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ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまでの人物考察

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで、実は小説版を読みはじめて今二周目です。何か複線を見落としていないか、等々。

タイトルは人物考察にしているので人物考察をしますと、主人公の三森灯河は強いパトスを持っていて分かりやすい。謎めいた美少女のような高雄聖も意外と分かりやすい。女神ヴィシスはもちろん、反社会的な小山田翔吾も分かりやすい。頭おかしいんじゃないかとしか思えない桐原拓斗でさえ、行動原理と結果を見れば大変筋が通ってる。分からないのは戦場浅葱。この子は全く分からない。

父親を自殺させたというのだから、まぁ普通の子じゃない。とりあえず桐原拓斗の宣戦布告文から。

大魔帝はこのオレが討ち取った。そしてオレは新たなるスキルにより、金眼どもを従える力を手に入れた。魔族や魔物といった大魔帝の下僕たちは今、このオレに従属している。 いや、今や人面種すらこのオレの従属下にある。 現在、オレは魔群帯の魔物を下僕としてオレの軍勢に取り込みながら、魔群帯を突き進み、愚かな戦争を始めたミラ帝国を目指している。 オレの王威を示すために、まずはミラを滅ぼすこととする。 だが、慈悲がなくはない。以下の条件を満たせば全面降伏を認め、真の王の支配下とする。 一つは、ミラが迎え入れた蠅王ノ戦団の蠅王を拘束し、このオレに引き渡すこと。 それは、完全な捕縛でなくてはならない。 もう一つは、セラス・アシュレインが間違いを認め、蠅王ノ戦団と完全に決別し、このオレに永遠の忠誠を誓うこと。 こちらは簡単すぎる。 ただ、返してもらうだけの話だからな。 元の鞘に納まる、というだけの話でしかない。 以上の条件が達成された事実をオレが確認できない限り、人面種どもを筆頭に、オレはオレの軍によるミラへの侵攻を継続せざるをえない。圧倒的にだ。 当然のように、期限も設ける。真の王ならいつまでも待つのだと、大間違いに思われてはならない。 引き渡し場所は、オレさえ納得すればおまえたちが指定した場所でも許しを与える。 あえて断っておいてやるが、愚かなことは考えるな。 約束を違え、もしオレを出し抜こうとすれば、おまえたちは真のキリハラを知ることになる。 浅はかな愚行の先にあるのは、強力無比な後悔でしかない。 後悔したくなければ……命が惜しければ、救われたければ――この寛容と譲歩のかたまりでしかない完全なる王命に、従うしかない。今やオレは、事実、神にすら等しい存在となった。 わかるやつにはわかる。 オレはおまえを、許さない。 分不相応は正されなくてはならない。オレがこの世界を正す。 すべてを、正しき姿へ。

新たなる北の地の王 桐原拓斗

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 10 (オーバーラップ文庫)

太字部分の記述により、主人公は桐原拓斗が自分の正体を知っていること、そして桐原が状態異常スキルに対する対抗手段を持ってることを知るんですが、それはこのレポートの本筋ではありません。面白いのはこの後の軍議。

ルハイトが言う。 「彼は正気を失っていると、我々は仮定しています」

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 10 (オーバーラップ文庫)

「正気と狂気の境なんて誰が決めるんすかって気もしますがにゃ。正気を失っているととか言っとけば、自動的に無意識で納得してメンタル自己防衛完了するのが、自称〝まとも〟さんたちのいつものやり口ですからのぅ。まーいいや」

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 10 (オーバーラップ文庫)

彼女独特の物言いに幻惑されるんですが、この辺りはある意味薄まったフーコーの「狂気の誕生」で現代人の人口に膾炙した内容ではあります。当然彼女は桐原を厄介だと思っているし、自分の使命にとって障害だと正しく理解している。ただ、彼を狂気と断じて人間の範疇から放逐する思考は人を理解する上でノイズになるから受け入れない。そのため違和感を持ち、あえて違和感を口にする。彼女は理解しても理解の対象にあえてデタッチメントを行使し寄り添わない。言うなれば感情を漂わせている。「漂いたい」がまず彼女の意識であるように見える。それが彼女を分かりにくい存在にし、他者の理解を徹底的に拒む要因となっている。まぁ、拒んでいるんでしょう。理解を徹底的に拒む、これが戦場浅葱の本質であり対人戦略であると読むなら解けることもいくつかある。

「だめだよ、小鳩ちゃん……小鳩は……バカでどんくさいポッポちゃんだろー? それは違うよねー? 違うんだよなぁ……それじゃあ」

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 10 (オーバーラップ文庫)

鹿嶋小鳩がベルゼギアの正体を三森灯河だと知っていたこと、これが判明した時の戦場浅葱の反応がこれ。自分については他者の理解を拒み、自分は他者を理解する。理解したら寄り添わずに「バカでどんくさい」とあえて悪罵を投げることで突き放す。しかし、この理解にズレや破綻が生じた瞬間、戦場浅葱は牙を剥く。対人戦略の土台が崩れるからなのでしょう。

ここでもう一度桐原拓斗。彼はセラスと灯河を相手に緊迫した戦闘をしながら、

「今、このオレが救ってやる……もう安心していいぜ、セラス・アシュレイン。オレはおまえを救いにきてやったにすぎない……真の王が、来たらしい」

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 10 (オーバーラップ文庫)

と言う。彼の想像を超えて身勝手な思考回路にひどく動揺するセラス。しかし動揺するセラスに灯河は声をかける。

「セラス、桐原の言葉にはまともに耳を貸すな。相手をとりあえず理解しようとするのはおまえの長所だが、同時に悪い癖だ――吞まれるぞ」

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 10 (オーバーラップ文庫)

理解しなければならない。人に寄り添わなければならない。これは善人が絡め取られやすい呪縛であり、人生最大の罠です。恐らくこの物語の隠れたテーマは理解

そして高雄聖のこの台詞

「私は、純粋さ自体はとても尊いものだと思うわ」 聖は十河に視線を置いたまま、その目にどこか儚げな色を浮かべた。 「ただ、純粋さを保ったまま生きるには周りの誰かが〝ライ麦畑のつかまえ役〟になる必要がある。これは私の自己解釈かつ、持論だけれど」

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 10 (オーバーラップ文庫)

ライ麦畑のつかまえ役、これは攻殻機動隊SACの笑い男編のモチーフでもありましたね。そして11巻。桐原戦終了後、仮面を脱いだ灯河と対面する戦場浅葱。

「あたしのミッションはまず、浅葱グループが全員無事な状態でこの異世界勇者物語を終わらせることなのよ。そして、浅葱グループのみんなを元の世界に帰してあげることなのじゃ。まー、浅葱さん個人としては帰還するかどうかはどっちでもよいんじゃがねぇ」

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 11 (オーバーラップ文庫)

字面を見るなら彼女のゲームは丸々、ライ麦畑のつかまえ役を全うすること。

「ただ、なんか執念みたいなのはすっげぇ感じるよね。目的は知らんけど。あれが、女神ちんの強さの秘訣なのではなかろーか?」 言い方は違うが、聖の見立ても今の分析に近い。 が、浅葱の方が言語化の解像度は高い印象がある。

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 11 (オーバーラップ文庫)

そしてここも重要。他者への理解力という点において戦場浅葱は聖を上回る、灯河はそう理解しました。そしてヤマ場、

「もう、ポッポちゃんってば~。チミの伝え方が悪かったせいで話がややこしくなっちゃったじゃないかよ~。ていうか……ポッポちゃんの言い方に浅葱さんが信用できないよぅってニュアンスが漂ってたから、こんな魔女裁判みたいな展開になっちまったんでないかい?」
「え? あ……ご、ごめん……」
「小鳩」
「……う、ん」
「信用してもらわないと本気で困るんだが?」
「そ――そういうわけじゃ……ごめん、なさい」
「死ね」
「……えっ?」
「え?」
「あ、えっと……」
俺は、そこで口を挟んだ。
「いや、いくらなんでもそこでいきなり死ねはないだろ」

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 11 (オーバーラップ文庫)

ここで戦場浅葱のパトスがまた顔を出します。そしてまた鹿嶋小鳩の言葉から。

「使われる、ってことは……わたしには利用価値がある――価値がある、ってことだよね? 三森君が……わたしに価値があると思ってくれたって、ことだか――痛ッ!? いッ……え? 浅葱……さん?」
今、浅葱が鹿島の足――弁慶の泣きどころをつま先で、蹴った。
「――ありゃ? あはは、ごめんよー小鳩ちゃん。悪気はまったくないのよ」
……なんだ? 一瞬だが、今の浅葱……。 素で――自分のした行動に、自分で驚いたみたいな。

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 11 (オーバーラップ文庫)

ここでまた顔を出す浅葱のパトス。自分の実行力の限りでゲームとしてライ麦畑のつかまえ役を演じるスタンスに見える浅葱。ところが彼女のゲームの中には悪ふざけでは覆い隠せない彼女のパトスが隠れている。庇護者としての鹿嶋小鳩への自分の排他性。つまり鹿嶋小鳩に対してだけは戦場浅葱はかなり本気でライ麦畑のつかまえ役をやろうとしている。だから浅葱の庇護の傘を離れたかのような行動をした鹿嶋小鳩に死ねと言い、灯河に利用されることを良しとする鹿嶋小鳩には、足を爪先で蹴るという彼女にしてはクールではない対応までしてしまう。

ここで灯河は、これだけ分かりづらい戦場浅葱が自陣営を裏切らないだろうという心証を得たわけです。

「でかいよ、三森君」
「……」
「君がひっかき回して、これまで女神の思惑をどんどん踏み潰していった事実と……桐原君と綾香を押しつけられて、こういう決着にした事実……そうだね、変化する戦局への対応もお見事だったと言える。そして何より、ポッポが暴露するまであたしに正体を看破されなかったのは――でかい」
浅葱が一度、背中越しに振り向いた。 そして頰の近くに右手を持ってきて、指を、三本立てる。
「この三つの〝結果〟があったからこそ、今、あたしはこっち陣営を改めて勝ち馬認定している」

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 11 (オーバーラップ文庫)

僕がこの浅葱の言葉から読み取るのは、灯河への浅葱のライバル心。聖はこれを本心と判定し、灯河に一目置いているという一点において裏切りの可能性が薄まったという心証に傾いたようですが、鹿嶋小鳩へのパトスを考えると、浅葱は灯火を少なからず鬱陶しく思っていそう。その意味では何かもうひとヤマ浅葱絡みで起こってもおかしくない。僕はそう思っています。

「ん? ああ……実は、俺も上手く言語化できてないんだが……あいつは、女神陣営につくってゲームもできた気がするんだ。ミッション設定前に、な。しかし浅葱はああいうミッションを設定した……なんというか……帰還する方に、傾いてるような気もしてな」
「けれど彼女は、帰還の方についてはどちらでもいいと言ったわ。そして、それは真実だった」
「……そう、なんだよな」
そこで気になるのが……あの、鹿島の足を蹴った時の反応……。 あれは――無意識が起こした行動だったのではないか?
「たとえば、そう……浅葱も自覚していない無意識が、ミッションの設定に働いていたとしたら……」

ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 11 (オーバーラップ文庫)

切れ者灯河も聖も、浅葱の言葉に頭を撹乱されています。しかし僕はここまでの流れで、浅葱は特別な感情を持った鹿嶋小鳩を生かして返すことをミッションに据えたと見ました。女神陣営では鹿嶋小鳩は生き残れない。だから浅葱はミラに荷担するという大博打を打った。そう理解しました。つまり鹿嶋小鳩の側から浅葱は離れることはない。

さて、この答え合わせは小説13巻以降になるでしょう。しかし戦場浅葱については一冊別の物語を書いてほしい、そのくらいには気になるキャラクターです。決着が待ち遠しい!

以上くろがね阿礼でした。

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