獣医×経営の二刀流に、テクノロジーを掛け合わせて......アジアで叶える、世界水準のヘルス&ペットテック
「ペットは大切な家族」。そう考える人が増える一方で、獣医療の現場には課題が山積しています。医療の質の向上、獣医師不足、デジタル化の遅れ......。そうした課題に真正面から立ち向かい、ペットとオーナーの幸せな未来を実現しようとしているのが、日本とアジア諸国で事業を展開するA'ALDA Ltd.(以下、アルダ)です。
アルダで、DCC動物病院グループ総院長とCBO(チーフ・ビジネス・オフィサー)を務める渡利真也。東京大学獣医学専修を卒業後、高度医療専門病院の勤務を経て、アメリカでは2つの大学に留学し研鑽を積みました。その後、ボストン・コンサルティング・グループでコンサルタントとしてのキャリアも重ねた異色の人材です。
その後、動物病院グループを運営する企業の代表取締役として11の動物病院のM&Aとマネジメントに携わるなど、獣医療とビジネスの両面で豊富な経験を持った彼が、次なるステージに選んだのがアルダでした。
「アジアの獣医療をグローバルスタンダードに押し上げたい」という思いを胸に、2023年10月にアルダに参画。獣医学の専門知識と経営のスキルを融合させ、そこにテクノロジーを掛け合わせた、“新しい形の獣医療サービス”の実現に挑んでいます。
「世界中の動物に笑顔を届けるために、獣医×経営者の二刀流で最大限貢献したい」と渡利は語ります。彼のこれまでの歩み、そしてアルダの展望について聞きました。
“医療一家”から獣医師の道へ。決めていたアメリカ留学
我が家は両親や姉が製薬会社に勤めていることもあって、医療の道には元々興味がありました。ただ、私が獣医師を目指したのは、ほんの些細なきっかけで、佐々木倫子さんの漫画『動物のお医者さん』を読んだことです。獣医師を目指す学生の日常を描いた作品ですが、それで獣医師という職業を知ったんです。
進路を考えたときに、僕は「人」が好きであるという根本を見つめたのですが、さらに考えを深めてみると、「動物たちと触れ合っている人々の幸せそうな姿」が浮かびました。動物を通じて、彼らのような人を幸せにできる職業は素晴らしいな、と獣医師を選んだのだと思います。家族の期待にまっすぐ応えたくない、少しのひねくれもあったかもしれませんが(笑)。
ただ、医師と獣医師の違いについて、私の向き合い方はあまり変わりません。獣医師は小児科医に近いと考えています。コミュニケーションを取る相手と実際に診る対象が異なるという点が大きいですね。双方ともコミュニケーションしながら治療を施し、人を笑顔にできるという観点では通じるところがあると思っています。
東京大学で獣医学を修めた後、鶴見緑地動物病院を経て、大阪のネオベッツVRセンターという高度医療を行なう二次診療病院に勤めました。ここで獣医師としての基礎を叩き込んでいただきましたね。心構えからはじまり、診断のプロセス、高度医療におけるより厳しい治療への向き合い方など、全てを学ばせてもらった次第です。
特に良かったのは「病院の立ち上げ」を経験できたこと。大学時代からグループ病院経営という夢を持っていましたが、ネオベッツVRセンターは新規に立ち上げられた病院だったんです。獣医師1年目でありながら、新病院のオペレーション確立と改善、マネジメントについても多くを学びました。現在の経営という観点にもつながっていますね。
また、獣医師4年目で得た留学の機会も私の人生において極めて大きな経験になりましたね。入職時から留学の意思があることを公言していたのもあり、多くの先生方からサポートをいただきました。周囲に夢を伝えておくことは大切だな、と身にしみたものです。海外から著名な先生方が招聘されたときのアテンド役を進んで引き受ける中で、留学に必要な推薦状を記してもらえるような関係が生まれ、最終的にミシガン州立大学の外科フェローという狭き門のポジションを獲得しました。
留学先をアメリカにした理由は、アメリカが高度医療の最先端を発信し続けていたからです。未だに状況は変わりませんが、ロジカルな積み上げで最先端技術を作る発信地で、私自身も経験を積みたかったんです。後にもつながりますが、当時に築いた人のつながりは、現在でも大きな資産となって生きています。例えば、現在はアルダのグループ病院となった松原動物病院の経営陣とは、ネオベッツVRセンター時代からのつながりが続いています。
アメリカでの「医師 ✕ MBA」の二刀流人材との出会いが転機に
アメリカ留学で最も印象的だったのは、臨床教育システムが非常にシステマチックに組み立てられていたこと。日本の臨床ローテーションには「単位を取るため」という形式的な側面がありますが、アメリカは全く異なります。
アメリカでは4年間の学部教育の後、さらに4年間のプロフェッショナルスクールで獣医学を学びます。計8年間という教育過程だからこそ、学生はいやでも真剣に勉学に向き合う状態になり、教える側も本気で評価と教育に取り組んでいます。これは互いを評価し合う仕組みがあるため、教授陣も真摯な指導が求められるのです。
また、学生の質の高さにも驚かされました。向こうの学生のレベルは、日本でいえば獣医師として“現場で”3年目程度の知識を築き上げたレベル。そんな優秀な子たちがゴロゴロと存在し、彼らが臨床実習に挑んでくるのです。
臨床現場に立っていた自分でも知らないようなことを簡単に答える学生の姿を見て、システマチックな教育と評価の仕組みがあるからこそ可能なのだと実感しました。こういった最先端の技術と教育システムを学び、日本へフィードバックすることが私の留学の目的の一つでもあったので、とても良い経験になりました。
もう一つ、留学中に大きな転機に巡り会いました。自分の獣医師としての「適性」について考えるようになったんです。
この考えに至った背景には、MBAを持つ医師たちと出会ったことがあります。ミシガン州立大学の後にカリフォルニア大学へ移ったのですが、周囲の医師にMBA修了者が多く、医療分野でそのようなキャリアがあるなら、獣医学にも同様のニーズがあるはずだと考えました。
専門医の道を突き進むべきか、それとも経営を学ぶ新しい道に進むべきか。このまま臨床一筋で進むよりも、旧来的な業界を変えていくことや、マネジメントと臨床を掛け合わせて新しいことをする方が自分に向いているのではないかと思いはじめたのです。考えた末に、コンサルティング業界へ進もうと心に決めました。
BCG初の"獣医/コンサルタント”に──そして、経営者の道へ
面接に向けて、2〜3ヶ月ほど集中的に準備しましたね。フェルミ推定などのコンサルティング特有の問題解決手法を勉強し、模擬面接も重ねました。結果、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の日本オフィスで採用され、日本へ帰国。当時は「グローバルでも初の獣医師兼コンサルタント」だったと聞いています。
BCGでは主に2つのことを学びました。一つは経営の基礎、もう一つは論理的思考力です。獣医学だけでは学べない事業としての視点、例えば事業環境の分析や各事業の強み・弱みの把握など、経営の考え方を基礎から叩き込まれました。さらに、IT、自動車、ヘルスケア、製薬会社など、獣医学とは全く関係のない業界の仕組みも学ぶことができました。
BCGで3年ほど過ごすと、コンサルタントとしての提案はできても、それを自分自身で実現できないというもどかしさを感じるようになりました。そこで、改めて自ら経営に携わりたいと思うようになったのですが、ゼロから立ち上げるには資本的な問題も避けられません。そんな時、BCGの元同僚から「ヤマトキャピタルグループ(現YCP Holdings)」という会社を紹介されました。
YCPもマネジメントコンサルティングファームではあるのですが、自ら多角的な事業運営にも乗り出しており、その一環でペット事業を立ち上げ、動物病院の事業承継を始めようとしていたところでした。このプロジェクトに参加することなり、獣医学の知識と経営のスキルを掛け合わせて実際のビジネスに携わる最初の機会を得たんです。
当初は小規模な動物病院の経営からスタートしましたが、少しずつ病院数が増えていき、私はライフメイト動物病院グループの代表取締役として11病院のM&Aとマネジメントに携わりつつ、グループ統括獣医師として臨床に従事するようになりました。
「もし、イメージを払拭できたら、日本の獣医療を一つ変えた証左だ」
ライフメイト動物病院グループは成長を続けていましたが、親会社のYCPが株式上場することになり、状況が変わってきました。意思決定プロセスが重厚になるなど、従来のようなスピード感を持って事業に当たれないもどかしさを覚えはじめたんです。信頼して任せられるメンバーも増えてきたので、私はネクストステップへ進もうと決めました。
次のステージを考えるなかで、選んだのがアルダです。アルダの魅力は、グローバル展開とイノベーションへの取り組みでした。私自身、アメリカ留学時代からグローバルに病院経営をしたいという思いを持っていました。しかし、動物病院事業はローカライズが強く、多国籍企業であるYCPであっても踏み出しにくい領域だったんです。
そんな中、アルダはスタートアップながら、すでにグローバル展開をはじめていました。その実行力に驚くとともに、経営陣にも知り合いもいたことから、私が望んだ「スピード感を持って様々なことができる環境」だと感じました。
また、動物病院のグループ化を進める上で重要なのはイノベーション、特にテクノロジーの部分だと考えていました。アルダは自社開発でそれを実現できる唯一の会社だと思い、私が加わることで何か面白い化学反応が起こせるのではないか、とワクワクしたんです。
こうして、DCC動物病院グループの総院長(※後にチーフ・ビジネス・オフィサーも兼務)としてアルダにジョインしました。
ただ、一つ懸念があったとすれば・・・本間獣医科医院という病院グループが、私たちにグループインしていたことです。
同グループは業界内では賛否両論ある経営スタイルだったこともあり、実際に知り合いの獣医師からも心配を寄せられたり、私自身も不安を抱いたりしながら、初日に臨んだのを覚えています。
ただ、ジョインする前からアルダのゼネラルマネージャーである中村篤史獣医師とは定期的にディスカッションを重ね、本間獣医科医院グループの改革についての方針に共感できる部分が多いことは確認できていたんです。「もし、私たちDCCへのグループインによってこれまでのイメージを払拭できたら、まさに日本の獣医療を一つ変えた証左になる」と。
実際に入ってみると、外から見ていた印象とは全く異なる情景が広がっていました。私は早速、すべての拠点の院長と対話を組みました。ちょうど人事制度改革を伝えるタイミングでもあったのですが、それを機に全院長と本音で話し合える関係性を結びたかったのも大きいです。
いざ話してみると、「やすやすと噂を信じてはいけないな」と自戒しましたね。各院長や医師たちはとてもポジティブで、変化へのモチベーションも非常に高かった。電子カルテ「アルダ Vet360」といった独自のアセットも使いながら、実際に変わっていく最中だったのです。
中村先生たちが地ならしをしてくださったところに、私はこの変化のスピードを一気に加速させる役目なのだと再認識しましたね。アルダが経営を引き継いで半年ほど経った時点で多くの改善がなされていましたが、さらなる変革への期待も大きかった。
私は、コンサルタント時代の経験を活かし、すぐに行動に移しました。Excelでのタスク管理、ウェブサイトのワイヤーフレーム作成、さらには外科技術の向上や教育プラットフォームの設計など、あらゆる面で自ら手を動かしました。優秀な企画スタッフとの連携も進め、改革のスピードを加速させていくことで、改善が目に見える形で進んでいったのです。
アルダならアジアNo.1のヘルステック・ペットテック企業になれる
アルダへの入社から約1年が経ち、これまでの成果を100点満点で評価するならば80点くらいだと考えています。ポジティブに「120点!」と言いたい気持ちもありますが、まだ改善の余地がありますからね。
残りの20点については、理想とする状態にまだ到達していない部分があります。例えば、在庫管理システムや発注管理システムのDXは、グループ間での調整や業者との調整に時間がかかり、思うように進んでいない面があります。会社の事情を把握し、それに合わせていく過程で時間を要している部分もあります。
ただ、やりたいことはすべてリストアップし、多くの施策に着手できています。マーケティング施策などは人員不足で遅れていましたが、人材も加わり、ようやく全てのプロジェクトに手をつけられるようになってきました。ここからさらに、実現できることは増えていく一方でしょう。その点では、まだまだ、日本の獣医療を変えるためのメンバーが必要です。
まず、獣医療の観点から見ると、私は「七人の侍」を集めたいと考えています。自ら主体となって変革を起こす原動力となる、若手から中堅どころのメンバーですね。すでに数名は揃ってきていますが、彼らと一緒に「日本の獣医療を変えた」と言えるような、真の意味での「侍」が欲しいですね。
企画メンバーとしては、論理的思考力をもとに自ら課題を発見し、その解決に向けて努力し続けられる人材を求めています。アルダの価値観の一つである「インテグリティ」を体現し、自律的に行動できる人が理想です。自ら課題を見つけ、発信し、行動を起こせる人材ならば、活躍できる環境がここにはあります。
今後の私の役割としては、動物病院のグループ化におけるシナジー効果の創出と、バリューアップのスピードアップが重要だと考えています。さらに、国内だけでなくインドやベトナムなどアジア全体への展開、B2C事業の立ち上げなど、新たな領域への挑戦も進行中です。
1つの企業や、1つの病院だけでは、絶対にできないようなこと。
それが現在のアルダでは実現可能になりつつあります。アルダで過ごす日々で、私の夢は着実に近づきつつあります。
例えば、「アルダ Vet360」が優れた製品に進化していく過程や、新しいプロジェクトをはじめる際のチームの迅速な対応を見ていると、アルダがアジアNo.1のヘルステック・ペットテック企業になれる、という確信が持てるようになりました。
「こうしたい」と思っていたことが、「このメンバーなら実現できる」という確信に変わってきているんです。
A'ALDAのカルチャーがわかるスライドはこちら
全方位で、新たな仲間との出会いを心待ちにしています!
(文・構成/長谷川賢人)