セグメンテーションモデルのビジネス活用事例:最新技術(SAM2)動向と使用デモ付き
はじめに
近年、ChatGPTやStable Diffusionといった生成AIモデルが話題を集めていますが、AI技術の進歩は生成AIだけにとどまりません。画像認識の分野でも大きな革新が起きており、特に注目を集めているのが後述するMeta社の「SAM」と呼ばれるセグメンテーションモデルです。
自動運転の性能向上やMRI・CT画像内の腫瘍検出など、様々な分野での活用が期待されていますが、セグメンテーション技術を実際に導入するにあたり、多くの事業者が以下のような課題を抱えているのが現状です。
使い方が分からず、利用イメージが湧かない
検出精度への不安がある
ビジネスにおける具体的な活用方法が分かりにくい
これらの課題を解決するため、本記事ではセグメンテーションモデルの概要から全体像まで、前述のSAMを中心に解説します。さらに、具体的な活用事例や実際のデモを通じて、最新技術の精度の高さとビジネスにおける利活用の可能性をご紹介します。
セグメンテーション技術とは
概要
画像認識におけるセグメンテーションとは、画像内の物体や領域を人や車といった特定のカテゴリーに分類する技術です。単なる画像分類や物体検出と異なり、物体の種類・位置・形状の全てを詳細に把握することが可能です。
セグメンテーション手法には主に、セマンティックセグメンテーション、インスタンスセグメンテーション、パノプティックセグメンテーションの3種類があります。それぞれの特徴は以下の通りです。
SAM(Segment Anything Model )について
前述のセグメンテーション技術を用いたモデルの代表例として、Meta社(旧Facebook)が開発したSegment Anything Model(通称SAM)があります。
SAMは従来の3種類のセグメンテーションとは異なる新しい手法で、事前学習不要、点や領域指定による柔軟かつ高い操作性が特徴です。また、最新モデルのSAM2は動画対応により物体の追跡も可能になりました。
事前学習が不要
特定のデータセットによる学習を必要とせず、汎用性が高いです。データ準備やモデル構築が不要なため、従来手法より効率的にセグメンテーションモデルを導入できます。
柔軟かつ高い操作性
画像上の点や四角形を指定するだけで、物体の輪郭を自動的に抽出できます。これにより、ユーザーは以前のモデルよりも簡単かつ効率的に画像内の物体を識別できるようになりました。
物体の追跡が可能(SAM2)
SAM2は動画対応により、物体の追跡が可能になりました。対象が重なり合ったり、一時的にフレームから消えても追跡を継続できるため、スポーツの試合などにも適しています。
(実際に、SAM2を用いて機敏に動くサッカー選手を追跡している事例↓)
セグメンテーションモデルの活用事例
ここまでセグメンテーションモデルの概要やSAMについて説明してきましたが、「この技術を実際のビジネスでどう活用できるのか?」という疑問をお持ちの方も多いでしょう。
セグメンテーションモデルは単なる技術的進歩にとどまらず、様々な業界で業務プロセスの効率化やサービス自体の品質向上をもたらす可能性を秘めています。以下では、複数の業界を交えた具体的な活用事例を紹介します。
映像・写真制作の効率化
映画やCMといったビジュアルコンテンツの作成、商品写真の背景除去・置換など、クリエイティブ作業の効率化と表現の幅を大きく拡大します。
診断・研究の高度化
MRIやCTスキャンでの臓器・腫瘍の識別、X線画像からの異常検出、顕微鏡画像での細胞・分子構造の自動検出など、病院における診断支援や医療関連の研究プロセスの高度化・効率化を実現します。
自動運転技術の性能向上
道路上の車両・歩行者・障害物といった物体のリアルタイム検出、交通標識・信号の認識、道路構造の識別、路面状態の検知など、自動運転の安全性と信頼性を向上させます。
AIモデル開発プロセスの効率化
これまで人手で行っていた物体の輪郭抽出や分類といったアノテーション作業を大幅に自動化することが可能となり、特に画像系のAIモデル開発全体の高速化と、より高精度なAIモデル開発を目指すことが可能になります。
これらの事例から、セグメンテーションモデルが様々な業界の課題解決に貢献できることがお分かり頂けるかと思います。皆様の業界でも、これらの活用事例をヒントに新しいビジネスチャンスや業務改革のアイデアが生まれるかもしれません。
最後に、実際にSAMを使用したデモを紹介しますので、より具体的なイメージをつかんで頂ければと思います。
SAM,SAM2を用いたデモ
今回は、画像のセグメンテーションが可能なSAMと物体追跡が可能な最新のSAM2それぞれを用いて、以前当社のnoteで公開した記事「飲食店におけるテーブル状況のリアルタイム監視:IoTカメラと生成AIの融合」で使用した動画にセグメンテーションを適用したデモをご紹介します。
IoTカメラと生成AIを用いた弊社のソリューションでは、テキスト形式でカメラに写っている状況を説明していました。そのため、人が一目で状況を把握するのは難しかったのですが、SAMを使うことで視覚的にわかりやすい画像形式で状況を出力できるため、即時かつ直感的な状況把握が可能となります。
SAMによるセグメンテーション適用の事例
ここでは、動画から人や机といった物体が写っているフレームを選び、全ての物体の検知と人物に絞った検知をそれぞれ実施しました。SAMは公式のデモページから誰でも気軽に試すことができます。以下、SAMのデモを使ったセグメンテーションの流れを簡単に説明しますので、ぜひご自身でも手に取って試してみてください。
1.デモページにアクセスし、物体を選んでセグメンテーションを行うAdd Mask機能を選択
2.犬を選択すると、犬のみがセグメンテーションされる
3.Everythingの機能で画像内全てをセグメンテーションすることも可能
続いて実際に、弊社のデモ動画に適用した結果は以下の通りです。
画像内全ての物体にセグメンテーションを適用
人だけでなくパソコンや帽子といった細かな物体までセグメンテーションできています。
人物に絞ってセグメンテーションを適用
先ほどは画像内全てをセグメンテーションしていましたが、今回は人物に絞って検知できています。
SAM2による物体検知 & 追跡の事例
先ほどのデモの通りSAMは画像のみ対応していましたが、最新モデルのSAM2は動画にも対応しており、リアルタイムでの物体検知・追跡を行うことが可能となりました。
このデモでは人物の検知・追跡にフォーカスしていますが、SAMと同様にSAM2も公式デモページから簡単に試すことができます。ぜひこちらも体験してみてください。
人物の検知・追跡の結果
デモ動画では、席に座っている人と歩いている人をそれぞれ検知かつ追跡できている様子が確認できます。また、人物が重なった場合でも、SAM2はその背後にいる人物を見逃すことなく追跡し続けることができています。
このデモを通じて、SAM2は単に物体の検知・追跡をするだけでなく、物体が重なるといった複雑な状況においても正確に検知・追跡ができていることがお分かりいただけたかと思います。
なお、弊社作成のGemini 1.5 proを用いたIoTカメラソリューションでは、テキストによる状況説明のみでした。一方、今回のデモのようにセグメンテーションモデルを活用することで、視覚的に人物を捉え、物体の位置や形状をより直感的に把握できます。
このようなビジュアルでの検知結果により、担当者はテキストを読み解く手間なく画面上で瞬時に状況を把握でき、異常の早期発見や迅速な対応判断につながります。特に複数の監視カメラを同時に確認する必要がある場合、瞬時に把握できる視覚的な情報提示は業務効率の大幅な向上に貢献します。
おわりに
本記事では、数あるAI技術の中でも画像認識の分野で注目を集めているセグメンテーションモデルについて、その概念から最新モデルのSAMやSAM2まで幅広く解説しました。
また、クリエイティブ産業や医療、自動運転、AI開発といった様々な分野での具体的な活用事例を通じて、セグメンテーションモデルのビジネスにおける利活用可能性を紹介しました。
ただ、セグメンテーションモデルといったAI技術を実際の業務に導入し、実践的なビジネス価値にまで結びつけるには専門的な知識や経験が未だ不可欠かと思います。
弊社のAI Transformation(AX)事業部では、今回紹介したセグメンテーションモデルだけでなく、生成AIをはじめとする最新のAI技術を活用した業務効率化の支援を行っています。
お客様のビジネスニーズに最適なAIソリューションを提案・実装し、真の意味でのAI活用による業務変革(AX)の実現をサポートしておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。