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11. 娘と私のパラレルワールド

先日何の話の流れからか、娘が
『親の離婚届を自分が役所に提出した話を
定期的に友人達に話していて、彼女らはいつも母親の心配をしてくれている。』と言い出した。

離婚届は私自身が出しに行ったものであるし、
当時も心身の状態が芳しくなかったので大学生の次男に付き添ってもらい、
手続きや役所からの説明で小一時間程かかって疲れてしまった覚えがあるので間違いはない。

だが娘は、それは夜で、警備員にご苦労様と声をかけられて、提出自体は一瞬だったと強く主張し、はっきり覚えているというのだ。

『まぁ親の離婚届を出すなんてヘビーな話だけどさ、別にもういいんよ、それは』と、
娘は別の話に移行しようとするのだが、
どうにも私は納得がいかない。
娘にそんな思いをさせていたのか、いやいや!させてないし、私が出しに行ったの確実だし。

しかし娘は、あの紙の質感も、夜の役所の暗さも、受付外の独特の小さな窓口も、警備員さんの言葉も、ずいぶんはっきりと覚えているようだ。
夢でもないらしい。

私が体を悪くして外に出られなくなってから
長年子供達には年齢に合わせた大小のお使いを頼んできた。
娘には高校時代に帰宅途中のデパ地下の弁当を買って来てもらったりもしていたので、離婚届も頼まれて当然という意識もあるようだ。

しかし、それにしても、だ。
ドラマでは紙をペラ〜ンと提出したらあとは
綺麗さっぱりみたいな雰囲気だが、
私は婚姻届も離婚届もひとりで提出したので、どちらもペラ〜ンでは終わらない事はよくわかっている。

どちらの記憶もハッキリしていて、話は平行線だった。
娘の方はもう別にどっちでもいいと本気で思っているようだったが、
私は最近になって聞きかじったマンデラエフェクトとかパラレルワールドとかの話を思い出し
鳥肌が立ってきて、ちょっとワクワクしてきてしまっていた。

それというのも、前日にトイレで使っている
洗剤のドメストがなくて、掃除を翌日に延期することにして娘に買って来るよう頼んだのだ。
そして新しいドメストを棚に置こうとすると、なんと、驚いたことに昨日なかったドメストがそこにあるではないか。

確かに私は勘違いが多いし、
ドメストは2〜3本あっても全然問題ない。
しかしこの時に限って言えば、前日にはそれは確かに無くて
『ドメスト、かけたかったなぁ』という強烈で
残念な気持ちが自分の中にはっきりと残っているのだ。これはパラレルシフトっていうやつか?みたいな。

そんな事があったので、
『誰が離婚届を出したか問題』はものすごく
ゾクゾクしたしワクワクした。

結局、私が娘に会社帰りに用紙を取りに行ってもらって、娘が暗い役所で警備員から離婚届を手渡され、いつもの出口ではない小さなドアから出てきて、『親の離婚届をもらうってなんだかなぁ』、って気持ちと共に帰宅した、という
ところに落ち着き、双方が納得した。

私は当時気軽にお使いを頼んだのだと思うので誰に頼んだのかをすっかり忘れていた。
次男に提出の付き添いを頼んだ事が私の中では大きな傷で、成人していたとはいえ親の離婚届提出に付き合わせるなんて酷い母親だとずっと思っていたので、用紙をもらいに行った娘にもそんな勘違いをさせるほどの重い記憶を背負わせていたのかと、改めて申し訳なく思い、
パラレルワールドのワクワク感もすっかりしぼんでしまったのだった。

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