ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで、実は小説版を読みはじめて今二周目です。何か複線を見落としていないか、等々。
タイトルは人物考察にしているので人物考察をしますと、主人公の三森灯河は強いパトスを持っていて分かりやすい。謎めいた美少女のような高雄聖も意外と分かりやすい。女神ヴィシスはもちろん、反社会的な小山田翔吾も分かりやすい。頭おかしいんじゃないかとしか思えない桐原拓斗でさえ、行動原理と結果を見れば大変筋が通ってる。分からないのは戦場浅葱。この子は全く分からない。
父親を自殺させたというのだから、まぁ普通の子じゃない。とりあえず桐原拓斗の宣戦布告文から。
太字部分の記述により、主人公は桐原拓斗が自分の正体を知っていること、そして桐原が状態異常スキルに対する対抗手段を持ってることを知るんですが、それはこのレポートの本筋ではありません。面白いのはこの後の軍議。
彼女独特の物言いに幻惑されるんですが、この辺りはある意味薄まったフーコーの「狂気の誕生」で現代人の人口に膾炙した内容ではあります。当然彼女は桐原を厄介だと思っているし、自分の使命にとって障害だと正しく理解している。ただ、彼を狂気と断じて人間の範疇から放逐する思考は人を理解する上でノイズになるから受け入れない。そのため違和感を持ち、あえて違和感を口にする。彼女は理解しても理解の対象にあえてデタッチメントを行使し寄り添わない。言うなれば感情を漂わせている。「漂いたい」がまず彼女の意識であるように見える。それが彼女を分かりにくい存在にし、他者の理解を徹底的に拒む要因となっている。まぁ、拒んでいるんでしょう。理解を徹底的に拒む、これが戦場浅葱の本質であり対人戦略であると読むなら解けることもいくつかある。
鹿嶋小鳩がベルゼギアの正体を三森灯河だと知っていたこと、これが判明した時の戦場浅葱の反応がこれ。自分については他者の理解を拒み、自分は他者を理解する。理解したら寄り添わずに「バカでどんくさい」とあえて悪罵を投げることで突き放す。しかし、この理解にズレや破綻が生じた瞬間、戦場浅葱は牙を剥く。対人戦略の土台が崩れるからなのでしょう。
ここでもう一度桐原拓斗。彼はセラスと灯河を相手に緊迫した戦闘をしながら、
と言う。彼の想像を超えて身勝手な思考回路にひどく動揺するセラス。しかし動揺するセラスに灯河は声をかける。
理解しなければならない。人に寄り添わなければならない。これは善人が絡め取られやすい呪縛であり、人生最大の罠です。恐らくこの物語の隠れたテーマは理解。
そして高雄聖のこの台詞
ライ麦畑のつかまえ役、これは攻殻機動隊SACの笑い男編のモチーフでもありましたね。そして11巻。桐原戦終了後、仮面を脱いだ灯河と対面する戦場浅葱。
字面を見るなら彼女のゲームは丸々、ライ麦畑のつかまえ役を全うすること。
そしてここも重要。他者への理解力という点において戦場浅葱は聖を上回る、灯河はそう理解しました。そしてヤマ場、
ここで戦場浅葱のパトスがまた顔を出します。そしてまた鹿嶋小鳩の言葉から。
ここでまた顔を出す浅葱のパトス。自分の実行力の限りでゲームとしてライ麦畑のつかまえ役を演じるスタンスに見える浅葱。ところが彼女のゲームの中には悪ふざけでは覆い隠せない彼女のパトスが隠れている。庇護者としての鹿嶋小鳩への自分の排他性。つまり鹿嶋小鳩に対してだけは戦場浅葱はかなり本気でライ麦畑のつかまえ役をやろうとしている。だから浅葱の庇護の傘を離れたかのような行動をした鹿嶋小鳩に死ねと言い、灯河に利用されることを良しとする鹿嶋小鳩には、足を爪先で蹴るという彼女にしてはクールではない対応までしてしまう。
ここで灯河は、これだけ分かりづらい戦場浅葱が自陣営を裏切らないだろうという心証を得たわけです。
僕がこの浅葱の言葉から読み取るのは、灯河への浅葱のライバル心。聖はこれを本心と判定し、灯河に一目置いているという一点において裏切りの可能性が薄まったという心証に傾いたようですが、鹿嶋小鳩へのパトスを考えると、浅葱は灯火を少なからず鬱陶しく思っていそう。その意味では何かもうひとヤマ浅葱絡みで起こってもおかしくない。僕はそう思っています。
切れ者灯河も聖も、浅葱の言葉に頭を撹乱されています。しかし僕はここまでの流れで、浅葱は特別な感情を持った鹿嶋小鳩を生かして返すことをミッションに据えたと見ました。女神陣営では鹿嶋小鳩は生き残れない。だから浅葱はミラに荷担するという大博打を打った。そう理解しました。つまり鹿嶋小鳩の側から浅葱は離れることはない。
さて、この答え合わせは小説13巻以降になるでしょう。しかし戦場浅葱については一冊別の物語を書いてほしい、そのくらいには気になるキャラクターです。決着が待ち遠しい!
以上くろがね阿礼でした。