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インドカレー店を通じて見えた「国際化」のリアル
コロナ禍のある日、私は一人のネパール人料理人から「日本で飲食店を経営したい」と相談を受けた。私は行政書士として彼をサポートするつもりだったが、話を進めるうちに共同で会社を設立し、空き店舗となっていた駅前の物件を改装してインドカレー店を開くことになった。
開店当初、私はスタッフと英語で会話しようとした。しかし、すぐに気づいたのは、英語がほとんど通じないという事実だった。彼らの世代は、母国のクーデターの影響で英語教育を受けておらず、日本語の方がむしろ堪能だった。私は「外国人=英語が通じる」と当然のように思い込んでいた。しかし、それは単なる幻想にすぎなかった。目の前にいる彼らは、日本で生きていくために英語ではなく日本語を学んでいたのだ。この瞬間、私の「国際化」に対する認識が揺らぎ始めた。
店内に広がる言語の多様性と、人々の交わり
店が軌道に乗るにつれ、訪れる客層は変化していった。今では東南アジア、南米、欧米など、さまざまな国籍の人々が食事に訪れる。近くのサーキット場を目当てに来日した外国人観光客も多く、店内の雰囲気は日によって大きく変わる。
基本的に店内では英語と日本語が飛び交う。しかし、それだけではない。
スタッフ同士の会話はネパール語やヒンディー語。
お客様同士は、それぞれの母国語で談笑する。
東南アジア系のことばなど、聞き慣れない言語が店内を飛び交うこともある。
時には店内の客が全員外国人になり、日本にいることを忘れそうな感覚に襲われることもある。そして意外なことに、日本人の常連客もこの異国の空気を楽しんでいる。「ここに来ると海外に旅行した気分になる」と笑いながらカレーを食べる人もいる。
かつて私は「国際化」とは、英語を話し、外国文化を受け入れることだと思っていた。しかし、実際に目の前で起こっているのは、英語ではなく、それぞれの国の言葉が自然と混ざり合い、交差しながら成立するコミュニケーションだった。そして、日本人もその空間に違和感なく溶け込んでいる。
国際化とは何か
この店を運営する中で、「国際化」という言葉の本当の意味を考えるようになった。国際化とは、英語を学ぶことでも、外国文化を理解することでもない。それは、異なる言葉や価値観を持つ人々が、互いに交わり、影響し合いながら共に生きることではないだろうか。
私たちは長い間、「外国人=英語を話す人」「国際化=欧米化」という固定観念に縛られてきた。しかし、実際の国際化はもっと雑多で、もっと混沌としていて、もっと予測不可能なものだ。そして、それが現実としてすでに私たちの身の回りで起きている。
私はこの店の異国情緒あふれる雰囲気を、ただの「珍しさ」に終わらせたくない。この場を通じて、言葉の壁を超え、文化の違いを楽しみ、互いに学び合える場所を作っていきたいと強く思っている。
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