百合のオタクが『女王陛下のお気に入り』を観ました
あーあー。……ますか……皆さん……聞こえますか……。
私は今あなたの脳内に直接語りかけています……。
こんにちは。七転ありすです。百合が好きです。
時間があるので百合の話をしに来ました。
ネタバレなしで作品レビューします。どうぞお付き合いください。
諸注意
私は映画や小説や漫画や演劇といった”物語”が好きで、割とよく鑑賞している方かなと思います。とはいえ、幅広く手を付けているので、何か特定の物に対して詳しいわけではありません。間違ったことを言ってることもあるかもしれませんので、ほどほどに聞き流してくださいね。加えて、もともと百合が好きなのでデフォルトで百合フィルターなるものがかかっています。なので、作品を観ていると自然と「あ、これは百合だな!」と思ってしまうことが多々あります。百合の定義に関しては人それぞれご意見あると思いますが、私は≪女と女の関係性≫を百合と呼んでいます。このnoteではそういった「あ、これは百合だな!」と思った作品を中心に、偏ったレビューをしていきます。こういう楽しみ方もあるんだなーと思ってください。ご了承ください。
映画チラシって大事
見てください。このチラシ。
めっちゃ可愛い。
そう、今回お話ししたいのはこちらの『女王陛下のお気に入り』についてです。
ちょっとスモーキーなピンクの背景に、豪華なドレスを着た女3人と、この一枚に凝縮されたその関係性。
真ん中にいる、人一倍長いマントを身に付けた女が、オリヴィア・コールマン演じるアン女王です。マントの長さは権力の象徴。この人がタイトルの女王陛下だなと分かりますね。
アン女王の向かいに立つレイチェル・ワイズ演じるレディ・サラ。
そして、アン女王のマントにどっしりと踏むように座る人一倍しぶとそうな女が、エマ・ストーン演じるアビゲイルです。
アン女王とサラは額縁の向こうに向かい合うように立っていて、すでに二人だけの世界がありそうです。でも、女王陛下のマントは額縁からはみ出ていて、二人だけの世界の外へ。そのマントをアビゲイルが強気な子供のごとく踏みつけている。それをどことなくチラッと気にかけるようなアン女王。
アビゲイルの足の間には囲いこむように1羽のウサギが収まっています。
一目見て察しましたよね。あ、これは女王陛下を取り合うんだな、と。このチラシだけで3人の三角関係がとてもよく表れていて、もうすでにあらすじが必要ない。すごい。とても良くできたチラシだと思います。「ごめんあそばせ」という文言も可愛らしさと嫌味たらしいギスギス感を醸し出していて期待大です。これだけで映画館へ足を運ぶことに決め、デザインも可愛いからチラシは壁に貼りました。
私は映画のチラシが好きで、映画館へ行くたびにチラシエリアを必ずチェックして、好きなデザインや面白そうだなと思ったものはピックアップしているのですが、このチラシはダントツで大好きです。別Ver.のチラシも劇場で見つけましたが、こっちの方がチラシとして完成度高くて好きです。
見どころ
この映画の見どころは何と言っても、
泥臭さ、滑稽さ、芝居
です。詳しく書きます。
泥臭い
この映画の一番の魅力は泥臭いところだと思っています。
本当に泥臭い。
タイトル通り『女王陛下のお気に入り』になるために、あらゆる手段を使います。
アビゲイルは澄んだ瞳で平気で嘘をつき、アン女王に気に入られるためなら努力を惜しみません。没落した元貴族であるアビゲイルはもうすでにどん底にいるので怖いもんなし。マイナスからのスタートなめんな。一歩間違えれば首が飛びかねないようなリスキーな手段を取っていくので、観ているこっちはまぁまぁハラハラします。安全という言葉と無縁な女です。そこまでしてアン女王の懐を狙う情熱に、強い執念と百合を感じざるをえません。
アン女王の親友でもあり側近でもあるサラは、「女王をよく知っていること」を武器に程よいSっぷりで、ドMなアン女王をコントロールします。サラには旦那がいますが、アン女王に対しても愛を持って接しています。SMプレイは愛がないと成り立ちませんからね。この二人の間には愛とSMと立場がある。複雑な関係を見事に成り立たせ続けるサラのバランス感覚と、ちょろいアン女王が見どころです。間違いなく百合です。
アン女王を取り合う手段が泥臭いのはもちろん、互いに蹴落とそうとするアビゲイルとサラの戦いも泥臭い。手段が汚ぇ。しかもアン女王がチョロすぎてすぐあっちこっちへ傾くもんだから完全に泥仕合。傍から見るとしょうもなさすぎて可愛く見えます。私はそこが好きです。
滑稽さ
18世紀初頭のイングランドが舞台なのですが、その時代のビジュアルがまた現代から見ると少し滑稽に見えてしまいます。
(公式サイトより引用)
当時にとってはこれが美しさだったのでしょうから、何も言えません。ただ、顔を白く染め、頬にハートのような形でチークを塗り、どことなく道化師のようなビジュアルの男性陣がアビゲイルに片手で扱かれる様は、とても面白かったです。シュールで笑っちゃいました。
こういったビジュアルも滑稽ですが、登場人物の行動も滑稽です。
その筆頭がアン女王。アン女王はもう……赤ちゃん。大きい赤ちゃんです。周りの意見に流されやすく何人もの掌の上で踊らされ、自身もそれに気づいていて泣きわめいたり、本当にこれが一国の女王なのか疑わしいほどです。大きい瞳をウルウルさせて今にも泣きそうな表情をすぐ見せちゃうし、くるくるご機嫌が変わる様はコメディアンのよう。でも映画を観ているうちにそんなアン女王がなんだか可愛く思えてきてしまうから不思議なんですよね。親友のサラもきっとこんな気持ちでアン女王のそばにいるんだろうな。
芝居が良い
アン女王役のオリヴィア・コールマンは、この作品で第91回アカデミー賞主演女優賞を受賞しています。お墨付きの芝居の良さ。オリヴィア・コールマンの表情だけで映画を観るのが楽しいです。女王であるが故、余計な発言は慎まなければなりません。言葉にするよりも、表情や視線、空気感で感情を滲みださせる芝居がとても印象的でした。
まぁ、この映画での私の推しはアビゲイル役のエマ・ストーンなんですけどね。顔が良いのはもちろんなんですが、何か熱いマグマのような沸々とした負の感情を抱えたような、熱を抱いた芝居がアビゲイルの魅力でした。男にまるで媚びず片手であしらい、「〇UCK!」を連呼するエマ・ストーンは最高だったので、これだけでも観る価値があります。エマ・ストーンというと「ラ・ラ・ランド」が有名かと思いますが、そのイメージをすべて覆してしまうような性格の悪いクソ女を演じきっているので、素晴らしい女優さんだと思いました。
サラ役のレイチェル・ワイズの芝居もこのキャラの濃い二人に負けてません。この3人の中では、おそらくサラが一番まともなんですが、どんな状況に陥っても屈しない芯の強さが好きです。絶対に這い上がってくる。女王陛下と対等に並べるオーラをどんな時も出し続けているのがすごいと思いました。
映画として
私はこの作品が百合としても好きですが、映画としても結構気に入っています。Blu-ray買いましたからね。
総じてクオリティーが高い映画だと思います。出演者の芝居が素晴らしいだけでなく、衣裳や舞台セットもかなり力を入れているんじゃないでしょうか。広角レンズが多用されているので、宮廷内がより豪華に見えますね。ドレスを含め全体の色調が抑えられているので、豪華だけども、華やかというより陰湿なじめっとした空気感が漂ってますし、雰囲気作りが上手いです。この雰囲気やドレスもまた楽しめる一つの要素だと思います。時代考証的な側面は、ちょっと私の学が無いのでわかりませんが、大河物が苦手な私でも楽しめるくらいストーリーは分かりやすいです。
と、私は絶賛していますが、世間的な評価はまずまずらしいです。全体的に汚いし下ネタも多いので人を選ぶ映画だと思います。あと、ベースはシュールコメディーだと私は勝手に思っているので、笑いながら観ています。クソ女が好きな人たちで応援上映したら最高に盛り上がれそう。感情移入して観るよりは、酒を片手に応援したい。
他にも書きたいことはまだあるんです。サブリミナルうさちゃんとか。
でも、これは観ればわかるのでこれ以上触れません。
百合として
女と女が女を取り合う図が百合じゃないわけないんですよね。基本的に手段は寝取りなので、百合シーンもアリ。立場がかかっている分しつこいですし、それだけの情熱と執念がありますから。恋愛ではないと思いますが、巨大感情は間違いなくあります。
最後に
よかったら予告映像置いておくのでご覧ください。
ネタバレなしだとなかなか具体的なことは書けないので、ストーリーに関してはほぼ触れてません。あらすじも、作品を語るうえで要らないと思ったので敢えて載せてません。作品としての魅力ばかり語って、百合としての紹介ほとんどしてないや……。ぜひ気になったら映画観てみてください。観た感想なんかもぜひコメントいただけたら嬉しいです。
次は何にしましょうね。『リップヴァンウィンクルの花嫁』はいつかネタバレありで書きたいと思いますが、いつになるやら……。気長にお待ちください。