真偽を見極める目



休暇を取って、旅行に出かけることは、健康にいい。しかも、その効果は何ヶ月も続くと、英国の新聞「デイリー・メイル」のウェブサイトは、宣告している。

この記事をよく読むと、フィットネス・ジムや病院を経営している企業と旅行会社の実験結果に基づいている。

疑り深い読者なら、これは記事に見せかけた広告ではないかと気づくことだろう。批判の目の鋭い読者なら、利潤追求の点で、双方の利益は相反するのではないかと気づくのではないか。

この利益の衝突が、あまりに大きいので、宇宙からでも見えることだろう。

この最後の表現が、巧まざるユーモアを生んでいる。以上は、英国の健康保険をつかさどる役所のウェブサイトからの引用である。

確かに、旅行に出て健康になるならば、ジムにも病院にも出かける必要はない。

他方で、毎日のようにジムに通い、身体を鍛えているような人は、もう十分に健康なので旅行に出る必要はない、ということになる。

旅行に出て、皆が皆、健康になって帰ってくることは考えられない。枕が変わって、ゆっくり熟睡できない人もいるし、犯罪に巻き込まれたり、事故にあったりして、運悪く命を落とすこともないとは言えない。

結局、ストレスだけを貯めこんで帰ってくる人もいることだろう。そんな人々が多ければ多いほど、先の二社の利益は増えることになる。

つまり、先の旅行社を利用して旅行に出かけ、体を壊して帰宅し、もう一方の私立病院にかかりなさい、という意味あいが隠されているのかもしれない。

この実験報告を書いた記者は、双方の企業からお金をもらって、このような提灯記事を書いたのではあるまいか。

この実験で、12人の被験者のうち、半分は旅行に出かけ、残り半分は自宅に滞在したという。旅行に出た6人の費用は、いったいだれが負担したのか。

スポンサーが出したのなら、実験結果を一般論にまで敷衍するのは無理がある。なぜなら、だれでも旅行に出るとき、スポンサーからお金をだしてもらうことは、期待できないからである。

たったの12人。これでは、実験の名に値しないのではないか。また、ほかの研究者による評価も受けていないそうである。この報告を目にしたら、くずかごに投げ捨てたことだろう。

読みの深い人なら、たちどころに捏造記事だと判断できるのであろう。ネットの時代に入って、真偽を見極める眼力が必要になっている。英国では、第一級の人物であるかどうかは、頭の良し悪しよりも、ユーモアがあるかどうかに依るという。

これほどユーモアの力が大切にされるお国柄なら、国民の読解力は高いと予想される。こんな提灯記事は、たちどころに見破られて、デイリー・メイル紙に見向きもしない人が多く出るのではないか。

一般読者のサイトへのアクセス数が減れば、広告主は、この新聞を使うことを躊躇して、新聞社は広告収入が減り、最後は経営破綻ということになる。英国の新聞は、国民の厳しい目に育まれているといえようか。

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