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月が導く異世界道中 考察02

月が導く異世界道中、今日は神のお話。いわゆる異世界転生(転位)モノライトノベルでは定番の神様たち。彼らはかーなーり理不尽な存在です。僕にとってお馴染みの作品からご紹介すると、このすばの女神アクアなんてかなり酷いし、とんでもスキルで異世界放浪メシに出てくるお供え物目当ての神様ズとかも大概です。最近アニメ化された「ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで」も鬼畜でした。月が導く異世界道中もそういう系列の神観にしっかり位置付けられる物語です。

ところが神の理不尽さなんて今さら言うまでもない、というか旧約聖書が理不尽な唯一神をさんざっぱら描いてきたうえ、この神の栄光に呑まれて行く哀れな人間たちを描いてきた作品の始まりだったりします。この西アジア、北アフリカ生まれの旧約聖書と新約聖書の思想の総本山として振る舞ってる西欧文明がアメリカの原理主義的なプロテスタント分派を生み出したわけですが、多分神というのは理不尽、鬼畜そのものの存在というのが正しく、この神との付き合い方というのは神学的に開かれた問題なのかも。

天界から神を引きずり下ろすカズマ、神様ズとゆるーくお付き合いするムコーダなんてのがいるのであれば、神の打倒を目論む深澄真の立場も一つのありかたなのですね。

神と言えば対になるのは悪魔なんて言われていますが、ラノベ作品であまり悪魔を扱った作品はありません。ツキミチにも悪魔は出てきませんね。悪魔の問題にかなり踏み込んでいるのはこのすばのバニルでしょう。

このバニルのキャラクター造形がなかなかのもので、小綺麗で一見人に好感を持たれる外見、神が現世に介入しないという制約の隙間で超自然的な力を駆使して人に世俗的な恩恵を与え、自分の目的のために人を操る。コメディリリーフのバニルのありかたこそが実は正統派のザ・悪魔のありかたなんですが、暁なつめさんはこのキャラクターをどこから着想したのか興味が尽きません。

「さて、神が隣にいるにも拘わらず、神頼みすら出来ない憐れな男よ。貴様が知りたいのは、あの鎧娘の借金の経緯だったな? 」

このすば12巻のバニルの台詞です。これこそが悪魔のありかたなのです。

最後に、脱線ついでにツキミチとこのすばの際立った違いのお話をします。

ツキミチの神観はかなり独特で、このすばのように悪魔が出て来ない代わりに、原初の世界である地球が神の恩恵の届かない世界であるという設定で、キリスト教神学の難問である「神の沈黙」というトピックを軽やかに回答しています。この対比で、神が沈黙しない煩わしい世界における主人公の困難という壮大なストーリーを転がせていますね。

「お前は〝絶対のルール〟じゃない。嘘を言ってる。何が神だ、この歪んだ世界でさえ、全部を思い通りに出来ない欠陥品のくせに!」

すごい台詞です。シビれますね。キリスト教神学をちょっとかじった僕には、真くん、神なんて部活の先輩みたいな理不尽なものだよ、という思いもありますが、それでもこういう魂のこもった反抗は嫌いじゃありません。

一方で、真くんの配下の森鬼たちの看板娘がアクア&エリスという名前だったり、これはオマージュ?という部分もチラホラありますが、ラノベ界で育まれたツキミチの独特の神学がどう展開していくか、とても楽しみです。

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