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静かに溶かす藤田さん
昼の用事を終え、藤田さんと待ち合わせる。
絶え間なく人が行き交う中目黒。
「ロスト・イン・トランスレーション」という映画で、スカーレット・ヨハンソンとビル・マーレーがこの高架下を駆けていった。その時の肩の風を想像する。前髪が揺れた。
当時のお店とその頃の模様はほとんど失っていて、わずかばかり寂しい気持ちがする。
身軽な藤田さんがあっけらかんと登場する。
「今日新ネタライブなんだよ」とこぼし、「やれやれ」が似合いそうな顔つきで苦笑いを浮かべていた。
「恵比寿まで歩こうか」と目黒川を越え、駒沢通りを行く。
途中にある喫煙所で一服。
明後日から1年間禁煙する人間の身振りには見えず、おかしかった。
健康のためだとか、誰かに言われたなどということではなく、願掛けとして自分に規制をかけるらしい。
2日後、渥美清さんが訪れたことで有名な小野照崎神社に行って、タバコを断つという。
ところでこの神社は、文鳥絵馬が実にほのぼのとしていて愛くるしいので、願掛けの断ち祈願よりも効力があるんじゃないかと思い浮かべる。
缶コーヒーのプルタブを鳴らし、葉っぱに火をつける。
カフェインと同時に、煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
こんなにうまそうな一服を持ち合わせている人間が、2日後にはそれを手放しているという後々がにわかには信じ難い。
昼過ぎのバーで、アイスコーヒーの氷を静かに溶かしながら、再度煙を吐き出す。
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相方の話をする際に不要な照れがなくて清々しい。
語り口は軽いが、内容は決して軽薄ではなく、心の奥にすとんと落ちる。
氷が形をなくす前に、色の薄まったコーヒーを飲み干し、言葉を続ける。
夏頃、単独ライブの稽古終わりに、新作のハーモニカ2人と、3人で飲ませてもらったことがあった。
一緒にお酒を飲むのが5年ぶりであった2人だが、昨日飲んでいて、また明日もひっかけようかというような具合に馴染んでいた。
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話を終え、もう2,3本タバコを楽しみ「これからネタ合わせだ」とバーを出る。
代官山まで2人でふらふらとほっつき、駅に着く。
改札内で別れ、反対車線へ向かう藤田さんを見送る。
身軽な背中が東急線のホームへと、また静かに流れていった。
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![酒とタバコと暇つぶしと…(星野佳人)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/95062412/profile_787b78c0cc4b5b08bb098d71fdb9e264.png?width=600&crop=1:1,smart)