ありふれた村松の平穏
西武新宿駅で村松と待ち合わせる。
ひんやりした空気に身震いする21時。
時間通り改札に向かうと、相変わらず彼はそこにいない。
念のため連絡を入れると「喫煙所あたり」にいるとのこと。かろうじて西武新宿駅ではある。
喫煙所へ向かう。
向かう途中、ネオンの光がまぶしい道辺で村松を発見した。
そこは「喫煙所あたり」でもなかった。
訳を考えるも、おそらくそこに思考はない。彼の頭の中に平穏な時が流れる。
大ガードをくぐり、思い出横丁の赤提灯に吸い寄せられる。
カウンターに着いてビールを注文。
体内を通っていく1週間ぶりのアルコール。
冷えた琥珀色を一気に投入する。脚色を入れるならば1口で飲み干した。
間もなくして2杯目を頼むが、それに口をつける前に腹痛に襲われ、あっけなく卓を離れる。
息を吹き返して席に着き、「刺激が強すぎた」と本人の供述。
話し出す前にまた一口。
タバコの箱とお手拭きを使って、包茎手術の説明をする。わかりにくくはないその解説に、合間を縫って相槌を打った。
言葉を終えて気持ち良さそうにまたビールに口をつける。
1軒目を切り上げ、やはり思い出横丁のお店に入る。
ジョッキを捕まえて、ハイボールを流し込む。
店内に流れるCCRの曲に合わせて体を揺らす。タイトル通り「Up Around the Bend」状態。
救急車で緊急搬送された話が、余談であるかのように小気味よく語る。
包茎手術の次は喉ちんこが腫れた話で、突起から来る災いの多さに同情を覚えた。
本人が笑顔なので、事なきを得る。
表情を変えぬままタバコに火を点ける。白い突起が先端から萎えていった。
相も変わらず美味そうに酒とタバコが進み、時折つまみに手を伸ばす。
紙で巻かれた葉っぱは名残惜しそうに燃え尽きていった。
閉店時間に合わせて、宴はたけなわ。
寒空の下、身一つでネオン街に放たれた。大都会の交差点で村松と別れて帰路に着く。
久しぶりにアルコールが入り、いささか浮ついた背中を見送る。
禁酒の荷を下ろした無防備な人間の脳内を想像した。
やはりそこに思考はなく、また平穏な時が流れていた。