金曜の夜、酔っぱらい千鳥足女と私の5秒間
前から、いかにも今晩ヤります風な男女が歩いてくる。
会話をしながら、女は白いハイヒールを履いて千鳥足で、男は女の腰に軽く手を添えつつニンマリと、女の顔を覗き込みながら歩いている。
私は女の顔を見る。
亜麻色の髪の乙女ばりのさらさらロングヘア。
水色のふんわりとしたワンピースの上に白いカーディガンを羽織っている。頬がほんのりと赤い。
てとてとと、口が回らない中、一生懸命喋る女。
はっきり言おう。
これ100%、演技だかんね!
はいはい、これ系っすか!
私は心得る。精いっぱいの偏見をもって女を見つめる。
「私は騙されねーかんな!!」
そんな眼差しを女に向ける。
すれ違うまであと5秒。
エセ千鳥足女を見届けようというプライドの元、女から目を離さない。あわよくば私の偏見の目に気づき、羞恥を味わってほしい。そうこれは世直し。
そのときだった。
エセ千鳥足女も私を見てきた。
目が合う。
試合開始のゴングが聞こえる・・・
4秒・・・
3秒・・・
2秒・・・
お互い一歩も譲らず、目を離さない・・・
1秒・・・
すれ違う。
女が視界から消える。
視界ギリギリまで、お互い目を離さなかった。
···ドロー?
おもわず振り返った。
女は相変わらずの千鳥足、男は腰に手を当てまま、下心に満ち満ちた顔で女を除き込んでいる。
エセ千鳥足女との今晩の楽しみを妄想している間、何が起きていたか男が知る由もない。
彼女の、2023年8月4日(金)の千鳥足が嘘だと気づいたこの世でたった一人の人間は、私だ。
あの目を忘れまい。
それはそれは自信に満ちた目付き。
今からヤルのよ、という勝ち誇った微笑。
格下の女を見る蔑みの目・・・、
私はあの目を反芻しながら、コンビニで鬼レモンを買って帰宅したのだ。
鬼レモンの酸っぱさと今日の闘いはなんだか似ていた。