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紳士おじさまの謎の会合

まだ暑さが残る、9月のある日。

その日dineでデートを約束した相手は、50代後半の男性だった。
(※dineとは、日程とお店を決めるだけで即デートできるマッチングアプリ)
父親とほぼ同い年。おじさんより、もはやおじいさんに近い。

けれどその人には、「おじさま」という表現がしっくりきた。

プロフィール写真は、しゅっとしたスーツ姿の宣材写真が一枚目。
そして二枚目は、ばっきばきの腹筋が露わになった上裸のモノクロ写真。

自己紹介文を読むと、経営者でテレビ出演経験もあるらしい。
極めつけは、最後の一文。「詳しくはwikipediaで名前を検索して下さい

どう考えても、そこら辺にいる50代ではない。
そんな単純な好奇心で、会ってみることにした。



指定されたのは、なんとミシュラン星付きのお店
期待半分、得体の知れないおじさまと一対一で会う不安半分で、焦って道に迷ってしまい、20分遅れでお店に着いた。

高級ホテルのような受付でおじさまの名前を告げると、奥の個室へと案内される。

少しこわばった店員さんの様子からするに、おじさまはかなりの上顧客なのだろうか。
そんなことを思いながら扉を開けて、私は一瞬固まった。

部屋の中では、お上品に背筋を伸ばした美女3人と、スーツ姿のおじさまが座っていた。
むんむんと漂う怪しげな雰囲気。踏み込んではいけない秘密の会合に来てしまった、そう思った。

{私はどこかで何かを間違えた…?}
頭の中が?で埋め尽くされていく。

固まっていると、おじさまが優しい声で言った。
「お持ちしてましたよ、そこに座って。」

無言で微笑む美女の隣に、私は促されるままに着席する。

「あなた、お名前は?」

自己紹介を求められ、おそるおそる答える。
するとおじさまは、手元のメモ帳に鉛筆で私の情報を書き取る。

同時に美女たちも、「よろしくお願いします」と自己紹介を返してくれる。減点要素なしの完璧なにこにこ顔で。

正解が分からず、私も平静を装ってにこにこ顔を返す。
美女たちの服装を横目で瞬時に確認し、彼女たちと同じトーンのシックな黒いワンピースを着てきた自分に賞賛を送りながら。

それでも、心の中の?マークは一向に消えない。
{何なんだ?私は何の会に迷い込んでしまったのだ…?!?}

さっぱり理解できず逃げ出したい気持ちを懸命に抑えていると、おもむろにおじさまが名刺を差し出してきた。

「びっくりしたでしょう、私はこうゆう者です。」

肩書きを見て、私は無言で息を飲んだ。
おじさまはこのレストランのオーナーだったのだ。

「あなたは、dineでのデートは何回目?
さっき伺ったら、他の皆さんはもう何度も使われてるみたいですよ。

それにしても、今日は私みたいなおじさんを選んでくれてありがとう。」


…なるほど、この場にいる美女たちも私と同じく、dineでおじさまとマッチングした女の子らしい。
そう分かると途端に親近感が湧く。おじさま専属の喜び組か何かと思っていたもの。

「今日会えたのも何かの縁ですし、おいしいお食事を楽しんでください。」
そう言うおじさまの紳士的な口調には、ビジネスの香りがした。


前菜から始まり、次々と提供されるフルコース。
見た目もお味も、どれも本当に美味しくて。
しかもワインは飲み放題で、グラスが空くとおじさまがすかさず次のボトルを注文してくれる。 (おじさまが出版しているワイン雑誌までもらった。)

そして私が一番心を奪われたのは、最後に出てきたデザート。

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このサイズ感といい、お上品なお味といい、素敵でした…❤︎


お食事会を楽しみながら会話するうち、おじさまの目的が徐々に分かってきた。

そう、このレストランのオーナーである彼は、dineユーザーの私達をこのお店に招待し、おいしいお料理を食べさせ、次回のマッチング相手とぜひココに来てね、と宣伝しているのだった。

聞くと、こういうお食事会はもう数回開催しているらしい。

最後には、「僕のお店をリクエストに追加してね」と言われました。次の日には抜かりなくメッセージまで。
(…もちろん、追加しましたけども。笑)

私たちは、おいしいお食事をご馳走してもらえてハッピー。
おじさまは、お店宣伝できてハッピー。

なるほどなあ、やり手のおじさまはやることが違うなあ、と感心しながら、お店の前で華麗に去るおじさまの後ろ姿を見送った。

そして、最初はおじさまの喜び組かと思っていた美女たちと、「不思議なお食事会だったね、でも美味しかったね」と女子トークしながら、舞踏会帰りのシンデレラのようなふわふわした気持ちで帰り道へつきました。

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