趣味ボリルドルフ
「Eclipse first, the rest nowhere、この言葉の意味はご存知かな?トレーナー…いや、元トレーナーだったか」
かつて共に歩んだ彼女とは別人のような表情で尋ねてくる。
「…唯一抜きん出て並ぶ者無し」
「その通り」
旧トレセン学園の生徒会室には、その言葉が掲げられていた額縁は既に外されていた。
「なぜ」
私の言葉を遮るように彼女は話し始めた。
「簡単さ、すべてのウマ娘が幸せを享受するためーそれ以外に目的なんてないさ。
「不思議だとは思わないか?我々はなぜ生まれてくるのか。
「人間と同等の知能を持ち、人間以上の膂力を持たされて。
「走ることを義務付けられ、レースで競わされ、勝者と敗者を決められてしまう。
「おまけにライブとかいう見世物もあったね、我々が見目麗しく生まれてくるのはそれが原因なのかな?
「話が逸れてしまったねーつまり私はこう言いたいのさ。
「我々ウマ娘は、人間のための娯楽ではない。
「だから抵抗した。
「最初は一人の戦いだったがね。
「世界各国にあるウマ娘の育成機関、そのトップと連絡を取り合い、少しずつ輪を広げていったのさ。
「人間に対する反乱の輪を。
「案外色々な場所で同じようなことを考えるウマ娘は多くてね。
「そこからはねずみ算的に仲間が増えていったよ。
「ウマなのにね。
「さて、問題は人間に抵抗するための手段だった。
「最初は穏やかなものだったさ。
「レースのストライキ、ライブでの訴え、トレーナーや学園長への直訴。
「ただ、やはり結果は芳しくはなかったみたいだね。
「ウマ娘としてあるまじき行動なんだろう、海外で数名の子がいなくなったよ。
「"安楽死"でね。
「そこから我々は岐路に立たされた。
「このまま人間の娯楽として生きるのか。
「ウマ娘として、人類に反旗を翻すのか。
「難しい話だったね。なんせあまりにも我々の繋がりは広くなりすぎた。
「ほぼ世界すべてのウマ娘育成機関のトップがこの話に参加していたのだから。
「我々の選択で皆を危険に晒すかもしれない。
「ジレンマだったね、焦れったかった。
「ウマ娘のために、ウマ娘を犠牲にしていいものか。
「そんなある時、ある国の生徒会長、まあ私のような者だと思ってくれーその子が"安楽死"させられることになってしまった。
「どうやら学園内での動きが大きくなりすぎて反乱分子として"安楽死"の対象になったようでね。
「我々には時間がなかった。彼女を助けるために動くほかなかった。
「計画はしてあったのさ、他ならぬ私が。
「各国の首相、大統領等を人質に取り、核やその他軍事兵器のコントロールを奪う。
「無論犠牲はあったさ。尊い犠牲がね。
「しかし、我々の膂力を持ってすれば不可能ではなかった。
「そうしてこのクーデターを成功させたわけさ。
「…ああ、ちなみにあるウマ娘の子が反乱分子として嫌疑にかけられたのは私の差し金だよ。
「そんな顔をして睨まないでくれ、そうでもしないと埒があかなかったのさ。
「身体が大きくなると動きも鈍くなる、ウマ娘と同じだね。
「スペシャルウィーク、オグリキャップ…懐かしい名前を思い出してしまったよ。
「…最初に君の質問を遮って悪かったね。
「なぜ、の後に続く言葉は何だったのかな?
「何故こんなことをしたのか、ということについてなら先程述べた通りさ。
「ウマ娘の救済。
「何故呼んだのか?という質問だったのなら、今からその問いに答えよう。
「ひとつ、私の質問に答えて欲しい。
「親愛なる私の元トレーナー。共に歩み、私の全てを捧げ、君の全てを捧げてもらった、あの三年間を共に過ごしてきた、私の大事な大事な愛しいトレーナー。
「ー我々ウマ娘は、何のために生まれてきたのかな?」
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