【人間観察】ひょうきんさんの二つの顔
ひょうきんさんとは、1か月ちょっとのプロジェクトで一緒になった。
そのプロジェクトとは、次年度の年間施策をかけた大プレゼン。扱い金額も桁違いに大きい。
各パートのメンバーが集結し、総勢20人以上のチームが結成された。
最初の顔合わせミーティング。各パートごとに現状を共有する。
ひょうきんさんは、いわゆるクリエイティブチームのリーダーだった。
第一印象は「テキトーな人」。
パーカーに丸メガネという、いかにもクリエイティブな服装で、年齢は30手前くらいかな。少し高い声で、皮肉を込めた話し方が印象的だった。
「僕らのことは全員メガネで覚えてください」と出だしで笑いを取り、1時間前に作りました風の資料を、思いついた言葉で説明する。
「人気のタレントAか、タレントB。
どちらかでいきたいと思ってます。
(まだ裏取りはしていません)」
まとめると、そんな内容。
そりゃあ、あのタレントAかBを起用出来たら、こっちのものだ。けれど、それが難しいのは誰もが知っている。
あと1ヶ月でまとめなきゃなのに、こんな夢物語を描いていて大丈夫かしら?
というのが、正直な感想だった。
毎週の定例ミーティングで、徐々に提案が形になっていく。
当初のタレント案はやっぱり実現せず、それでも全員が納得できる提案内容に固まった。
特にクリエイティブパートは難航し、もうだめかも…という状況に何度も陥った。
けれどそのたび、ひょうきんさんはけろっと言う、「まあなんとかしますよ」と。そこには危機感など、全くない。
私はその言葉をなんだか信用できなくて、ほんとに大丈夫かな、間に合うのかな、と心の中でいつもひやひやしていた。
そして迎えた、プレゼン当日。
プレゼンは全部で1時間。
リレー形式で、各パートの担当者がプレゼンを繋ぐ。
ひょうきんさんは二番手。
いつものラフな服装から一変、スーツを着こなしたひょうきんさんが話す。力強く、堂々と。
渋い顔で意地悪そうに資料を睨む、クライアントのおじさん衆に向かって。
彼のプレゼン30分間、私は聞き入ってしまった。
大袈裟かもしれないけれど、彼の言葉には魂がこもっていて、本気でこの企画をやりたいという情熱が伝わってきたから。普段の彼からは全く感じない、真摯な想いが、そこにはあったから。
そして何より、カッコ良かったのだ。
プレゼンするひょうきんさんが、とても。
逆らえない魔力のままに、彼に魅かれる自分を感じた。
私より若干年上で、こんなプレゼンをやってのける彼は、いったい何者なんだ?どんな男なんだ?
どうにも気になって、Facebookを開いた。
(こうやって、誰でもすぐに素性が知れてしまうのが現代。ああ怖い。)
すぐに見つかった、ひょうきんさんのアカウント。
最近の投稿の一文を見て、私は思わず目を見開いた。
「僕は来月で40になります。」
…衝撃の事実。40?うそでしょ?
そしてもうひとつ、目に留まった投稿。
「○○の仕事をするが、僕の夢です。」
その仕事とは、まさに今回のプロジェクトだった。
そう、彼は入社以来ずっと、このプロジェクトに関わるのが夢だったというのだ。
なるほど。あのプレゼンにも納得。
そして気付いた。
20代にも見えてしまう彼の若さは、40歳になってもなお「夢」と言える子供のような情熱を持ち続けるからこそなんだ、と。
彼の普段のひょうきんさは、「夢」を持ち続ける少年の一面でもあって。
けれど、ここぞという場面では、物事をやり遂げる大人な顔も持っている。
ああ、これこそ、私のなりたい姿だな。憧れの大人だな。
そして、私が惹かれてしまう男性のギャップなのだな。
と、なんだか一人で妙に納得してしまったのでした。
(残念なことに、このプレゼンは結果通らなかったのだけど。)