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2024/02/24 津田沼

 津田沼。都会ではないけど、田舎だと言い捨てきれない街、津田沼。なんかありそうで、意外となんもない街、津田沼。チュートリアルが終わった後、一番最初に攻略することになりそうな街、津田沼。
 なんで津田沼に来たのか、理由は二つある。私の好きなボカロP、フロクロさんの投稿した動画の中には、津田沼で撮影された映像が数多く使われいる。更に本人のTwitterには、津田沼駅のヨーカドー閉店を嘆くツイートが散見された。今回はいわゆる、聖地巡礼を目的に遊びに来たのである。
 二つ目。この頃から私は、YouTuberのmorgen氏にハマった。動画内容としては、散歩しながら時々煙草を燻らしている様子を映し、そこへあと撮りしたナレーションが加えられる。オモコロやジャルジャルに通ずる、品のある尖り方をするYouTuberといえよう。そんな彼女に憧れ、自分も散歩動画を作ろうと意気込み、スマホのビデオカメラを眼前に掲げながら津田沼行の電車に乗った。
 結論から言うと、動画制作はモザイク処理の施工に難航。取ってきた素材のうち、1/3程度しか編集を終わらせられず、無念にも私のYouTuber人生はここで終了してしまった。お蔵入りになった動画の供養も兼ねて、ここにあの日の出来事を記していこうと思う。

 午後1時ごろ、津田沼駅行の電車が走り出す。外食を取ると金がかかると考え、昼食は家で済ませている。私の倹約気質が異常なわけではない。津田沼駅周辺に、ランチにちょうど良さそうなカフェとか定食屋とか、めぼしいものが何もなかったからだ。私は決して吝嗇家ではない。
 津田沼駅に着いた。南北の出入り口をつなぐ、渡り廊下の窓から見えた景色。間違いない。「ビビビビ」のMVで出てきた風景そのものだ。コピーのコピーのコピーのコピーみたいな生活をなげうってたあの映像が目の前にある!MVでは00年代のビデオテープのような画質に、サブリミナル的に差し込まれる画面の砂嵐が相まってアナクロな雰囲気を醸し出しているように感じた。実際見てみると、あの世界感を形作っていたのは、映像の加工技術だけではない。街そのものに味がある。やたら目立っているだけのアナログ時計。消費者金融や不動産会社で構築された、子どもウケの悪さをもろともしないビル群。祭りでもないのにバザーを開いている卦体な公園。街行く人の手元のスマホが、不意にガラケーに見えてくる。

 まず始めに年内で閉店することが決定しているイトーヨーカドーを目指すことにした。北口を出て、MVにも登場した富士そばの通りを進んでゆく。信号を待っている間、私の視界に入ってきたのはよくあるパチンコ屋のビル。しかし、そのビルの上階まで見上げると、「市進学院」の文字が見えてきた。未来ある若人にパチスロでしか悦を感じられない虚しい人生を辿るなよ、という大人からの戒めか。はたまた、塾に通える程に恵まれた経済環境に生まれ育ったおぼっちゃまを社会の底辺に引きずり込んでやろうという策謀か。入口に吸い込まれていく人々の肩に、憑き物が見えた気がした。
 新津田沼駅直結のイトーヨーカドーに着いた。なんというか、全体的に活力を失ったショッピングセンターとなっていた。打ち切りが決定したバラエティ番組のごとく、終わるのが決定しているのに頑張って意味あんのかっていう、スタッフと演者から漏れ出る粛々としたあの空気が漂う。コンテンツの終了に向けてのアプローチとして、嵐の活休間際や安室奈美恵の引退時のように、ファンも演者も納得できる最期を迎えてほしいものだとつくづく思った。
 別の出口からヨーカドーを抜け出すと、機関車のオブジェが佇む公園があった。そういえば「displacement」の動画に映っていた公園も津田沼に存在しているのだろうか。ついでに探してみたいけど、現地の人にわざわざ尋ねる勇気はない。ここに居座っても、無邪気に遊ぶ子供の邪魔になるので、別の場所へと足を運ぶことにした。
 ヨーカドーのすぐ近くの「mina」というショッピングモールに入店。店内の多くが、ファッションブランドで埋め尽くされているにも関わらず、1階の飲食店は吉野家とすた丼という摩訶不思議な組み合わせ。客層的にイタリアンとか入れたほうが無難だったろ。

 南口の方も散策してみよう!そう思い至り、津田沼駅へと引き返す。津田沼公園円形広場には、見たことないアイドルユニットが聴いたことない曲を歌っていた。ご当地アイドル「フルーティー⭐︎マジック」という名前で活動中らしい。Twitterで調べたところ、二人の顔写真がいくつか載せられていたが、二人してすべての写真で同じ表情を浮かべていた。多分、ワノ国でSMILEの失敗作を食わされたんだろう。かわいそうに。
 モリシアの中にオタクたちの憩いの場、アニメイトを発見した。電車賃をかけてきたからには自分への手土産の一つでも買っていかないと、なんとなく損をした気分になる。なので最近、友達の影響で見始めたVTuberのグッズを物色することにした。サロメ嬢のぬいぐるみや、虚空教典、くろのわのキーホルダーなどなど。30分以上迷った挙げ句、委員長のクリアファイルを購入することにした。これで、津田沼までの電車賃が無駄にならずに済んだ。
 この日の数ヶ月後に、委員長がビビビビの歌ってみたを投稿した時、私は驚きを隠せなかった。自分にとって惹かれる物が、委員長と近いのかもしれないと思ったほどに。ちなみにモリシアは老朽化により、2026年4月に解体されるそうです。大至急。

 津田沼駅から家に帰る前にもう一つ、巡礼すべき聖地がある。フロクロファンの皆さんはお気づきであろう。ビタミン剤しか食べていない人みたいな街、船橋だ。この船橋で唯一のアミューズメントパークと謳われている、でっかいダイソーをスルーするわけにはいかない。2019年8月18日のあの日から、4年余り経っている。あのときの甘栗はどうなっているのか?我々は調査へ向かった。
 1階には製菓コーナーがある。例の動画で映されていたエスカレーター付近に直行。が、しかしエスカレーター付近にはビニール傘しかない!4年という歳月を経て、あの頃の甘栗はもうなくなってしまったのかもしれない。絶望感に苛まれたその瞬間、私の目に飛び込んできたのは、レジ横に並んでいる大量の甘栗だ。しかも剥き甘栗だけではなく、焼き甘栗や特選甘栗など無駄にバリエーションも豊かになっていた。生活に必要なアイテムを中心に商品展開を行ってきた100円ショップの重鎮ことダイソーもついに、甘栗ビジネスへと走り出したわけである。
 エスカレーターに乗り込む。2階は文具コーナー。このフロアにも甘栗は置いてあった。「勉強のお供に」というダイソーの懇意が垣間見える。3階はキッチン用品コーナー。このフロアにも甘栗は健在。いい出汁が取れるに違いない。4階は化粧品やトラベルグッズ。旅行へ行く前に、みんな一つ手に取っておこう。5階は洗濯や掃除用のグッズが売られている。甘栗は例外なく設えてある。部屋で甘栗を散らかしても安心だ。
 さてさて、問題の最上階。4年前の動画では、このフロアだけ甘栗が売ってなかった。息を飲み、エスカレーターが私を6階に送り出す。園芸用品のコーナーが立ち並ぶ。隅から隅まで見回してやろうと意気込んだのも束の間、左手には先程までと全く同じ、プラスチック製のケースに甘栗たちが並べられているではないか。苦労してたどり着いたラストダンジョンが意外とすんなり攻略できてしまった時のようなあっけなさを感じつつ、見慣れた形の棚から甘栗を一つ取り、1階のレジへと戻った。

 甘栗を購入し終え、帰路についた。ビビビビのMVに登場したパルコはもう存在しておらず、今回訪れたヨーカドーやモリシアの閉店は間近に迫っている。人間の手によって彩られてきた街が、人間の都合によってまた姿を変えてゆく。もう現在の津田沼を見られることはないのかもしれない。今までろくに行ったことなかったけど、津田沼という街がたどってきた歴史の中の1ページを、自分の言葉で書き残すことができて良かったなと思う。

散々言及してきたフロクロさんの「ビビビビ」です。まだ聴いたことない方がいましたら是非!!

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