思い出横丁ぶらつく桃沢さん
新宿でライブを終え、寒気立つ夜へと放り出された。
無表情な高い建物を見上げて年の瀬を思う。
桃沢さんと歩く新宿西口。肌触りが硬い冬の空気に吐く息が白く澄んでいく。
思い出横丁の店に行こうかと、ガード沿いをめざす。提灯が張り巡らされた細い路地をさまよう。
この場所の過去を知らない自分なのに、懐かしいなぁと自惚れて、昔の自分なんかを思い出したりしてみる。たった4,5年前のことだった。
一度行ったことのある二階建てのもつ焼き屋に入店。階段を上る。
寒さが張り付く窓から電車の急ぐ線路が見える。新宿大ガードの先。
四角く切り取れた景色を最初のつまみにする。
狭い店内に、活発な声で賑わう忘年会らしき団体。一年間の疲労と高揚で煮え返っていた。
飲み物を注文して、さっそく一服。
金色と白のコントラストが美しいビールジョッキを持ち上げる。
優しい泡と爽やかな苦味が喉を越す。
桃沢さんの「一生うまい」という一言。ひょっとして深すぎる言葉かもしれない。
しばしメニュー表を旋回するも、結局は安定のメニューに着地することになる。もつ煮、コロッケ、串焼きなどを注文する。
空腹ほどではないが、安定もまた最高の調味料。
開始が遅い時間だったので、3杯を飲み干し、ぼちぼち終電の時間。
会計を済ませて席を立つ。椅子の上に残っていた黒いキャップ。見事なまでに忘れ物をしていく桃沢さん。
店を出て線路下の道でさりげなく差し上げる。
足早に歩を進め「一年中星野と一緒にいたなぁ」と言われる。
確かに今年は一緒にいる機会が多かった。
当日に約束してたまたま飲んでいた日が誕生日だった時は普通に引かれた。
来年やりたいことなどを聞いて別れる。
その2日後に、新宿の喫茶店でまた会うことになる。
コーヒーをすすり、銀色の灰皿を吸い殻で埋めていく。
今年は誕生日とクリスマスを一緒に過ごした相手になってしまった。