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そこに居る老婆

私は怪談や心霊、都市伝説といったホラー・オカルトの話が好きだ。幽霊は信じているし、死後の世界だってあると思う。
体験談や怖い話を聞くと、私のような人間は怖がりのくせに「自分も不思議・ホラー体験をしてみたい」という気持ちが起こる。悲しいことに自分の人生を振り返ると、実体験と呼べるものは無い。地元で有名な心霊スポットに、昼間に何ヶ所か行ったこともあるが、当然そんな体験はできなかった。

今回の話は、そんな私が最近経験した出来事である。


仕事も休みの休日、私は友人の運転する車で出かけていた。ちょうど昼頃だったと思う。通勤で使用するのと同じ道、交差点にたまたま通りかかった。赤信号で停車し、周りの景色を眺めていた時、交差点に向かって右斜め前に建っている一軒家が目に入った。平日も見ている些細な光景だ。だが、その日はいつもと違った。

家の前には誰も居ない。だが、人が、老婆が玄関の扉の前に立っている。こっちを向いていて、私と目が合っているのだ。そこに誰も居ないことはわかっている。何も無い、家に扉があるだけだ。見間違いかと思い、目を閉じたり視線を変えたりしてもそこに老婆が居る。視覚的には見えていないけれど、頭の中に映像が入ってくる。無表情の老婆は、ただこちらを見ている。
初めての感覚に暫く混乱していたが、運転する友人を怖がらせないよう、その場では黙っている事にした。

結局、この老婆が幽霊なのか幻覚なのかは分からない。その交差点を毎日通っているが、それ以降は老婆の姿を見ることは無かった。
1つ引っかかる事がある。それは老婆の顔だ。目が合っている時、老婆の顔は知らない人だった。少なくともそう感じていた。しかし、不思議な事に再度振り返ろうとすると、老婆の顔がどこか見覚えのある顔となって思い出されるようになったのだ。


老婆が立っていた家や場所に、何かがあったのかは知る由もないが、これが私の経験した「不思議体験」である。

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