誰にも気づかれない優しさの舞踏会
電車の音が耳に鳴り響く。
「間も無く高砂行きの急行が参ります。」
電子のアナウンスが知らせる。
黒毛の動物たちは綺麗に整列している。
一点老婆が見当たる。
早朝のプラットホームは普遍である。
70億以上の自我が群がる社会の垣根で
捨てられたゴミ袋が舞い上がる。
人間がもっと恐れる事は誰にも相手にされない事である。
そう聞いた事もある。
生まれてして尊厳を持って生きる事は誰しもの願いである。
車輪が軋む音が掻き消すものは私たちが見失った真実かもしれない。
暖かい介抱、嬉しさで涙する瞬間、愛でる瞳
存在とは認識された時に生まれるのか。
それとも遠い星が消滅するまでの時間を言うのか。
老婆はその背中で問う。
私たちの見えないどこかで見向きもされない優しさが舞踏会を開いている。
今夜も華やかに着飾りワルツを踊る。
誰にも見られないところで
誰にも気づかれないまま
彼らは今日も美しく生きる。