ポチェッティーノ解任は正解だったのか?
はじめに
シーズンが終わり、2年ぶりにヨーロッパコンペティションへの出場を滑り込みで決めたチェルシー。その喜びも束の間、ポチェッティーノの解任(双方合意での契約解除?)が発表された。ポチェッティーノの解任は正解だったのか、間違っていたのか。23-24シーズンを振り返りながら考えていく。
チェルシーサポーターの論調は「最終的に5連勝なのにここで解任?」、「わざわざここで切る必要があったのか」と言ったものがありつつも、大半は「戦術に限界が見えていたし妥当。」、「最後のブーストも選手個人の頑張りによるもの。」といった、なかなか厳しい意見が多く見られた。
このような意見を耳にしながら、ポチェッティーノはチェルシーで今季最も過小評価されている人物なのかもしれない(シーズン前半のカイセド以上に)と感じる。
ここでポチェッティーノについて、少し紹介しようと思う。ポチェッティーノはセインツ、スパーズ、PSG(スパーズでのCL決勝進出が最も大きな実績?)などで指揮をとってきたアルゼンチン人監督である。得意戦術は前線からのプレスを起点とした守備構築で、攻撃に関しては選手の個人クオリティに頼るところが大きい。また、若手の育成に定評がある?と言われており、気に入った主力選手のみのスモールスカッドを駆使するタイプではなく、チームに所属する選手は使い所を見極めながらなるべく全員を使っていくタイプである。よって、チームマネジメント力はなかなか高い監督だ。
話を戻すと、そのような監督が新生チェルシーの指揮を取ることになったわけだが、就任時のチェルシーサポーターの反応は全く歓迎ムードではなかった。まずスパーズを指揮していた監督という時点で評価はマイナススタート、さらに最高到達点が"スパーズ時代のCL決勝進出"であることや、攻撃面での戦術が不安視されていたこと、挙げ句の果てにはポチェッティーノ自身が「スパーズの監督をもう1回やる機会があれば、断ることはできない」とチェルシーの監督就任後に発言したことで、チェルシーサポーターからはボコボコに叩かれていた(記憶がある)。
以上のように、珍しく監督就任時から自チームのサポーターから嫌われていた監督だが、私は23-24シーズンのポチェッティーノを評価している(及第点か、それよりもう少し上)。その理由を以下でまとめていく。
評価ポイント
1.メンタリティ
メンタルの強さ、これはビッグクラブの監督を行う上で必要不可欠な要素だと思う。チェルシーは、サポーターからの評価が厳しく、少しでも結果が出なければ批判に晒される。また、前任オーナーも気が短く、他チームならまだ首の皮1枚繋がるところでも、スパッと首を切ることで有名であった。そして、後任のオーナーは現場に口を出したがる(試合前に選手のロッカールームに行き話をしたがるなど)、一方で選手の獲得、契約に口を出す監督を嫌がるといったなかなかのクセの強さを持つ人物である。その中で、ポチェッティーノは「事前に確認をとってくれれば、ロッカールームに来るのは歓迎するよ。」と快諾。いきなり世渡り上手ぶりを発揮。また、「チェルシーは常にタイトル争いをしなければいけないチームだ。今の状態に満足してはいけない。」とサポーターにもアピールした。
シーズン開始後は低調な出来が続いた。正直に言えば、怪我人が多すぎること、経験の浅い若手選手が大半を占めていること、ほとんどが在籍1〜2年目でチームメイトがお互いのプレースタイルをよくわかっていないこと、により酷いゲーム内容が続いていたが、ポチェッティーノは「とにかく時間が必要だ。」と外野の批判に対し抽象的な返しで乗り切った。ここで、チームに対して文句を言わず、選手を守ったのは解任時に選手がポチェッティーノを慕っていた理由の1つなのではないだろうか。
2.チームマネジメント力
チームマネジメント力、これが23-24のポチェッティーノを語る上で最も評価できるポイントだ。素晴らしかった。まず、ビッグクラブを指揮する上では"結果"というものが最も大事である。それを前提としてチーム作りをしていかなければならないわけだが、新生チェルシーはなかなか珍しいチーム構成になっている。
それは選手が若すぎることだ。今季主力を張った選手の多くは23歳以下(ペトロヴィッチ、バディアシル、コルウィル、チャロバー、ギャラガー、ギュスト、カイセド、エンゾ、ムドリク、ジャクソン、マドゥエケ、パーマーetc)であり、経験が浅い。そのような若いチームが、常に"結果"というものに晒されるとどうなるだろうか。向かう先は内部崩壊である。上手くいかないことに対し、プロフェッショナルなベテラン選手は自身に矢印を向けて向上を図るが、精神的に未熟な若手選手はどうしても他責志向になりがちである、とくにチェルシーにいる若手選手はスター選手という括りに入る選手も多く、"若いしプライドも高い"というパターンも多い。最も、マネジメントに手を焼くタイプである。このような環境下で、ポチェッティーノ以前の監督達はチームをコントロールすることが出来ず、制御不能になった挙句、チームが内部崩壊していったという経緯がある。ポチェッティーノは、チームが上手くいかない時に選手を責めるのではなく(シーズン序盤はその甘い姿勢をサポから批判されていたが)、なんとなく外野の批判を誤魔化しながら、成熟度を高めていった。さすがのマネジメント力だった。
3.個人の適性を理解したチーム構築
戦術面で批判されがちなポチェッティーノだが、ビルドアップを含めた攻撃構築を除けば理解できる選手起用が多かった。
まず、コルウィルのLSB起用だ。シーズン序盤から頑なにLSBに本職CBのコルウィルを起用し続けた。これには多方面から批判を食らっていたが、ポチェの判断は概ね間違っていなかった。それが明らかになったのがスタンフォードブリッジでのウルブズ戦。左からチルウェル、シウバ、ディサシ、ギュストで臨んだこの試合、チルウェルが上がり空けたスペースでチアゴ・シウバVSネトの1対1が勃発、しっかりとアジリティでボコボコにされ4失点の大敗を喫した。ポチェッティーノはシーズン序盤から、これを危惧していたのだろう。シウバの横に2-7のSBを配置することは、ネガトラ時に39歳のベテランCBを相手のアタッカーと勝負させることを意味する。シウバをコルウィルとディサシで挟むことでそのリスクを回避、(シウバがRCBを務める試合は例外なくRSBをディサシが務めていたことが何よりもの証拠だろう)、判断は間違っていなかった。
マートセンのWB、2列目起用も同様。フィジカルで大きく劣るマートセンを最終ラインで使う選択肢を早々に除外、ライン間での仕事やプレスバックしての守備を評価し2列目での起用(カラバオカップやPLのパレス戦)や、試合終盤の守備固め(5バック要員)で起用を続けた。シーズン後半からローンでドルトムントへ移籍し大活躍を見せており、「ポチェッティーノはなぜLSBで使わなかったのか」という批判の意見があるが、ポチェッティーノの判断はマートセンを狙い撃ちされ続け、殴られ続ける展開の回避だったのだろう。
その他にも、ジャクソンのLWG起用、ククレジャの偽SBなど選手の特徴を理解した、面白い采配も多く、怪我人続出のシーズンをうまく潜り抜けた。
さいごに
上記の通り、以上のような点が評価できる。その上で、昨季残留争いに巻き込まれる寸前だった内部崩壊チームを1から作り直し、目標であったヨーロッパコンペティション出場権という目に見える結果も残したポチェッティーノは評価に値すると考える。
少なくとも最近監督を務めたトゥヘル、ポッター、ランパードにはできなかった所業だ。(モウリーニョ、サッリとかも絶対無理)
ところが、シーズン終了後にチェルシーはポチェッティーノと違う道を歩むことを公式発表。後任の発表が待たれる状態となっている(マレスカ就任が濃厚)。ポチェッティーノの契約解除という判断は正しかったのか、間違っていたのか、この判断は現時点ではわかりかねる部分が多い。そもそも、契約解除の経緯がポチェッティーノの戦術面にあるのか、それとも選手獲得に口出しをしたからなのか、はたまたギャラガー、チャロバーを売却しながらも「来季はもっと上を目指してくれ」というフロントの姿勢をポチェッティーノが嫌がったパターンも考えられる。つまり、我々はポチェッティーノと違う道を歩むことをただただ受け入れるしかない。
ちなみに、フロントは23年夏から大きな間違いを犯してないという点は信用できる。(当時は批判されたマウント、ハヴァーツ放出、監督にポチェッティーノを指名、ギュスト、パーマー、ジャクソン、ペトロヴィッチの獲得etc)。この点から、ポチェッティーノ契約解除という選択は間違っていなかったと信じたい。確かに、考えられるケースとして"ギャラガーを失ったチェルシーが、来季も大量の怪我人を出し、ビルドアップもままならないまま殴り合いの試合も殴り勝てなくなりシーズン途中にポチェッティーノ解任"ということもある為、ビルドアップから攻撃を仕込める監督を早めに連れてくるという判断もありだとは思う。ただ、後任には若い監督を連れて来たいという報道(真偽は不明)が出ていることで、だったらポチェッティーノで良かったんじゃね?と思っている現状である。(後任はマレスカが濃厚)