9年前の賭け



賭博を禁止したら、地下に潜り込み、かえって状況は悪化の一途をたどると、イギリス人は考えているのだろう。

たとえば、英国にはウィリアム・ヒルという民間の賭博企業があって、完全に街の風景の一部として溶け込んでいる。

この会社のウェブサイトを見ると、カジノとポーカーの部門は、完全に日本語化されている。パチンコや競馬、競艇、競輪に飽き足らない賭博ファンが、この国にも大勢いる証拠であろう。

2012年7月、スポーツの部門からロンドンオリンピックの女子バレーを取り上げると、どの国が優勝するか、国ごとの倍率を決めている。ブラジルは2.5倍、米国は2.8倍、ロシアは3.5倍、イタリアは11倍、中国は26倍、日本は101倍、そして英国は1001倍と絶望的な数字が掲載されている。

すると、優勝国としてブラジルに10ポンド、米国に同じだけ賭けるとすると、ブラジルが勝ったときは、20ポンド払って、25ポンド戻ってくるから、5ポンドの黒字になる。

同じく、米国が優勝の場合、20ポンド使って、28ポンド支払われるから、8ポンドの儲けになる勘定だ。どちらにしても、企業側の損になる。このような倍率で倒産しないのだろうか。それとも、何か他の方法で手堅く、儲けを確保しているのだろうか。

さて、2012年のウィンブルドンのテニス男子決勝は、英国人のマリーと7回目の優勝を狙うフェデラーの対決になり、筆者も眠い目をこすりながら、午前2時頃までテレビにクギ付けになっていた。

NHKがウィンブルドンのテニス男女決勝を生中継するのは、今回が初めてではないのか。以前、伊達公子とドイツのシュテフィ・グラフの試合を、午後7時のニュースの時間に中継して以来のことではないか。このときは、残念ながら決勝ではなかった。

イギリス人は、74年ぶりに、マリーが英国に優勝をもたらすことを期待して、3人に1人に当たる、2000万人がテレビに見入ったと思われる。

ここに同胞のマリーを応援すべきかどうか悩んでいる英国人バートン氏がいた。フェデラーがマリーに勝てば、氏の勤める慈善団体、オクスファムへ、ウィリアム・ヒルから約10万ポンドが転がり込むからである。

2003年に、ニューライフ氏は、ウィリアム・ヒルに対し賭けを申し出た。2019年までに、フェデラーは、ウィンブルドンで7回優勝すると。掛金は、1520ポンド、倍率は66倍である。

あいにく、賭けをした本人は、2009年に亡くなり、遺言により、オクスファムがあとを引き継いだ。こうして、マリーの敗北により、およそ10万ポンドが、この慈善団体に支払われることになったのである。

貧困に苦しんでいる途上国の人々が、援助を受けながら手に職を持ち、自立した生活を営めるようになるための資金の一部になったに違いない。

ウィリアム・ヒルは、2015年の総選挙についても倍率を提示していた。過半数を取るのが労働党なら2.5倍、保守党は3.25倍、いずれも過半数割れが2.62倍、自由民主党が過半数を取るなら、101倍という数字になっていた。

これは、2012年当時の保守党内閣が国民の期待に答えていないことを示していると言っていいだろう。キャメロン首相の前には難題が山積していた。ウィンブルドンで、じかに男子決勝を観戦して、日頃のストレスを発散させたのではないか。マリーが負けたのは、痛恨の極みではあったが。

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