に和訳が表示されるようになっているかもしれない。

フランスは、映画大国と言われるだけあって、なんと小津安二郎のサイレント作品も上映されていた。フランスでのタイトルは、「東京の腕白坊主たち」。入場料は、大人6ユーロ、木曜日午後8時の回は、ピアノのナマ伴奏付きである。

パリでは、往年の名画がたくさん上映されているのにも感心した。なんと、全部で67本もある。宮崎駿のアニメ「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「千と千尋の神隠し」も含まれている。

フランス人は、よほど宮崎駿作品が好きなのにちがいない。しかも、「トトロ」だけは、5館上映で、4館は吹替だが、残り1館は日本語、仏語字幕である。

「リックのロンドンガイド 2015」の著者、リック・スティーヴズは、パリ案内も出している。「パリスコープ」を紹介して、フランス語に堪能ではない観光客は、子供向けの出し物に注意を向ければ、大人でも楽しめるものがあると記している。

早速、2005年4月の「パリスコープ」を開いて「子供」欄をみると、シャルル・ペローの童話「長靴をはいた猫」が、今週のイチオシとして大きく取り上げられている。粉挽き職人の末の息子が、遺産にもらった1匹の猫の助けを借りて、王女の花婿になるまでの物語。

上演時間は、およそ1時間15分、バレエと歌と寸劇が繰り広げられ、最後は全員で大合唱。終演後、お姫様にキスしたり、猫の耳に触ったりできる。子供たちの願いはただひとつ。来週の水曜日、もう一度観たい。

フランスの小学校は、土日のほか水曜日が休みに違いない。

これなら、初老の筆者でも十分に満喫できそうである。何が一番の楽しみか、大きな声では話せないが。公演は、水土日の午後3時から、料金は7ユーロ、4歳以上。

フランス語はできなくとも、英語が多少ともできるなら、会場で英語のできる人を見つけて、大体のあらすじを教えてもらえば、いっそう芝居が楽しめる。

なんと言っても、旅の醍醐味は土地の人々と会話を交わすことである。「失礼ですが、英語を話しますか」とフランス語で訊いて、答えがイエス又はウイなら、会話が成立する。

この情報誌は、スマートフォンを空港で貸し出す会社と組んで、新しいサービスを始めることを考えていないのだろうか。

空港からホテルに向かうバスや電車の中で、無料のコンサート、10ユーロ以下で楽しめる子供向けの芝居など、条件を入れて、探せるようにするのである。

すべて情報が日本語で表示されれば、ありがたいが、それが無理なら、英語話者用と英語学習者用の2種の英語版があれば助かる。

スマートフォンに表示される情報が、たとえフランス語だけだとしても、「長靴をはいた猫」のあらすじを知りたければ、原題からウィキペディアのフランス語版へ飛び、それから日本語版へ到達できる。

あらすじさえ頭の中に入っていれば、モリエールの作品など、大人の芝居でもけっこう楽しめるのではあるまいか。

芝居のはじまるのは、午後8時半か9時である。このぐらい遅ければ、仕事を終えて自宅に戻り、夕食を時間をかけて楽しみ、あるいは、レストランでゆったりと食事を満喫してから、夫婦揃って劇場へ駆けつけることができる。

もっとも、帰りは深夜すぎになるけれど。

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