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DAMNATIO MEMORIAE

ローマ帝国フラヴィウス朝の三代目皇帝ドミティアヌスは誠に評判の悪い皇帝でしたけど、塩婆こと塩野七生さんは大著ローマ人の物語で彼の業績に光を与えました。ダムナティオメモリアエとは記憶抹殺刑と言いますが、これは元老院が皇帝に科する刑で、皇帝の名の下で達成されたあらゆる業績が記憶から消されるという刑です。ドミティアヌス帝の業績は文字通り記憶から消されました。ちなみにドミティアヌス帝の業績とはリメスゲルマニクス。ゲルマン防壁というもので、ゲルマン人の南下を抑えるための防衛線を築くという、もちろん素晴らしい業績でした。これがドミティアヌの業績として知られているのは歴史家の功績です。異民族防壁構築にはコストがかかりますよね、かつローマにとって遠いゲルマンの地に防壁を築いて我々に何のトクがと、なかなか一枚岩になりにくい政治的イシューでもあり、さらにドミティアヌス帝の対元老院の進め方もかなり強引だったという事情もあって記憶抹殺刑という不幸な結末を迎えました。

ちなみにドミティアヌスの後の五賢帝時代、テルマエロマエで有名なハドリアヌス帝も、死後ダムナティオメモリアエになりそうになりそうなところを後継者アントニウスに救われました。アントニウスは元老院議員だったんですが、記憶抹殺する気満々だった元老院からアントニウス・ピウス、つまり慈悲深いアントニウスという実に皮肉に満ちた称号を与えられました。アントニウス、泥をかぶって男になったというところ。

もはやAV業界では多くの方が言及することのない稲井大輝さん、僕は2016年にライターデビュー、稲井さんは2017年にご活躍だったカリスマ東大生でしたからまさに同時代人、お会いしたかったなという気持ちも少しありますが、あの頃の彼は本当に寵児でした。ただ、

https://friday.kodansha.co.jp/article/93486

こういうのがニュースになってしまうと、何せ女性も多く働いている、ハードな作品のテロップにわざわざ我々業界は犯罪を奨励するものではありませんと書いてアピールしている業界的にはコミットするのはほぼ不可能というもの。彼と懇意だった業界人にはなかなか辛いところだろうなと、面識の全くない僕は思います。まさに業界的にはダムナティオメモリアエ状態なのが今の稲井さんです。

ところがその稲井さんにまさかまさかのヤングマガジンが塩婆よろしく光を当てることになるとは。つい最近連載三回目が公開されたレモンエロウという、AVを禁止された世界でAVを守る主人公が活躍する作品の、まさにその主人公の名前が稲井さん。下の名前が大輝なのかどうかは忘れてしまいましたが、作者の古町先生はきっと稲井さんが元気だった2017年頃のAVシーンを見てこられた方なんだろうなとくろがねは想像力を逞しくします。一度お話する機会とかあったら嬉しいですね。

このお話にオチはありません。レモンエロウ、どんな作品になっていくか楽しみです。今ヤングマガジンで一番注目しています。もちろんセンゴクよりも、アルキメデスの大戦よりも。

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