【大人も楽しめる童話】『いたずらな太陽〜北欧のお話〜』
今からずっと昔のことです。
太陽と月は,昼と夜の間,
交代で空に出て仕事をしていましたが,
ある日,太陽が病気になってしまいました。
太陽は交代の時,月に言いました。
「月さん,明日一日,
昼番をお願いできないかしら。
ちょっと調子が悪いのです」
「いいですよ。どうぞおだいじに」
月は快く引き受けました。
自分もいつか病気になるかもしれない。
その時は,夜番を代わってもらうかもしれないから,
太陽が具合の悪い時は,
気持ちよく代わってあげようと思ったのです。
月はその日の夜にいつも通り空で働いて,
次の日の朝が来た時,
いつものくせで沈みそうになりました。
「おっといけない。
今朝はこのまま,ここにいればいいんだ」
月は朝になってもそのまま沈まずに,
空にとどまりました。
でも太陽がいないので明るくはならず,
空は真っ暗なままです。
人々はやがて騒ぎ立てました。
「なぜ今日は太陽があがらないんだ?」
「仕事に行かなきゃならないのに真っ暗だ」
「この子を保育園に連れて行くのに,
こんなに暗いと危ないわ」
人々は真っ暗な中,
懐中電灯を持って仕事に行ったり,
一度消えた街灯を再び点けたり,
子どもを保育園に連れて行くのをあきらめたりと,
ずっとそわそわしていました。
月はそれを見て,あわてて説明をしました。
「みなさん,今日は太陽さんが病気だから,
私が代わってあげたのです。
暗くてすみません!」
でも人々には届きませんでした。
太陽と月の言葉は,人々には聞こえないようです。
月はだんだん申し訳ない気持ちになって,
早く太陽の具合がよくならないかなと思っていました。
また夜が来ても,月はずっと空にいました。
長く暗い一日半が終わり,
やっと次の日の朝になりました。
すっかり元気になった太陽が出てきて,
お礼に夜番を代わってくれると言いました。
月はやっと沈んで,ゆっくり休むことができました。
太陽は朝から夕方まで元気に働き,
日が沈む時間になると,
間違えて帰りそうになりました。
「今日は帰ってはいけないんだったわ!」
太陽がまた空高く戻って行ったので,
空は暗くなりませんでした。
人々がまた外に出てきて騒ぎ始めました。
「今度は夜なのに明るいままだ。
いったいどうしたのだろう。
きっと神様が怒ってしまったに違いない!」
人々はみな恐怖におびえました。
「神様は怒ってなんかいませんよ!
私と月さんがちょっと交代しただけなんです。
夜なので,どうぞみんな寝てくださいな」
太陽は人々に向かって叫びましたが,
やはりみんなには聞こえないようです。
子どもたちがキャーキャー歓声を上げて,
パジャマのまま外に出てきました。
「まだ明るいから遊んでていいでしょう?」
「だめよ,明るいけどもう夜なの。
帰りますよ」
「どうして明るいのに夜なの?」
子どもたちはお父さんやお母さんに手を引かれて,
ぷんぷんしながら家に帰って行きました。
やがて外は静まりかえりました。
人々は明るい中,寝ようとしているようです。
でも明るくて眠れたものではありません。
それでも夜中の二時を過ぎると,
うっすらと暗くなり,
人々もやがて寝息を立て始めました。
太陽はこんなに長い時間,
働いたことがなかったので,
疲れて水平線の辺りまで落ちかけていたのです。
「あら,いけない。…まあ,とてもきれいね!」
太陽は寝ぼけながら,
オレンジ色にそまった静寂な海を見て,
すっかり夜を気に入ってしまいました。
それから日の出の時間まで,
低い位置で人々が起きてくるのを待ちました。
その日の昼も,太陽は空で働き続けたので,
すっかり疲れ切ってしまいました。
やっと交代の時刻になって,月が声をかけました。
「太陽さん,ありがとう。お疲れさま」
「月さん。長い一日半だったわ。
月さんも昨日は大変だったでしょう。
でも私たちが交代すると,
人々を困らせてしまうようね」
「そうですね。
これからはどんなことがあっても,
それぞれの時間に働くようにしましょうか」
太陽と月はすれ違いながら話し合い,交代しました。
それから太陽と月は,自分の担当の時間に働いて,
決まった時間に必ず交代しました。
人々はもう恐怖におちいることなく,
また安心して過ごせるようになりました。
でも太陽は,あの日,夜に輝いた経験を
忘れられないでいました。
そして毎年夏になると,
いたずらでちょっと夜に顔を出すようになりました。
でもあまり堂々と輝くと,
また人々を怖がらせてしまうので,
あの日のように,ちょっと低い位置で
遠慮がちに光を放っていました。
人々はまた少し驚いたようですが,
今では,夏の夜に太陽が沈まないことを
楽しんでいるようにも見えました。
夜の間じゅう外でサイクリングをしたり,
ゴルフをしたりする人も出てきました。
窓辺で一晩じゅう太陽を眺めて過ごす人もいたり,
夜の太陽が見えない南の国の人たちが,
沈まない太陽を見に,
わざわざ北の国を訪れたりすることもあるそうです。
太陽はそんな人々を見て,
ちょっと嬉しい気持ちになりました。
そして今でも,夏の間だけ少し夜に顔を出して,
優しく輝いています。(終)
©2023 alice hanasaki
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