メカデザイン考 足長侵略兵器の系譜
SFの文脈において、『足長』って、侵略兵器の記号です。いや、実際の戦闘考えれば、撃ってくれよ、って言わんばかりの形状ですが、そこは…
様式美!
という事で!まあ、上から見下ろされるって、感覚的には、脅威ですもん。
◆『宇宙戦争』(1898)
H・G・ウェルズによるSF小説。火星人による地球侵略を描いた作品です。ここに登場するのが…
『トライポッド』という火星人の兵器。名前の通り、三脚。
僕の知る限り、足長兵器の元祖です。
アルヴィン・コレアによる挿絵も素敵。
なんで、こんな触手のような長い脚なのかなーと思うのですが、「火星人」のイメージがタコなので、案外、そこからの発想かも知れんな~と思います。
さて、僕も、この記事書く為に、改めて画像よくよく眺めて気が付いたんですが…
トライポッドって、「一つ目」ではない!
結構、ビックリした。というのも、実は、今後紹介する後継メカって、割と、「一つ目」をモチーフにしてる事多いんですよ。
英語版ですが、上の電子書籍だとアルヴィン・コレアによる挿絵が末尾に収録されています。はっきり、「二つ目」で描かれているイラストもありました。
でも、片側の目が見えないカットの方が印象残ったんでしょうね~。『2001年宇宙の旅』のHALとかもそうですが、「一つ目」って異質ですもん。
なお、2005年公開のスピルバーグ版『宇宙戦争』では、こんなデザイン。
三つ目だけど、中央の目が大きくて、印象としては『一つ目』。
という訳で、この後、トライポッドの系譜を並べてみます。ただ、ちょっと、混乱した流れとなっているのは、ゴメンなさい。
というのも、トライポッド系メカって、途中から「多脚兵器」が分派すると思うんですが、それをバッサリ切ってしまうのも、勿体ないなぁ、と思い、整理しきれないまま、混じってます。
◆機動戦士ガンダム(1979~1980)
アッザムとビグ・ザム。デザインラフは富野由悠季監督。ビグ・ザムは、トライポッド味強いと思うんですが、アッザムはそうでもないですね。ただ、後に出て来る国産『多脚兵器』のバランスに、予言的に近しいのが面白いので掲載。
◆『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(1980)
AT-AT。
AT-ST。
巨大兵器ではありませんが、下記の偵察ドロイドはトライポッドっぽい。
『足長』という記号は、ファンタジー系モンスター的にアレンジされ、AT-AT、AT-STとなり。形状的と特徴は偵察ドロイドに。面白い。
◆ 『バーサーカー 赤方偏移の仮面』(1980)
バーサーカー。フレッド・セイバーヘーゲンによる同名SFシリーズに登場する殺戮兵器。古代星間文明が残した自己増殖機械という設定であり、おそらく、『超時空要塞マクロス』のゼントラーディの元ネタでもあります。上は日本版の表紙で、加藤直之さんによるデザイン・イラスト。トライポッドor火星人にHAL9000(『20001年宇宙の旅』)の意匠を融合させたかのようなデザイン。『宇宙の戦士』のパワードスーツ同様、様々、オマージュされているSFデザインです。(MGSシリーズのサイボーグ忍者のデザインは、バーサーカー味ありますね。)
◆『伝説巨神イデオン』( 1980~1981)
敵宇宙人「バッフ・クラン」の重機動メカ(上の画像は代表してザンザ・ルブ)の基本デザインは、トライポッドです。重機動メカのデザインラフは富野由悠季監督。
◆『太陽の牙ダグラム』(1981~1983年)
クラブガンナー。デザインは大河原邦夫さん。AT-ATの上を戦車したってシンプルなアレンジだけど。トライポッド系から分岐する「多脚兵器」のハシリだなぁ、と。
◆武器よさらば(ヤングマガジン1981年11月16日号)
大友克洋による短編漫画。
ちょっと脱線しますが、この作品の主役であるパワードスーツは、スタジオぬえによる『宇宙の戦士』のパワードスーツと並び、後世に影響を及ぼした傑作デザイン。前者が"入り込む"パワードスーツとするなら、後者は"着る"パワードスーツという感じ。
有名な話ですが、横山宏氏の『S.F.3.D ORIGINAL』(現『マシーネンクリーガー』)は、ミクロマンのパワードスーツを『武器よさらば』風に改造した作例から始まりました。(作中では、A.F.Sと呼ばれます。)本来は単発の企画だったので、作例のカッコ良さから、連載になっちゃったんですねぇ。
脱線失礼。さて、この作品に出て来る敵役が自動兵器「ゴンク」。
その後のリアル系「多脚兵器」の元祖と言えるかと。
なお、ゴングの1枚目の画像。漫画作品なのにこの表現ですよ。絵をビデオで撮影し、モニターで色調整、それを写真で撮影、という手法。日本初。『S.F.3.D ORIGINAL』も、さらに『S.F.3.D』の後継的企画である『ガンダム・センチネル』も、この手法、オマージュしてます。
それにしても、大友克洋の天才といったら!メビウス(ジャン・ジロー)というお手本があったとがいえ、1981年にすでにこのデザインセンスは衝撃過ぎる。しかも、大友先生は、メカが上手い漫画家でなはないんですよ。森羅万象全てが上手い漫画家なんすよね。メカは才能の一端に過ぎない。怖~。
◆超時空要塞マクロス(1982~1983)
『スターウォーズ』を踏まえた上でのトライポッドの再デザイン、と言えるでしょう。かつ、バーサーカーであるというのがまたスゴイ。異星兵器の集大成かも知れない。デザイナーは河森正治さん。
グラージ。デザイナーはおそらく河森正治さん。
クァドランロー。人型のパワードスーツだけど、腰を排したデザインで、足長にしているバランスが秀逸。正確には逆関節じゃないけど、脛のラインが反っている為、パッと見、逆関節っぽく見えるのも、ゼントラーディの統一性があって、素晴らしい。デザイナーは宮武一貴さん。(なお、劇場版は出渕裕がリデザイン)
◆『S.F.3.D ORIGINAL』(1982~1985) ※現『マシーネンクリーガー』
横山宏氏によるオリジナル模型シリーズ。『スターウォーズ』と大友克洋の影響は大きいですね。
クレーテ。『一つ目』を防弾カバー付きのライトに置き換えたのは天才。
ノイスポッター。こちらもスターウォーズ味が強いですね。「三本足」のアレンジを、ほとんどのメカが、「ニ本足」か「四本足」にするのに、「一本足」(球状は重力ユニット)にしたのは天才と思います。
なお、後に、上2つをガッチャンコした『(ルナ)ガンス』が生まれ、よりトライポッドになります。
◆『アップルシード』2巻・プロメテウスの解放(1985年)
士郎正宗の出世作『アップルシード』。その2巻に登場する「多脚砲台」。「一つ目」を模したアンテナからも、かなりアルヴィン・コレアのトライポットを意識してるかと。『攻殻機動隊』のフチコマ・タチコマに繋がるデザインでもあります。
◆『AKIRA』3巻(1986年)
大友克洋の代表作『AKIRA』。3巻に登場する自動歩行兵器・通称「炭団(たどん)」。『武器よさらば』のゴンクから派生したデザインかと。
◆『ファイブスター物語』(1986年~連載中)
永野護先生のライフワーク的作品『ファイブスター物語』に登場するヤクトミラージュ。『月刊NEWTYPE1987年2月号』に組み立て中のフレーム状態で登場してから、部分的にデザインが開示され、全身が明らかになるのは、1996年3月号という。9年ですよ!
永野先生がどこまで意図的かは全く分かりませんが、トライポッドを人型にしたかのようなサイズ感と四肢のバランス。
◆『ロボコップ』(1987年)
ポール・バーホーベン監督によるSF映画。敵メカとして登場するのが「ED-209」。
◆『機動警察パトレイバー』OVAシリーズ(1988~1989年)
ぴっけるくん。デザイナーは出渕裕さん。
◆『機動警察パトレイバー the Movie』(1989年)
クラブマンハイレッグ。デザイナーは佐山義則さん。ぴっけるくんが明らかなトライポッド・オマージュなのに対し、「多脚兵器」って感じですね。
◆攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL(ヤングマガジン海賊版1989年5月号)
士郎正宗の名を世界に拡げた作品。そこに登場するのは思考戦車「フチコマ」。多脚砲台を一人乗り兵器に縮小した印象。(また、意識したかは謎ですが、『AKIRA』の炭団ぽさもあります。)
下記の動画は、1997年7月にプレイステーションにて発売されたゲーム版のOP。数多くある映像化の中で、もっとも原作に雰囲気を再現しています。
TVシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』ではタチコマとしてリデザイン。タチコマのデザインも基礎は士郎正宗。
◆『機動警察パトレイバー 2 the Movie』(1993年)
大傑作映画。のちのアニメに与えた影響は図りしれない。敵兵器として登場するのが戦術ロボットタンク「イクストル」。バーサーカーであり、ゴンクであり、フチコマである、という記号テンコ盛りの「多脚兵器」のお手本的デザイン。出渕裕さんがデザイン。
◆『メタルギアソリッド』(1998年)
メタルギアREX。デザインは新川洋司さん。メタルギア・シリーズは、語るとキリがないほど、色々あるので、とりま、代表としてREXのみ。「多脚兵器」的なニ足歩行兵器という印象。しかし、足長なのに、顔は下から睨み上げる印象にもなってて、REXのデザインは、ホント、カッコいい!
◆『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』(1996~1999年)
アプサラスⅢ。デザインはカトキハジメさん。ビグ・ザムであり、その源流たるトライポッドでもあるという。メガ粒子砲が「一つ目」っぽく見えるのが素晴らしい。(球体は、もしかすると、ノイスポッターのオマージュかも知れない)
◆『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021年)
そして、2021年にもなって、まだまだ出て来るトライポッド。エヴァンゲリオン4444Cと44B。デザインは山下いくとさん。特に4444Cは明らかにトライポッドですね。
触手をアルキメデス・スクリューとする事で、現実的な駆動機にしたのは天才過ぎる!
また、これは庵野監督の嗜好かと予想しておりますが、まるで子供が人形を分解し再構築したかのような、暴力的なフェチズムも強烈ですよね。
という訳で、国内架空メカを中心に、トライポッド、トライポッドに密接な「多脚兵器」を並べてみました。SFの源流的なデザインなだけに、世界中に、まだまだ沢山、系列はあると思います!
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